第2話 残酷な人生
人間は些細なことで死ぬ。
思いもしない場所で、思いがけない死に方をする事がある。
メイ・ドリアン3世
彼もその一人だった・・・・。
~酒場『新月』の店主side~
昔は伯爵まで上り詰めたこの男も落ちる所まで落ちたな。
今カウンターでいい気分で寝ているこの男も昔は伯爵家の一員として偉そうにしていた時期があった・・・らしい。
らしいと言うのも俺がこの店を始めたときには既にただの酔っ払いだったからである。
人間分からないものだ。
何がどう転ぶかなんて誰にも分からない。
「今日はそれぐらいにしたらどうだ?飲みすぎるとお前はどこだろうと寝ちまうだろ・・・店の中でねられちゃ困るんだよ。」
「今日ぐらいは飲ませろ!!!やっろ・・・やっろ研究が完成したんら!!!」
呂律が回らない口調でメイは叫んだ。
「研究?あぁお前さんがいつも言ってる研究か・・・・」
何を研究してるのか知らないがウチに来ると研究の話を毎回自慢してきていた。
まぁ所詮は酔っ払いの戯言だが・・・。
「すごいらろ?だがまだだ、明日動作確認をしてこそ完成ら。魔力を流して動きませんでしたじゃ話にならないからな・・・。」
「人形かなにかか??」
「いつも言ってるらろ!!!!!!!魔道人形の研究をしてるんら!!!!!」
正直興味が無かったので覚えて居なかった。
たぶん明日になれば俺はまた忘れているだろう。
「誰も私の研究の凄さを分かりゃしない・・。いいさ・・・明日驚かせてや・・るか・・らな・・」
そういってメイはいつものように寝息を立て始めた。
ほんといい迷惑だ。酒場で寝られたらたまったもんじゃない。
これでもウチは繁盛してんだぞ。
次の客を入れなきゃいけないのに・・・。
だが気持ち良さそうに寝ているメイを起こす訳にもいかず、とりあえずメイを寝かせたままにすることにした。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「おい、閉店だぞ。風邪引いちまうぞ!!!」
「あぁ大丈夫だ。」
少しは良いが覚めたのか幾分意識ははっきりしているが歩き方がまだおぼつかない。
「一人で帰れるか?」
「あぁ大丈夫だ。」
・・・・・・同じセリフを繰り返すメイ。
確かに今日はいつもより飲んでいた。
「明日も来てくれるかな?」
「あぁ大丈夫だ。」
「そこは『いいとも!!』って返せよ!!」
・・・・・・正直かなり不安だった。
だが店の片付けもあったしメイもいい大人。
大丈夫だとあの時はなんだかんだで思ってしまった。
それがまさかあんなことになるとは・・・・・
~メイside~
ちょっと飲みすぎたかもしれない。
人形が完成したことに興奮して無理をしすぎたかもしれない。
おぼつかない足取りでフラフラと家に帰る。
『グサッ』
最初は何の音か分からなかった。
腹部から飛び出す剣の先を見るまでは・・・・・
「がはっ!!!!」
口から大量に血が飛び出る。
死ぬことよりも、やっと完成した人形が動く姿が見れないことがいやだった。
誰に刺されたとかどうでも良かった・・・・・
ただ一目見たかった。
自分の研究の成果を・・・・
自分の半生の結果を・・・・
膝を折り地面に倒れる。
「・・・・哀れなもんだ・・・。」
その時メイは思った。
父上から領主の権限を貰った時、私はいくつもの村を滅ぼした。
故意にやった訳じゃないが結果的にはたくさんの命が消えた。
・・・・その天罰が下ったのではないか?
領主の息子なら民のことを考え政治や土地を治める知識を小さい頃から学ぶべきではなかったのか?
私は若い頃からずっと魔道人形一筋だった。
民のことなど父上が亡くなってから初めて考えた。
「・・・・・・・・・死にたく・・・ない・・。」
それでも生きたかった。
死にたく無かった。
そんな自分勝手な自分がいやだった・・・・。
しかし人生は残酷である。
まぶたが重くなり目を閉じる・・・・。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
それ以降メイ・ドリアン三世の姿を見たものはいなかった。
死体は発見されなかったと言う。