12指導+《tutOrial》=同士
「(お兄ちゃん!……もう!私と代わって!)」
俺を押しのけ通気窓から中を覗く麗佳。
だから、あからさまに俺の背中に胸とか押し付けるのを止めて貰えないだろうか……。
「(よっと……。……んん?お兄ちゃん……あれって……)」
期待していたのとは違っただろう、麗佳よ。
端から見れば寝ながら音楽聴いている様にしか見えな……。
「え?なに?心中!?お兄ちゃん!助けなきゃ!!」
通気窓を大きく開け中に飛び込んで行った麗佳。
なにその発想力。
お兄ちゃんは付いていけません……。
・・・
数分後。
「……ん……」
「目を覚ましたよ!お兄ちゃん!だ…大丈夫ですかっ!」
「……あれ?まだ『90分』も経っていないよね……。……あれ?あなた達は……?」
二人の学生を揺り起こした麗佳。
……今、こっちの女の子……『90分』って言ったよな……。
という事はやっぱり……。
「……はあぁ…良かったぁ……。こんな鍵の閉まった体育倉庫なんかで二人して横になっているから……私、親の反対を押し切って恋に落ちた二人が遂に耐えられなくなって心中しようとしていたのかと……」
……お前さっき『体位はっ!?』とか叫んでなかったっけ……。
「……すいませんっす。俺の妹が早とちりをしちまったみたいで……」
取り敢えず謝る俺。
麗佳は横の女子学生といきなり楽しそうにくっちゃべってるし……。
「ああ……成る程。端から見れば、そういう風に映らなくもないのかな……なぁ、ピナ?」
「ふふ……面白いわね、麗佳ちゃんって…。……え?あ、何か言った?サキチ君?」
「……お喋りに華が咲いて結構……」
ちょっと頭を抱えてそう言った男子学生はサキチと名乗った。
もう一人の女学生はピナというらしい。
「君達は他校の生徒だよね?悪かったね、変な所をお見せして……」
サキチと名乗った少年はバツの悪そうな顔をして俺に話し掛けてくる。
……一応、聞いてみるか……。
話に華を咲かせている女子二人をよそに、俺はサキチに小声で話しかける。
「(いや、こっちこそ邪魔して悪かったよ。……ちなみに、それ、俺も持ってるんだけど、『夢の世界』で遊べるゲームだよな?)」
俺はマットの上に置かれているウォークマンを指差した。
「(……へぇ、こりゃ驚いた。君も『アトラクタの箱』を探す『記憶の探索者』ってわけかい?)」
「……?」
……いきなり話が噛み合ってなくね?
え?なに?何の箱だって?記憶?探索?ナニソレ?
「(……その様子だと、君、初心者?)」
「(……はあ……)」
初心者?
……てことはベテランさんとかが居るっていう表現か?
え?もしかして結構有名なゲームだったりすんのコレ?
「(……まったく……ピナといい、君といい……。あの『夢の世界』の『意味』を知らずに『潜入』する人間が多過ぎやしないか最近は……)」
なんか文句言い始めましたよサキチさん。
仕方ねぇじゃん……。アキバのジャンクショップに投売りされてたのを買って来ちまった俺に罪はネェ。たぶん。
………あ。
ていうかもしかして、二人で体育倉庫で『ダイブ』しようとしていたのって……。
「(なあ、ここでその機械を使って夢に入ろうとしていたのって、ピナって子に『夢の世界』をレクチャーする為だったのか?)」
それならば人気の無い、静かな所で、しかも二人で同時に『ダイブ』しようとしていたのにも説明が付く。
ていうか通信プレイも出来たの?このゲーム?
「(へぇ、君、結構頭の回転が速いね…。あ、名前、教えて貰えるかな?)」
「(アオイだ。南高の2年)」
「(じゃあ俺達と同級生だな。携帯のアドレス教えて貰える?今度俺が『夢の世界』の事を教えるよ)」
「(まじかっ!それ超助かる!)」
俺は携帯を取り出しサキチと赤外線通信を始める。
「……お兄ちゃん?何さっきから男同士でコソコソ話とかしてるの?麗佳達も混ぜてよぅ!」
いつの間にか俺達の会話に聞き耳を立てていた麗佳が割り込もうとする。
「駄目だよ、麗佳ちゃん。今二人は大事な密会の相談をしている所なんだから」
「……ピナ。どうして君はそんなにニヤニヤしてこっちを見ている?それに『密会』って表現は止めてもらえるかな……」
声を殺して笑うピナ。
麗佳もつられて笑っている。
そんな姿に俺も苦笑してしまう。
「……これでよし。今度、時間がある時に連絡するよ。まずはこの出来の悪いお嬢さんの方からレクチャーしなくてはいけなくてね……」
「ああ、言ったなサキチ君!」
「?ねえねえ!何の話?麗佳も混ぜて!」
そんなこんなで仲良くなっちまった俺達4人。
その後、二人に学校を案内され十二分に学園祭を楽しみ、帰宅した俺ら。
◆◇◆◇
その週の日曜日。
約束通りサキチからの連絡を受け取った俺は、南高の例の体育倉庫で落ち合う事に。
てか何でここなの?
勝手に入ったらヤバイんじゃね?
「お、アオイ、早いね。……じゃあ、早速潜ってみようか」
数分の雑談の後、俺とサキチはマットに横になり『ダイブ』を開始する。
初の通信プレイ。……てか『通信プレイ』とは呼ばないらしいけど……。
プレイボタンを押し、いつもの音楽が流れ出す。
そして夢の中へと吸い込まれる俺達。
この数日間、何度かサキチとメールのやり取りをしていた俺。
そのメールのお陰でかなりこの『夢の世界』について知る事が出来た。
一番重要な『目的』。
この『夢の世界』へのダイブでの最終目標。
それは『記憶の断片』が収められているという『アトラクタの箱』を探し出す事。
正直、最初の方はサキチのメールの内容が全く理解出来なかった俺。
でも今なら分る。
サキチの、あの一言で俺はこの『夢』に『ダイブ』する理由を見付けた。
『君は、忘れてしまった過去の記憶を取り戻したくはないかい?』
この言葉は俺の心を鷲掴みにした。
何故なら俺は。
―――幼少期の記憶がほとんど残っていなかったから。