ある日の光景
「最近さ」
とある日の放課後。高坂はふと呟いた。一緒にいた数人の男子生徒が、ほぼ同時に高坂に目を向ける。
「村野、付き合い悪くなったよな」
中には最近という言葉にうまく頷けない者もいたが、幸介の付き合いが悪くなってきたのは事実で、中学からの付き合いがある高坂などは、特にそれを顕著に感じているのだろう。
「そうだな……何か、元気ない様にも見えるし」
とは、中町の言葉。
「木島達もそう思うだろ?」
「うーん……そうだな。まあ、そう感じる事はあるかな」
「俺も」
中町の言葉に頷く木島と広瀬。
「そこまで付き合い長くないからな。そういう時もあるかなって感じではあったけど……お前らがそう言うなら、そうなのかもな」
「村石も感じてはいたんだな」
「ああ」
集まった者全員が、結局は幸介の変化を感じ取っていたという事だ。
「何かあったのかな?」
「……多分」
一瞬沈黙する一同。
「……もしかして」
ゴクリ。
高坂が言いかけると、全員が息を呑んだ。
「恋でもしてるんじゃないか?」
「ま、まさか……」
「そんなキャラじゃないって」
「だよな?」
皆から高坂の言葉が否定だれる。結構酷い扱いだ。
「でも、もしかしたらさ……」
「…………」
どうやら高坂は、幸介恋愛説を押したいらしい。
その言葉に、一同も何となくそうではないか、と思えてくる。
「少し、探りを入れてみよう」
「任せたぞ、高坂」
「え? 俺がかよ?」
「頼んだぞ。言いだしっぺ」
「くっ……わかった。やってみる」
「ま、俺達も協力はするさ」
と、一致団結(?)し、一同はその日は解散する事になった。
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「最近さ」
とある日の放課後。数人の女子が集まり、談笑にいそしんでいた。
そんな中、一人の少女がふと呟いた。
「綾瀬さん。ちょっと変わったよね?」
「あ、うんうん。あたしも思ってた」
「話しかけたら、ちゃんと返事もしてくれたし。相変わらず、無愛想ではあったけど」
「何か、ようやく打ち解けてきたって感じかな?」
「どうなんだろうねぇ……」
こんな会話をしているのは、皆遼とは中学の違う者達だ。
彼女達は知らない。この遼の変化が、どれだけ奇異な事であるかを。彼女達は知らない。この遼の変化が、幸介の存在によるモノだという事を。
「何か、あったのかな?」
「って言うか、何かあったとしか思えないでしょ?」
「あ、それもそうか」
「やっぱり、女を変えるって言ったら……恋?」
ポカッ。
「いたい……」
「いたい……じゃないわよ。あんたの頭、単純すぎ」
「でも、あたしはそうだと思うんだけどなぁ」
「何にせよ、良い変化だと思うわよ」
「そうだねぇ」
それで、遼についての会話は終わりだった。また違う話に花を咲かせ、彼女達はしばらく談笑を続けた。