第3章 彼女の後ろ
第2章の続きです。
主人公は、彼女のただならぬ雰囲気に疑問を抱き、後を付けていく。
*相変わらずR-15チックです。性的描写などに嫌悪感がある方はお戻りください。
俺の目の前には派手なコート、赤いハイヒール、いつもの清楚な格好とは
比べ物にならないぐらいの、凄まじいというか、インパクトの強い、表わす
ならまるで有名人の様な格好だ。後姿から察するにエミリーであろう。
だが、彼女が何故こんな恰好を?俺は軽い好奇心からなる衝動に
よって彼女の後を付いていくと決めた。
他の人や車道を走る車から観れば下手すればストーカーとして
見られそうだが、彼女とは相思相愛、そう思っている。特に問題は
ないだろう。ただ、なぜあのような格好をしているか突き止めるだけだ。
彼女とは約10mほどの距離を保ったまま、夜道をつけていく。
淡い街灯の光に照らされている道路は鈍いインターロックの色を
反射させ、彼女を下から妖しく照らす。いつもとは違う格好だけに、
これはこれで美しく見える。正面からは見ていないが可愛らしい
蒼い眼と金髪のショートヘアーをみれば違った美しさを見せるだろう。
気が付いたらそんな事を考えており、俺はブンブンと頭を振って
街路樹にたまに身を隠して、彼女の後ろを行く。
グリニッジ・ヴィレッジの大通りを行く事、約5分ぐらいだろうか。俺の
靴やスーツは街路州の植え込みや、雰囲気の良いレンガの家の
玄関の影などに身を潜めていたため、家を出ていった時に比べひどく
汚れている。エミリーは不意に俺の視界から消えた。突然、消えたので
俺は驚き慌てながら急いで歩調を急がせ、彼女が突然消えた辺りに
辿りつく。
すると、そこは細い路地であった。モダンな家と家の間は少し普通の
路地よりは広くなっており、大人が2人ほど並んで通れるほどだ。
細い路地にはマンホールの蓋が点在し、壁にはエアコンの室外機が
グオングオンと回って生暖かい風が路地を吹き抜ける。地面は
ニューヨークの路地の様に酔っ払い達のゲロで汚れているという
訳ではないが、俺の足元をネズミがつつつと横切って行った時は、さすがに
足を引いてしまった。
エミリーは路地を入って15mほど進んだところでギクシャクした様子で
歩いていた。初めての場所の様に、コートやハイヒールが汚れるのを
嫌がっているのか、体を小刻みにくねらさせて歩いている。俺は
足元に散乱しているごみやバケツなどを踏んで音を出さぬよう
細心の注意をしながら、路地を進もうとする。
だが、路地はまるで俺の事を拒否しているかのようだ。
駄目だ、踏み込んではいけない、戻れ。そう言ってるかのように
涼しい夜風がブリザードのように、俺の肌をうちつけていった。
しかし、戻るわけにはいかない。俺はどうにも嫌な予感しか
しなかった。さすがに危機感をも察する。
しかし、真実を知る必要があるかもしれない。
そう、俺は決心して路地のに入った。
路地から20mほど進んだところ、エミリーと俺の距離は
10mほど、彼女は突然右を向いた。俺は急に冷や汗が
噴き出はじめ、急いで脇の家の陰に飛び込み、恐る恐る彼女の
視線をうかがう。幸運にも彼女は気付いていない。
俺は一安心してスーツのすそがすぐ横のパイプによって油まみれに
なる事も恐れずに、心臓をバクバクと言わせて隠れる事と彼女を
うかがう事に専念する。
彼女はコートの内側からメモの切れはしの様なものを取り出し、
じっと見つめたかと思うときゅっと口を締め意を決心したような
表情になる。そこには可愛らしくいじらしい彼女はいない、孤独で、
冷たくて、何に対しても我慢をする、そんな表情の彼女が居た。
俺は急に何か心に穴が出来たような虚しい感情の渦に巻き込まれた。
今、ここで彼女に声をかけたら彼女はどう反応するだろうか。
しかし、考え始めた俺に既に時間は与えられていなかった。
エミリーは2度、扉をノックをする。すると、ほとんど間をおかないと
思うほどすぐさま扉が内側に開き、彼女はそのとたん、開いたドアの
奥に向かって微笑む。
人は本当に笑う時は目も感情に合わせて笑う、そして
今、彼女が実際に笑っているか、ここの俺からは良く分からない。
そして、何か会話を始めたが俺には聞こえなかった。ただ、今の
