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日曜日の出来事

 それはとある土曜日の夜の事。

 幸介は村石から連絡を受けていた。


「どうした?」


『……明日、時間あるか?』


 そう聞かれ、幸介は頭の中の予定表を検索する。


「(明日は、遼とは会う約束してないし……)そうだな。特に用事はないぞ?」


『それじゃあ、明日話したい事があるんだけど……そうだな。正午に、桜台の駅まで来てくれるか?』


「わかった」


『それじゃあ、明日な』


「おぅ」


 電話を切り、部屋に戻る。


(……明日の正午、桜台駅か)


 遅刻しない様にしないとな。

 そんな事を考えながら、少し早い時間だったが、幸介は眠りに着いた……



○――――――――――――――――――――○



「今日は買い物でーす!」


 無闇に高いテンションで、佳乃はそう言った。

 今日は日曜日。特にこれと言って目的があって集まったわけではないが、ウィンドーショッピングでもしよう。という名目で、彼女達はここ、桜台の駅前に集まっていた。

 時刻は午前10時。それが待ち合わせ時間で、一人を除いて全員が集まっている。

 今その場にいるのは、遼と佳乃。聡美と陽子。そして、まだ来ないのは優子。定番化しつつある面子だ。


「でも、まだ優子が来ません……」


 大仰にそう言う佳乃。それはオーバーな振る舞いで、わざとそうしているのがわかる様なモノだ。


「でも、遅れるって連絡あったんでしょう?」


 とは、一人それが理解出来ていない遼の言葉。


「まあね。10分くらい遅れるって」


「そういうとこ、ルーズそうに見えて意外とマジメだもんねー」


「って言うよりも、根がマジメなのよね」


 佳乃の言葉に、聡美と陽子がそう続いた。


「それで、今日はどうするの?」


「適当に回るつもりだけど……」


 遼がふと尋ねると、佳乃が言いかけ、


「お待たせー!」


 人垣を掻き分け、優子が走りながらやって来た。

 何だかんだで5分の遅刻だ。相当急いできたのだろう。ぜぇぜぇと肩で息をしている。


「5分か……まあ、許してあげる」


「……ありが、とう……はぁ……」


 少しの間返事をするのも辛そうだったものの、深呼吸をしたら少しは楽になったらしく、佳乃の言葉にも途切れ途切れながら返した。


「大丈夫?」


「うん……ありがとう、遼」


 やっとの事で復活した優子が、もう一度深呼吸をした。


「かんぜんふっかつ!」


「おめでとう」


 その辺りは付き合いの長い佳乃。いきなりテンションをトップに上げた優子に、冷静に応じる。優子がいない間は自分が盛り上げ役に。優子がいるのなら、自分はストッパー役に。と、佳乃は自分の役所をしっかりと使い分けている。それが、佳乃が佳乃である所以とも言える。


「それで、今日はどうするんだっけ?」


「あんたねぇ……まあいいわ。とりあえず、大通りを歩いてみましょう」


「なんで?」


「ここにボケはいらないわよ?」


「……はーい」


 そんな優子と佳乃のやりとりを見て、苦笑を浮かべる3人。


(平和だな)


