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銀の月  作者: 鎖綾
真実と嘘
9/10

真名と信愛

**********


きのうもかれはこなかった。


…おとといもかれはこなかった。


…いっしゅうかんまえもこなかった。


…いっかげつまえもこなかった。


わたしはずうっとひとりぼっち。


いつもいつもひとりぼっち。


ひとりになるのはもういやだよ。


わたしをひとりにしないで。


かみさま…おねがい…。


**********


 また、夢を見た。こんどは悲しい夢を。


「ん…んん」


 わたしが目を覚ますとさっきと同じ景色が飛び込んできた。


「「大丈夫かっ」」


 そしてトルさんとエスクの声。


 「ここは…わたしのへや…?」


 「ああそうだ。ソールの奴、今度魔法でギタギタにしてやる…!」


 エスクは怒り狂っている。


 「何があったんだ?ソールの怒り様も、お前の倒れ方も尋常じゃなかったぞ。」


 「分からないんです。あの人に拒絶されると頭と心に激痛が走って…。」


 本当にわからない。ただ一つ関係してるかもしれないのが…


「もしかしたら、過去に何かあったのかもしれません。」


「過去!?」


「はい。倒れる度に不思議な夢を見るんです。男の子と女の子が出てくる夢を。」


 あれはもしかしたら私の過去なのかもしれない。


「うーん…あ、もしかしたら…!ちょっと待ってろ!」


 そういってトルさんはあわてて転移していった。


「…どんな夢を見たのか聞いてもいいか?」


 トルさんが転移した後、エスクが遠慮がちに声をかけてきた。


「うん、いいよ。最初の夢は牢に入っている女の子が外から同い年くらいの男の子に話しかけてる夢。」


「牢…?」


「うん。どっちも顔はよく見えなかったけど。」


 エスクは何かを呟き少し考え込んだ後、「…次は?」と先を促した。


「次の夢は…多分なんだけど、男の子が来なくなって…それで一人になった女の子が神様に祈るの。」


「…………何と言うか…不思議だな。」


 そう。とても不思議な夢だった。


「ふー、あったあった。探すのに手間取ったよ。」


 その時丁度トルさんが帰ってきた。その手に持っていたのは…


「等級を計る魔具?…なんで?」


「昨日、記憶が戻れば魔力も戻るかもしれないって言ったよな?」


 そういえばそんなこともあった気がする。…遠い昔に思えるけど。


「と言う事はだ、もしそれが記憶だったら魔力が戻ってるかもしれないだろう?」


 !…そうか。そうかもしれない…!


「と言う事で物は試しだ。やってみろ。」


 そう促され、わたしが血を垂らすと…


「7になってるな。」


 さっきまで6だった等級が7になっていた。


「増えてる?よな…」


 エスクも驚いている。


「思った通りだ。…本当におまえは不思議な奴だな。」


 心なしかトルさんは苦笑している。


「自分でもそう思います。…わたしは何者なんでしょうか…?」


「…ルークに言われたことは気にしないほうがいい。誰に何を言われようとステラはステラだ。」


 エスクはそういって励ましてくれた。トルさんも、「まあ、魔力は隠しようもない銀なんだから、王族ってことには変わらんだろう。」と励ましだか何だかわからない言葉をかけてくれた。


そしてトルさんは椅子から立ち上がり「今日はゆっくり休め」といいながら部屋から出て行った。


**********


 トルさんの足音が聞こえなくなった直後、エスクに深刻な顔で「私の話を聞いてほしいんだ。聞いてくれるか?」と問いかけてきた。


 深刻な話って何だろう…?


「うん、聞くよ。話って?」


 エスクが話し始めた話はとても嫌で、悲しい話だった。


「私が生まれた村は何百年も前から、ある『研究』をしていた。それは…魔力の高い子供を作る実験だ。」


「!」


「村の中で魔力の高い男女に子供を産ませて、その子供が大きくなるとまた魔力の高い者との間に子供を産ませた。」


「何…それ…」


 エスクは苦笑して、


「ああ、ありえないだろう?…けどそれが村にとって普通だったんだ。…村の人々の魔力はどんどん高くなっていったが、目が見えなかったり行動がおかしくなったり、そんな人が増えて行った。」


 むごい…。そんなことが行われている村があったなんて…。


「私はその中で『最高傑作』だった。…平民のくせに等級が9なんておかしいと思わなかったか?…私はそんな村が嫌だった。逃げ出さないように私もステラと同じで、牢に閉じ込められていたんだ。ずっと。」


「牢…私と同じ…。」


「ああ。13歳になった頃私に子供を産ませるために牢に男と二人にされた。…とても、とても、怖かった。そして、私は…」


 ー魔力を暴走させたんだ。


「私くらい魔力が多い者が暴走させるとかなりの面積が吹っ飛ぶ。…私の村は影も形もなくなったよ。」


「……大変だったね。でももう大丈夫だよ。わたしがついてる。…ええっと…牢仲間?だから…エスクは全然悪くない。」


 エスクが人殺しだって、悪いのはそんな事をした村の人々だ。エスクは自分を守っただけ。


「ステラ…ありがとう。」


 エスクは泣きながらわたしを抱きしめた。そして…


「エスクリヨール。」


「え?」


「私の真名だ。」


 エスクの真名!?


「ステラにだけ教えておく。…私の親愛のあかしだ。」


「わたしも…真名はまだ思い出せてないけど…全部思い出したら絶対に教える。」


「ありがとう。」


「…今日2回も倒れたのに無理をさせた。すまない。…私も疲れたから明日に備えてもう寝るよ。…お休み。」


「お休み」


 そしてエスクは部屋から出て行った。…今日は疲れたけどとても晴れ晴れした気持ちだ。…エスクと友達以上になれたからかなあ。


 …疲れたしもう寝よう。


ーおやすみ

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