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 ある年の春。毎年どこでも行われる入学式。それは、卒業という別れを経験した後に訪れる出会いの場。

 私立秀栄高校。その校舎を少し前に卒業したばかりの生徒が一人、入学式に参加するわけでもなく訪れていた。


「何だか懐かしいな」


 それは、少しおかしな気持ち。まだ卒業して何ヶ月と経ったわけでもないのに、ひどく懐かしく思える。


「ああ、そうか……」


 なぜ懐かしく思えるのか。それは、既に通う事のなくなった校舎に感じているのではなく、二度と感じる事のない〝高校生活〟という空気に感じているのかもしれない。

 そんな答えに達する。

 

 体育館から、入学式を執り行う声が聞こえてくる。マイク越しの声が、最早〝言葉〟として判断出来ない〝音〟として漏れてくるのだ。

 そんな体育館を校舎前から眺めていると、背後から誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた。

 それが誰だかわかっているから、あえて振り返らない。


「幸介」


 名前を呼ばれるまで――そう思っていたら、直ぐに名前を呼ばれ、幸介と呼ばれたその卒業生は振り返った。


「遅かったな?」


「そう?」


 幸介が振り返った先に立っていたのは、腰程まで伸ばした長い黒髪の少女。否――少女から大人の女へと変わりつつある、そんな雰囲気を持つ女性。

 彼女も、幸介と同級の卒業生だ。

 少しだけ気の強そうなその瞳が、今は優しく微笑みを浮かべている。それは、紛れもなく幸介に向けられた笑みだ。だから、幸介も表情を和らげる。


「遼……少し見ないうちに、綺麗になったな」


「な、何言ってるのよっ」


 遼と呼ばれたその女性は、いきなりの言葉に慌てふためく。


「いや、本気で言ってるんだけど」


 真剣な表情の幸介の言葉に、遼は思わず頬を赤らめ俯いてしまう。


「さて」


 そんな遼の様子をどこか嬉しそうに見つめながら、幸介は言葉を切り出した。


「それじゃあ、お互いに報告しようか? その為に、こうして約束してたんだしな」


 そう。この二人は、約束してこの場所に集まった。それは、幸介の先の言葉からも読み取れる。

 では、どんな約束を交わしたのかと言えば……


「せーので言うぞ? せーの」


『合格』


 二人の言葉が、静かに重なった。合格。その言葉が意味する事。それは、二人の進学先について他ならない。

 

 二人は、同じ大学を受験する事にし、学校以外で会う事も少なくなっていた。

 一緒に勉強をするという選択肢は選ばれず、二人別々に勉強して、それでも一緒に合格しよう。そんな約束を交わした。

 そして、結果を発表するのは、卒業した高校の入学式の場で。それまでは、会わない様にと。会えないからこそ、会いたいと思う気持ちで頑張れる。そう思っての事だった。

 結果は、先の二人の言葉通り。


「入学式、一緒に行こうね?」


「ああ」


 高校生活で培った二人の絆は、こうして続いていく。

 大学生活。そして、きっとその先も――



 【独り】を好む少女がいた。

 【独り】を嫌う少年がいた。

 二人が出会った時、お互いに惹かれ合い……

 

 恋に落ちた。


 少女は【独り】ではなくなり、少年は何よりも大切なモノを手に入れた。

 人と人の心には、きっといくつもの壁がある。それは人が唯一ではなく、人の数だけ思考があるから。だけど、その壁に越えられないものなどない。人と人は、分かり合える存在だから。

 言葉を遣い、気持ちを伝え、通じ合える。そんな存在だから。

 人と人は、心の中でつながっている。

 少なくとも、村野 幸介と綾瀬 遼の二人は――

 誰よりも、強い絆で結ばれている――



 The End.

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