俺には心臓の音が孤独に反響するだけである。
すると、開いたドアから手が彼女の方に触れ、中に誘った。
その瞬間、彼女から凄まじいオーラを感じた。
空気が変わる、そんな感じだ。どんよりとした灰色の路地が
どす黒く染められていくのを俺は肌で感じ、
鳥肌が全身に立つのがわかり、ドキリとする。
いつもの可愛らしいエミリーではない。
彼女は手に誘われるように、開かれたドアの奥に消え、それは閉じた。
やはり、この危機感は終わる気配を見せなかった。俺は今度は一切の
迷いを見せずに、彼女が誘われたドアに向かい、正面から対峙する。
そこはまるで路地裏に安くばった売りされている物件だ。こういう所は
常にドブネズミが道を闊歩し、ゴキブリ達が住居内にコロニーをつくる。
ニューヨークのグリニッジ・ストリートの安アパートを借りてる俺にとっても、
最悪で劣悪な環境、こっから朝を迎え、通勤するためにさらにメトロなんぞ
に乗りたくもない。ニューヨークでこういう所に住んでいるのはよっぽど金が
ないか、悪い職に就いているか、もしくはハッカーと決まっているものだ。
俺はドアを見る。いや、ドアというより只の鉄板の枠にノブを付けたような
感じだ。赤さびがそこら中にはびこり、下手にここでけがをしたら破傷風に
でもなりかねない。ノブも形だけのようにしか見えず、鍵穴もたいして役に
立っているようには見えず、中まで赤さびは生活範囲を広げていた。
俺は駄目もとで、ノブに手をかける。その瞬間、俺の手に軽い感触と振動が
伝わったかと思うと、カチャリ。
「っ……! !」
なんとドアは、ギィっと低い音を立ていとも簡単に開く。
鍵が錆びで壊れているか、はたまたエミリーを向かい入れた時に嬉しくて
鍵を閉め忘れたか、今の俺には関係ない。
落ちているドル紙幣程度はがめるかもしれないが、セント硬貨ぐらいは
募金箱に入れる生粋の常識人。自分が他人の家に勝手に上がり込む
なんて考えた事もない。だが、不法侵入がなんだ。
俺の彼女が居るんだ、そんな法律の一つや二つ、関係あるわけがない。
俺はなるべく音をたてずに彼女の消えた家へ入った。その時から、
まともな思考回路のタガは外れていたかもしれない。
外から見た見た目通り、中も非常に汚く薄暗い。そこら中にゴキブリの卵が
あるなんて容易に想像が出来る。玄関からは直接、キッチンとトイレ、
シャワー室が目に入った。どれも掃除は頻繁にされてるとは思えず、灰色だ。
天井や床、壁には埃がびっしりと付着し、床には開いた缶詰、食べかけの
スナック袋、そして相当な量の雑誌がそこら中に散乱している。
その雑誌を見ると、なんと全部ポルノ雑誌だ。俺は心の底に嫌な感情が
ぐいぐいとツナミのように押し寄せ、かき乱す。どう見ても、この家の主は男、
それも相当なポルノ雑誌の数を考えるとそうとう性質は悪い。
俺は玄関から向かって左側の扉の隙間から漏れる電気スタンドの様な
光をみつける。中からはガサゴソ、そして人がささやくような声。迷いはない。
俺は勢いよく、左側の扉のノブに手をかけを開けた。
「だ……誰だぁぁはおめぇはよぉっ? 」
「・・・・・・え ? 」
頭が真っ白にあった。まるで俺の脳味噌が全て雲海にほおりだされ、
思考回路だけは地上に残される。俺の思考回路は一人歩き、止まる事を
知らず、はじけ飛ぶまで暴走しそうだ。いや、これを考えられるといううちは
まだ安泰なのかもしれない。
嫌な悪夢というものは、現実にあるものだ、俺は初めてその言葉の意味を
理解できた。汚らしい部屋、部屋の真ん中に置かれた味気のないアルミ製の
安い簡易ベッド。そしてベッドの上には、一人の男、一人の女。2人とも裸だ。
エミリー、彼女は薄い布をはおい、ベッドの上で男に馬乗りにされている。
ブサイクな男は卑しそうな表情と驚き慌てふためいたのを交互にさせ、
目を白黒とさせる。
「おい、あんたいきなり俺の家に入ってきた何なんだぁっ ? 」
男は陰鬱な物を下半身にぶらぶらさせながらベッドから飛び降りて、
俺の胸ぐらをつかもうとするのか、ずいずいと近づいてくる。
俺はそんな事はお構えなしに、エミリーのほうに視線を向けた。
彼女は恐怖に目が開き、おびえた仔羊の様にガタガタと体を
震わせている。俺の心臓は張り裂けそうだ。
