友達
晴れ。今日の天気を現すのなら、まさしく晴れそのものだった。白い雲が穏やかに流れ、うららかな日差しが教室に差し込む。一見平和の風景。いや、実際に平和と言える。ただ、心穏やかではいられない者が数名いるだけだ。
そのうちの一人である高坂は、授業中もずっと物思いに耽っている。何を考えているのかと言えば、それは村石と何を話すのかという事。一度違えた仲を、修復する為にはどうすればいいのか。それは幸介も悩んできた事であり、未だ答えを出せていない。高坂も同じく、明確な答えを得る事は出来ない。それでも、諦めるつもりなどなかった。仲を違えた理由が、一方的なモノだったからこそ余計に、このまま終わらせたくはなかったのだ。
又、幸介も頭を悩ませていた。高坂と村石の話し合いに立ち会う。そう決めて、キッカケを掴んだに過ぎないまま、明確な打開策を得られず、ずっと悩んでいる。
(なる様にしかならないよな)
結局は、そんな結論に至る。自分が思っている事、考えている事。それらをぶつける他に、手などないのだ。そう頭を切り替えて、幸介は約束の放課後まではきちんと授業を受ける事にした。
○――――――――――――――――――――○
昼休み。
幸介は遼を誘って、中庭へとやってきていた。
何の為か――勿論、昼食を一緒に食べる為だ。
「珍しいね」
「何が?」
遼の呟きに、幸介は首を傾げた。
「幸介が、こうしてお弁当に誘ってくれるなんて」
「そうか?」
「そうよ。特に、ここ最近は」
少しだけうらめしそうに言う遼に、幸介は頭を掻いてごまかす。
「そんな事ないと思うぞ」
「そんな事あります」
変に敬語を遣い、幸介をたじらせる遼。幸介に対してはいつも受身な遼にしては珍しく、対等な関係に見える。実際、二人は対等な関係なのだから、何もおかしな事はない。幸介も遼も、その関係を自然と受け入れている。
「そうだな……ここの所、色々とあってさ……確かに、あんまり綾瀬と話せてなかったかもしれない。だからかな。何か、少しでも一緒にいたくなったんだ」
何の臆面もなくそう言う幸介。遼は、思わず赤面して俯いてしまう。しかし、それは心地良いもので――
嬉しくて、顔が綻ぶ。
「明日からは、もっと頻繁にこうやって飯食いたいな」
「うん」
それは、約束という程のものではない。
それでも、二人にとっては大事な会話であり、小さな約束でもあった……
○――――――――――――――――――――○
その日の放課後。
幸介、村石、高坂の3人は、屋上へとやってきていた。その場をしばらく支配していたのは、無言。誰一人として、すぐに切り出すことは出来なかった。それでも、幸介がやっとの思いで口を開く。
「何で集まったのか、分かってると思うけど……」
それは、どちらに向けた言葉でもない。自分に確認する様に、小さく呟いた言葉。それでも、二人共幸介へと視線を向けた。
「高坂」
「…………」
「言いたい事が、あるんだろ?」
何かを諭す様に、しっかりとした口調で言う幸介。高坂は頷き、村石へと向き直る。
「村石」
「……何だよ?」
「俺さ。色々、何をどう言おうかって悩んだけど、結局は答えは出なかった。だから、俺は正直に自分の気持ちを伝えようと思う」
真剣な面持ちの高坂。村石は唾を呑み込み、言葉の続きを待つ。
「俺は、村石の事を友達だと思ってる。たとえ、村石が俺の事を嫌いでも。昔の事なんて関係ない。お互いの事を知るなんて限度があるんだから、いくらだって追いつける。だから気にするなよ。また、仲良くやろうぜ」
「高坂……悪かった。俺、色々引きずってたからさ……これから直ぐにってわけにはいかないだろうけど、極力意識しない様にする。俺達は友達なんだって、しっかりと分かっていく。だから、これからもよろしくな」
「おぅ!」
大仰に頷き、右手を差し出す高坂。村石はその手を取り、二人は手を交わす。一つの友情が、再び交わされた。きっと前以上に強固な絆となって、これから先楽しい事が続いていくはず。まだ見ぬ未来に期待を抱きながら、交わしていた手を離す。
「それじゃあ、これから3人でどっか行くか!」
「いいねぇ! どこ行く?」
「ゲーセン行こうぜ。この前新台入ってたんだよ」
「よし。んじゃ、決定だな」
それは日常の一コマ。友情という絆で結ばれた者達が交わす、平凡な会話。きっとこれからも続いていく、平穏な日常……