 なぜかふと、佳乃はそんな事を思った。

 それがあまりにも日常めいた光景だったからか、それとも――

 自分の心が、昨夜に比べて平穏としていたからなのか……


「あっ。あたし洋服見たいんだけど、いいかな?」


 歩きながら、そう切り出したのは聡美。

 それを否定する者は当然なく、一同はとりあえず近場にある店に足を向ける。


「こういう時って、誰が一番街に詳しいかわかるよね?」


「そう?」


 ふと優子が漏らした言葉に、聡美が聞き返した。


「そんな感じしない?」


「うーん……言われてみれば、そうかもしれない」


「でしょ? そんなわけで、良いお店を知ってる人は、ちゃっちゃと進言しておくよーに!」


「何であんたが仕切るのよっ?」


「あ、佳乃のポジションだったね」


「あんたねぇ……」


 と、皆から小さく笑い声が漏れる。

 遼にとって、それは初めてとも言える楽しさ。

 友達と共有する時間。何か一つの事で、小さな事だけれども、確かに笑っていられる。そんな時間。


「こういうの……いいね」


「ん? どうかした?」


 本当に小さく呟いた遼に、佳乃がそう聞いた。


「何でもない……それじゃあ、私がよく行くお店を紹介します」


『え?』


 遼の言葉に、一同が同時に声をあげた。


「何、その「え?」って……」


「だって、ねぇ?」


「遼からそんな言葉を聞くなんて……」


「意外」


「……まあいいけど」


 と、複雑な表情を浮かべる遼。


「悪い意味じゃないわよ。あんまり、大衆向けの場所には行かなさそうなイメージだったから」


「ああ! つまりマイナーなお店を知ってると?」


「優子。あんた何気に失礼だよ……」


「普通のお店だから。確かに、有名なお店ではないけどね」


 と、苦笑を浮かべる遼。

 そんな空気が、どこかくすぐったくて……

 遼は、もう一度柔らかく笑みを浮かべる。


「それじゃあ、着いて来て?」


 と、先頭を歩く遼。

 いつだったか、こんな風に誰かを先導した事があったな。と、思い出す。

 それは、ある日の休日。初めて、幸介に声をかけられた日。

 その事を思い出し、微かに笑う遼。


「どうしたの?」


「うぅん。何でもない。ただ、楽しいなって思っただけ」


「そう? それは何よりです」


 優子とそんな言葉を交わしながら、一行は遼の行き着け(?)のお店へと向かった……  



○――――――――――――――――――――○



 日曜日。午前11時半。

 幸介は、既に待ち合わせ場所である桜台駅の前へとやってきていた。

 前回の失敗を考え、念の為早めに家を出た所、迷わずに来れたので時間が余ったのだが……


(ま、いっか)


