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解決への糸口

「霧島」


 村石から相談を受けた翌日の昼休み、幸介は優子に声をかけていた。


「ん? 何か用かな?」


「用があるから話しかけたんだけど」


「そうでしょうねぇ」


 からかう様な口調で、けらけらと笑いながら言う優子。


「マジメな話なんだけど……ちょっと抜けられるか?」


「……いいよ」


 幸介の雰囲気を察して、優子は真顔で頷く。

 優子は遼の様子を一瞬見たが、特に気にした様子はなかった。


(信頼されてるのかな)


 などと、自惚れてみる。


(あ。信頼されてるのは村野君か)


 が、すぐにそう思い直した。


「で、どこに行くの?」


「あんまり人がいない方がいいな……裏庭とか」


「じゃ、裏庭に行ってみようか」


「悪いな」


「いいえ」



○――――――――――――――――――――○



「で、話って何?」


 裏庭に着くなり、さっさと本題を切り出す優子。意外とサバサバした性格だ。


「実は、村石の事なんだけど……」


「村石君? 村石君がどうかしたの?」


 意外な言葉に、優子は一瞬呆気に取られた。しかし、すぐに幸介に聞き返した。


「あいつ、最近皆の事避けてるって思わないか?」


「うーん……言われてみれば、そうかもねぇ。あたしは特に気にしてなかったけど」


「実は俺もだ」


「どういう事?」


 幸介の言葉に、思わず呆れ混じりに聞き返す優子。


「村石自身から相談されたんだ。あいつ、高坂達とケンカしたらしくて……それから、他の連中とも距離を置く様になったって……」


「んー。何だか、あんまり話が読めないんだけど?」


「悪い。俺も、何だか混乱してる……」


 幸介は、自分が情けなく思えてならなかった。

 うまく言葉をまとめる事が出来ず、うまく言葉を伝える事が出来ず……


「俺さ」


「うん」


「あいつに、頼まれたんだ。何とかして欲しいって。でも、俺あいつの事何も知らなかったんだなぁ。って感じるだけで、何も解決策が浮かばなかった。だから……」


「村石君について、何か知らないかって事?」


「ああ」


「うーん……あたし、別に情報通っていうわけじゃないんだけどね……」


 と、苦笑する優子。


「あ。確か、中学卒業してからこっちに引っ越してきたんじゃなかったっけ?」


「え? そうなのか?」


「うん。誰かから聞いた覚えがあるよ」


「そうか……ありがとう」


「うぅん。ごめんね。大した力になれなくて」


「いいや。それだけでも十分だよ。ありがとう」


 

 キーンコーンカーンコーン。


 そこで、昼休みを終えるチャイムが鳴った。


「戻るか」


「そうだね」


 二人は、やや早い足取りで教室へと向かった。



 幸介は、移動しながらも思案していた。

 村石が皆と距離を置く理由。一人、違う地からやってきたという事実。

 何かが、幸介の中で繋がった気がしてた……



○――――――――――――――――――――○



「話がある」


 その日の放課後、幸介は木島をそう言って呼び出していた。

 声をかけたのは放課後になって直ぐ。人気がなくなるの待ちたいからと、少し時間を潰してくれと頼んであった。

 時計の短針はもうすぐ5を差そうとしている。


(そろそろか)


 5時になったら、屋上に来てくれ。そう言ってあるので、幸介は少し前に屋上にやってきていた。今は、木島がやって来るのを待つばかりである。


 ガチャリ。


 屋上と屋内を隔てるドアが開かれる音が響く。

 屋上には幸介以外に人はおらず、その音がやけに大きく響いた様に聞こえた。

 屋上にやってきたのは、木島裕二。幸介が呼び出した本人だった。


「待たせたな」


「そんな事はないぞ」


「わかってる。社交辞令ってヤツだ」


「……そうか」


「ああ」


 何となく、重苦しい雰囲気。それは幸介も木島も望むものではなかったが、これから話す内容が明るい事ではないのを物語っている。どちらからも、その雰囲気を壊す様な真似はしない。


「それで、どういった用だ? 何となく、予想はつくんだけど」


「村石の事だ」


 幸介は何の捻りも加える事なく、本題へと入った。


「やっぱりか」


 予想していた通りだったらしく、木島は軽く苦笑を漏らす。


「そろそろ。聞いてくるんじゃないかって思ってたんだよ」


「……何があったんだ?」


 少しだけ明るく振舞う木島に対し、それでも真剣に尋ねる幸介。その様子に息を呑み、木島も真剣な顔つきになる。


「大した事じゃない。俺は、そう思うよ。でも、な……本人が、相当気にしてるみたいでさ」


「…………」


「最初はさ。お前が、最近付き合い悪くなってきたって話だったんだ。んで、高坂が〝村野幸介恋愛説〟を説き始めたわけだ」


「は?」


「いや、だから。お前が、恋をしてるんじゃないかって、高坂が言い出したんだよ」


 その言葉で、高坂に投げかけられた質問を思い出す幸介。


 〝お前、好きな娘はいるか?〟


 なぜそんな質問をされたのか、ここにきてわかった。


「聞きに行っただろ?」


「ああ」


「あの時だよ。ケンカしたの……お前の反応をさ、高坂が的確に当てるんだ。いや、ちょっと違うな……お前と高坂って、中学一緒だろ。だから、高坂はお前の事に俺らより詳しくて、お前のあの時の反応を細かく分析してくれたわけだ」


「…………」


「その言い方が気に食わなかったのか、それとも自分が除け者にされたる様に感じたのか……村石のヤツ、すげぇ怒り始めてさ……極めつけが、その分析が結果的に当たってたわけで……村石にしてみれば、面白くなかったんだろうよ。高坂の態度も、自分が皆の事を知らないのも……」


 半分八つ当たりみたいなものだ。と、最後に付け加え、木島は息を吐いた。もう、何も言う事はない。とでも示す様に。


「……そんな事があったのか……」


「ま、そういう事だ。あいつ、一人だけ同中のヤツいないからな。俺から言わせれば、本当に大した事じゃない」


「そうか……わざわざありがとな。こんな時間まで残ってもらって」


「いや、気にするな。村石に、頼まれたんだろ?」


「!」


「何でわかったんだ? って顔してるな」


 そう、苦笑する木島。


「わかるさ、それくらい。付き合いは確かに浅いけど、何となく、それくらいはさ……村石も、気にしなければ良かったんだよ。それぞれに昔の付き合いがあるのは仕方ない事なんだから、こうして少しずつ相手の事を知っていけばいい。それだけの話だ」


「……そう、だな」


「それじゃあ、俺は帰るよ」


「ああ。本当に、ありがとな」


「だから気にすんなって。じゃ、また明日な」


「おぅ」


 そう応えて、幸介は木島が屋上から去って行く背を見送った。

 再び、屋上には幸介一人しかいなくなった。

 風が吹き抜ける。

 夕焼けが広がりつつある。まだ陽は沈まない。

 しかし、何となく夜の空気が近付いてきつつある気がして、幸介も早々に屋上を後にする事にした。

 自分が誰に対し、何をすればいいのか。その答えを見つける為に、幸介は帰路に着いた……

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