辛い、それは俺だ。怒りにも似た感情が押し寄せてくるが、それと
相対してやってくるのが、”哀しみ”。俺は自身の今一番あふれてくる感情を
表情ではなく、しっかりと目線に乗せ、彼女の事を見つめる。
ビクリ、と彼女は華奢な体を震わせ俺から視線を外した。そして、何か
ブツブツとつぶやき始める。乱れた金髪の髪からは輝きが薄れ、目も虚ろ、
掴んで体を隠していた毛布もどんどんと、その意味を無くしていた。
彼女はもう、心も、体も、全て表情が現われ裸同然であったのだ。
可哀そうに。
こんな酷い劣悪な環境でゴキブリのよな生活を送る男に、その綺麗な体を
売っていたのか。なにが不満だったのか、俺は理解できない。
謝るならいくらでも謝る、だから戻ってきてほしい。
だが、彼女は眼を合わせない。
「おい、なんとかいったらどうだぁっ ? 」不男の臭い吐息が俺の顔面に噴きかかる。
その時、考えてみれば俺の何かがふっきれたのかもしれない。
後ろに手を伸ばすと、俺の手に何かが触れた。とがったような鋼鉄の様な感触から
始まり、下におろしていくと人の手にしっくりくるような感触……グリップか。
俺はそれを素早く手にとって、目の前の不男に突きつけた。
拳銃だ。不男の顔から明白に血の気が引くのが分かる。
「…………」俺は無言で拳銃の安全装置を外し、不男の頭に突きつけた。
ペイント弾も撃った事無い俺が、銃なんて無論撃った事もない。
だが、今の俺なら何でも出来そうな気がた。
何でもできる、何でもできる、俺の女を犯した男を撃つ事も。
容易な事だ。
「あ……あ、あんた……や、やめ……やめろよ。
あ……ああ、お、女か。返す……返すから……」
不男は切れ切れの言葉で呼吸を荒くして、ベッドの上でブツブツと
何かをつぶやく虚ろな目をしたエミリーを指差した。
彼女は呼ばれた時、ビクンと体を震わせ、初めてオレの持っている
拳銃を見て恐怖に悶えた表情をする。彼女の目はうつろから、少し生きた
心地をくみ取る事が出来た。
俺はそれを見たとたん、銃なんて撃てない。
そう、思った。俺が人間のうちに、こんなものは止めるべきだ。
人間は罪を犯した瞬間、人間ではなくなる。
俺は銃口を男の額からずらし、腕を下げ、拳銃をゆっくりと後ろの机の上に
置いた。そして、男の表情も伺わないまま、耳に何もいれずにノブに
手をかけ、その場を去ろうとする。
駄目だ、こんなの……耐えられない。俺は……何をしていたのか。
付き合っていた女が娼婦でも、なんでもやっていけると思ったが、
無理だった。なんて弱い心だ。
なんて脆弱だ。これで、一人の女を幸せにしようとしたんだ……笑える。
「……ごめんなさい」俺の耳に蚊の鳴くような声が届く。俺は振り向かない。
「ごめんなさい」また、エミリーが俺の耳に呼びかける。それは彼女の悲痛な叫びであった。
だが、俺にとっても苦痛、叫び、悲鳴。止めろ。
心の中で抑制する。そうしなければ、今にも拳銃をまた取りそうだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……
ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
俺は部屋を出た。
気が付くと、俺の目には涙が浮かんでいた。ああ、なんて哀しく虚しい
一日だったんだろう。散乱する雑誌を踏みつけることも、天井から埃が
俺の方に積もろうとも、俺の心には止まない灰が降る。
その灰は俺の内側を、埋め尽くしていく。
けれど、埋め尽くした灰はだんだんと俺の芯を冷やしていく。
彼女がどれくらい前からこんな事をしているかは知らない。
ただ、彼女に対して愛おしく想う気持ちはどんどん膨れ上がり、
中は埋め尽くされ、そして今は限界。俺の芯は今、冷たくなっていって
いた。たとえ、俺のせいで彼女がそうなったとしても、今の感情は
なかったことにはできない。
俺はポケットからある女に渡すはずだったブローチを取り出し、
片手でそれをそっと、包み込んだ。
ブローチはとても、冷たかった。
読んで下さった方、ありがとうございました。
最終章は明日にでも。
主人公は、どうなるでしょうか。
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