 特に気に留めず、近くのベンチに腰かける幸介。

 村石が来るまで、ぼけぇ~っとしてればいい。そう考え、幸介は言葉通りぼけぇ~っと空を見上げる。


「幸介」


 名前を呼ばれ、幸介は上げていた頭を下げる。


「村石……早いな?」


「お前こそ。それより、悪いな」


「いや、特に用事もなかったし。それじゃあ、どっか行こうか」


「何も聞かないのか?」


「電話してきて、わざわざ会って話したいって言うんだから、それなりに気を遣う内容なんだろ? だったら、こんな所で話せないんじゃないか?」


「まあな……悪い。それじゃあ、とりあえず飯でも食いに行こうぜ」


「そうだな」


 正午に待ち合わせという事で、お互い昼食はとっていない。

 いや、おそらくこういう流れになるであろう事を想定して、食べて来ていないというべきか。

 二人は近くのファーストフードに入り、各々にオーダーを済ませる。

 席は2階。駅前、それも休日の昼時とあって、店内はかなり混雑している。


「こんなんじゃ、食べながらってわけにはいかないよな?」


 幸介の言葉の通り、店内は喧騒に包まれている。とても落ち着いて話が出来る雰囲気ではない。


「いや、逆にこういう感じの方が話しやすい。皆、自分達の話題にしか耳が向かないだろうしな」


「そうか。まあ、村石がそう言うならいいけど」


 そう言いながら、幸介は頼んだ商品に手を伸ばす。それを見て、村石も食べ始めた。

 それから、二人共黙々と食べ、そろそろ終わるかという頃、村石が口を開いた。


「俺さ……高坂達と、ケンカした」


「は?」


「幸介……お前絡みの事でだ。っても、お前が悪いわけじゃないけどな」


「…………」


 突然の言葉に、幸介は何も言う事が出来なかった。

 いや、言葉の意味を正しく理解出来たかどうかさえ怪しい。


「何言ってるんだよ?」


「……多分、お前の事だから気がついてないと思うけどさ……クラスの連中とも、何だかんだでギクシャクしてる。俺から、距離を置いてるんだけどな」


 自嘲気味に呟く村石。

 それは、幸介が――いや、誰もが望まなかった状況。幸介が嫌い、かつて遼の暮らしていた世界……

 独りであるという事。

 遼と村石との違いは、それを望んでいたか否か。望んでいないからこそ、村石は悩んでいる。今、自分が何をすべきかを。

 ただ、素直になる事が出来ずに、じょじょに皆から離れていってしまう現状。

 もしかしたら、幸介なら何か打開策を示してくれるかもしれない。

 なぜか、そう思えたから……


「幸介――お前だから頼めるんだ。お前なら、解決してくれる気がするんだ……自分勝手なのはわかてる。だけど……」


「わかった」


 村石の言葉を遮る様に、幸介は頷いて見せた。その瞳にはもう驚きは残っておらず、ただ決意が宿っている。


「そんなの俺自身が望まないしな。それに、俺にも原因の一端があるみたいだし……何とか、してやるさ」


 その言葉は決して嫌味なモノではなく、決意の証。

 どこか遠くに据えた言葉。


「……ありがとう」


 小さく、泣きそうな声で――

 村石は、そう言った……



 それから、二人は直ぐに別れた。

 遊ぶという気分でもなかったし、お互いに色々と考えたい事がったからだ。

 村石は直ぐに帰宅。幸介は、街を適当にぶらついている。


「…………」


 幸介は、歩きながら考える。

 自分が何をすべきなのか。どうすれば、以前の様なクラスの関係を作れるのか……

 たとえ自分の事ではなくても、【独り】は嫌いだから……

 太陽が、少しだけ傾いていた。

 まだ、陽は長い……



○――――――――――――――――――――○



「いやはや。目移りしてしまいましたよ」


「変な言葉遣いしないでよ」


 店を出たところで、聡美と陽子がいつもの様に漫才(?)を始めた。

 遼はそれを見て微笑みを浮かべる。

 〝友達〟といる。という雰囲気が、遼の気分を微かにだが高揚させるのだ。


「それにしても、遼ホントにいいお店知ってるね。あたしも今度から、この店を使いそう」


「うん。品揃えも悪くないし、値段もそれなりにお手ごろだもんね。あたしも、これからは来る様にしようかな」


 聡美の言葉に、佳乃が頷いた。それに優子も続く。

 どうやら陽子はこの店を知っていたらしく、遼とはその話題で少し盛り上がったりもした。


「って言うかさ……だからって、いきなり買うのもどうかと思うよ?」

 片手に荷物を持つ聡美に、佳乃が呆れた様に言った。


「まだ出始めなんだから。他で買う物がなかったら、後で買いに来れば良かったのに」


「だめだめっ。もしかしたら、品切れになっちゃうかもしれないじゃないっ。欲しい物を見つけた時は直ぐに買う! それが買い物の秘訣!」


 妙に気合の入った口調で豪語する聡美。おそらく、それで痛い目を見た事があるのだろう。


「そんなわけで、次行こうか?」


「だから、何であんたが仕切るのよ……」


 辟易とした佳乃の言葉に、一同から苦笑が漏れる。

 それから街中をぶらつき、やがて昼時にさしかかり、一同は昼食を取るべく近くのファミレスに入った。

 皆の動作一つ一つが、そしてその空気さえもが、遼にとっては新鮮なものだった。

 自分一人で行くのと、誰かと一緒に行くのとでは、同じ場所に行くのでも何かが違う。遼は、その事に気がついた。その違いが、悪い事ではなく、楽しい事だという事にも。


「あ」


 ファミレスを出たところで、優子がそんな声をあげた。


「何? どうしたの?」


「村野君だ」


 村野君。その名前に反応したのは、遼と、佳乃……


(吹っ切れて、ない……)


 昨夜の苦悩を思い出し、佳乃は慌てる。表面上は平静を装っているが、その内心はかなり動揺している。

 そんな佳乃と違い、遼は素直に喜びの表情を浮かべた。


「おーい! むっらのくーん!」


 優子が、幸介に声をかける。それに気がついた幸介が、顔を上げて遼達の方を向く。

 優子が手招きをし、幸介はそれに応えた。


「よぅ。偶然だな」


 それは皆に言った言葉だが、視線は遼に向けられている。


「村野君は、一人でどうしたの?」


「ああ。えっと、さっきまでは村石といたんだけど……」


 持ちかけられた相談の話など出来るはずもなく、言葉を濁す幸介。


「ふーん。で、今は一人なんだよね?」


「まあ、そうなるけど」


「それじゃあさ、あたし達と一緒に遊ばない?」


 優子はノリノリで幸介を誘う。遼の、嬉しそうな恥ずかしそうな、そんな表情を見て楽しんでいるのだ。


「……いや、さすがにこの面子の中に男一人っていうのはな……」


「そっか。残念だね、遼」


「えっ? そ、そんなことは……」


「あるよねぇ。そうだよねぇ。で、遼は村野君と一緒にいたいんだよね?」


「え? あ、でも……」


 幸介との事になると、とことん弱くなる遼である。もはや優子のいいオモチャだ。


「おい、霧島。綾瀬が困ってるだろ」


「お。ナイト様のお出ましですか?」


「茶化すなよ……何にせよ、今日はいいよ。女の子同士、楽しく遊んでくれ」


 考えたい事もあるし――その言葉は飲み込み、口には出さない。


「そっか。まあ、あたしは別にどっちでもいいけどね」


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」


「おぅ。じゃあな」


 そう言って、幸介はその場を去っていった。

 楽しそうな表情の優子。ちょっと複雑な心境の遼。

 そして、俯いている佳乃。


「あのさ……」


 ふと、聡美が声をあげる。


「今の、誰?」


「うちのクラスの村野幸介。遼の彼氏♪」


『え!?』


 驚く聡美と陽子。

 驚くのも無理は無い。

 そして、その後遼が質問攻めになったのは言うまでもないだろう……

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