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むむむの伊佐朗  作者: 埴輪庭


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【掻塚村名主日次記 寛政七年】

 ◆◆◆


 名主家旧蔵の日次記のうち寛政七年三月の分 春の堀浚ひの条を含む


 三月七日 晴


 一、明後九日より村中用水堀浚ひに掛かるべき旨触れ廻す。人足割は例年の通り。


 三月九日 晴


 一、堀浚ひ初日。人足十四人。水を落とし字久保田より掛かる。滞りなし。


 三月十日 曇


 一、堀浚ひ二日目。字谷戸の堀底より人の毛夥しく出づ。浚へば浚ふほど出でて際限なし。人足ども引き上ぐるを嫌ひ鎌にて切り候処残りは泥の内へ引き入りたるやうに相見え候。年寄の人足申し候は前々よりたまさかこれ有る事なりと。切り取りたる毛はひと山ほどこれ有り堀端に積み置く。泥に塗れざる事いぶかし。


 三月十一日 晴


 一、堀浚ひ三日目。昨日積み置き候毛見えず。犬などの咥へ持ち行きしものならん。浚ひ残らず相済み人足へ酒振る舞ふ。


 三月十四日 晴


 一、種井に籾を浸す。


【現代語訳】


 三月七日 晴れ


 一、明後日の九日から村中の用水堀浚いに掛かる旨を触れて廻る。人足の割り当ては例年の通り。


 三月九日 晴れ


 一、堀浚い初日。人足十四人。水を落として字久保田から取り掛かる。滞りなし。


 三月十日 曇り


 一、堀浚い二日目。字谷戸の堀底から人の毛が夥しく出た。浚えば浚うほど出てきて際限がない。人足たちは引き上げるのを嫌って鎌で切ったところ、残りは泥の中へ引き込まれるように見えた。年寄りの人足が言うには前々からたまにあることだという。切り取った毛はひと山ほどあり堀端に積んで置く。泥に塗れていないのが不審である。


 三月十一日 晴れ


 一、堀浚い三日目。昨日積んで置いた毛が見当たらない。犬などが咥えて持って行ったのだろう。浚いは残らず済み人足に酒を振る舞う。


 三月十四日 晴れ


 一、種井に籾を浸す。


 ・

 ・

 ・


【曉鐘新報 雑報】


 明治三十四年五月十六日 切り抜き一葉のみ現存


 ●溝より毛を生ず 豊嶋郡掻塚村にては伝染病予防の清潔方法施行に付き去る十二日より村内の溝渠を浚渫したるが一箇所の溝底より人の毛夥しく出でたり。浚へども浚へども尽きず恰も底より生ずるが如く人夫鎌を以て之を断てば残りは自ら泥中に没すと云ふ。人夫の一人之を袋に収めしに目方一貫余ありとて髢屋に売らんと持ち帰りしが翌朝袋の内空しかりしと。村人は左のみ怪しまず時々これ有る事なりと云へり。真偽の程は保し難し。姑く記して以て奇談と為す。


【現代語訳】


 ●溝から毛が生える 豊嶋郡掻塚村では伝染病予防の清潔方法の施行につき、去る十二日から村内の溝渠を浚渫した。すると一箇所の溝底から人の毛が夥しく出てきた。浚っても浚っても尽きず、あたかも底から生えてくるかのようだった。人夫が鎌でこれを断つと残りはひとりでに泥の中へ没するという。人夫の一人がこれを袋に収めたところ目方が一貫(およそ四キログラム)余りあるといって髢屋に売ろうと持ち帰ったが、翌朝袋の中は空だったと。村人はさして怪しまず時々あることだと言っている。真偽のほどは保証しがたい。しばらく書き留めて奇談としておく。


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