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喪失夢幻のアトラクタ  作者: 木原ゆう
第一章 真性異言のヘミシンク
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01始動+《ActivaTion》=童子


「今日はここまで。お前らちゃんと今までの所を復習しておくんだぞ。ここテストに出すからな」


 ええーー?、とブーイングに沸く教室。

 俺も皆と混ざり、いつものように用意万端な笑顔の仮面を付けている。


「おい、八神?今日ゲーセン寄ってかねぇ?成瀬達も今日は付き合うって言ってるしよぉ?」


 授業が終わった開放感からか、飯島が隣の席の机の上で胡坐をかきながら俺に声を掛けてくる。


「あー……俺、今日はパス。悪ぃな。また誘って?」


「何だよ八神……。お前昨日も誘い断ったじゃねえかよ…。何だ?もしかしてこれか?」


 飯島が悪い笑みを浮かべながら小指を立てる。


「お前な……。俺達の嫁は二次元にしか存在しねぇだろうがよ」


 俺は机の横に掛けてある鞄に教科書を仕舞い、帰り支度をする。


「あ?それ言っちゃう?俺達『ザ・童貞怪奇ファイル』のメンバーとしての条件?」


「……何だよそれ……今それ、初めて聞いたよ俺……」


 どうせいつものおふざけだろう。

 俺は机の中に忘れ物が無いかを確認する。


「条件1、童貞である事!条件2、三次元の女には興味が無い事!条件3、二次元の嫁は常に5人以上いる事!」


 ……うん。悔しいが全部当てはまっているな、俺……。


「でもさあ、八神。俺いつも思うんだけどよー。お前あんなに可愛い妹がいて、良く家で美少女ゲームとか平気でやれるよなあ…。俺だったら絶対に恥ずかしくて出来ねぇけどなぁ……」


 最近飯島は俺の妹……麗佳れいかの事ばかりを話題にしたがる傾向にある。

 確かに背も小さくてツインテールの似合う今時の中学3年生って感じはするが、最近俺を見る目が『男を見るような目』……とでも言うのだろうか。

 何かと軽い接触がある度に頬を赤く染められたりすると、正直やりずらい。生活全般的に。

 小さい頃はそんな事は全然無かった……と思うんだけど。


「……別に平気でやってる訳じゃねえけどな…。それに、うちはそんなに裕福じゃねぇから未だに部屋が一緒ってのもあるし……」


「まじかあああ!!!そ、それは初耳だぞ八神いいいいい!!!!」


 教室中から視線が集まる

 おいおい……ボリューム、飯島。


「(お前には関係ねぇだろ……!とにかく俺は今日は帰るからな!それと妹に手ぇ出したらぶっ殺す!)」


「(………近親相姦……乙!)」


 ぱこん、と手に丸めた最後の教科書を飯島の頭に喰らわせた俺は、まだ何か言いたそうな飯島に片手を挙げ教室を後にする。






◆◇◆◇






 秋葉原駅。


 ここは平日だろうと祝日だろうと変わらずに人でごった返している駅。

 いつものうるさい客寄せの兄ちゃんの声を無視し、俺はいつもの電気街へと足を進める。

 中学、高校と最寄の駅が秋葉原だった俺は、自然とオタク人間に成長。

 この街に住んでいてオタクじゃ無い奴は、もはや非国民。

 ……なんて真面目に話していた飯島と成瀬の顔を思い出し苦笑する俺。

 周りが皆オタクだから俺がオタクでも苛められるような事も無く。

 この街では我が物顔でオタクでも堂々と道を歩く事も出来る。

 やはりここは『聖地』だな。

 そんな当たり前の事を考えながら、ふと店外のワゴンに無造作に置かれている『特価』のシールが雑に張られた機械が目に入る。


(……これ……ウォークマンじゃね?……うわー……まだこんなん売ってる店あったんだー……)


 俺は立ち止まりビニールの袋に雑にテープで止められているウォークマンらしい機械を手に取る。


(……へぇ……これヘッドフォンもセットになってて……この値段って、ジャンク品か何かか……?)


 長い間このワゴンに放置されていたのだろう。

 ビニールも汚れててセロハンテープも黄色く変色し剥がれかかっているような中古品。

 確かに誰も買わねぇよなこれじゃ……。


(……確か麗佳がビジュアル系のCDをいっぱい持ってたよなぁ……。たまにはこういうレトロな機械で音楽を聴くってのも乙なものなのかも知んないな……。なんて)


 激安品だし、見た所最後の一つっぽいそれを手に取り、店内のレジに並ぶ俺。

 まあ……たまにはウケ狙いで麗佳にプレゼントしてやっても面白いかもしれない。一応兄だし、俺。


 会計を終えた俺はまた、掘り出し物を探すため電気街をうろうろした後、秋葉原駅内を通り抜け自宅のある昭和通りへと向かう。


 20分ほど延々と真っ直ぐ歩いた先の信号を右に曲がり、すぐ先にある団地。ここが俺の家。

 さび付いた鉄筋コンクリートの階段を駆け上がり、3階にある自宅前まで到着する。

 あまり団地の住人と顔を合わせたくない俺は、いつも軽い小走りでドアの前まで来てしまう。

 だって面倒臭ぇじゃん。いつもの仮面の笑顔で挨拶すんのって。


「ただいまー」


 鍵を開け玄関に入る俺。

 ……靴が無ぇな。まだ誰も帰って居ないのか…。

 とりあえず靴を脱ぎスリッパに履き替えた俺は鞄をソファに放り投げ台所で手を洗う。

 ふと冷蔵庫の張り紙が目に入る。


「……『蒼椅あおい麗佳れいかへ。お母さんは今日は帰りが遅くなります。お父さんもいつもの時間になると思うので、夕飯は冷蔵庫に入れてあるものを温めて食べてね♪大好き♪ちゅっ♪』……ておい……」


 俺は溜息を吐きながらタオルで手を拭く。

 全く……いつまでも母さんは俺ら兄妹を子供扱いしてくるんだから……。

 俺はメモをそのままにし、放り投げた鞄を持ち、2階の自室へと階段を上がる。


 この団地は子供の居る家庭の為に数十年前に作られた2階がある珍しい団地だ。

 だがしかし。部屋の数があまりにも少なすぎるのが非常に惜しい。

 一階は居間と台所、風呂場とトイレ、そしてベランダ。部屋と呼べるものは居間しかない。

 そして2階は二部屋。ここからはベランダには出れなくて窓がそれぞれついているだけ。

 だから一部屋は父さんと母さんの寝室。

 で、もう一部屋が俺と麗佳の部屋。

 これの一体何処が『子供の居る家庭』の為に作られた団地なのだろうと、何時も俺は思う。


 ……まあいいか。俺の愚痴は。



















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