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【26話】俺んち。

ニャルを遺跡に送り届けた後、フィオはシャルドルートを背中に乗せ、神木のさらに奥へと飛んだ。


神木から向こうに道はなく、森の声が聞こえない魔法使いのシャルドルートは、そこから先へは進んだことがない。


シャルドルートが思わず、遺跡や自分の小屋のある方向を振り返っていると、フィオが

「もう着くから」

と、声をかけてきた。


——水の音がする。


フィオが赤い翼をゆっくりとたたみながら下降すると、その音は空気を震わせるような轟きへと変わった。


シャルドルートが目の前に大きな滝を確認すると、フィオはそのままなんの躊躇いもなく滝の裏側へと翼を進める。

そうしてフィオは、滝の影に隠れるようにあった深い洞穴の中へと降り立った。


「何、ここ……」


フィオの背から降りたシャルドルートが辺りを見渡す。


湿った岩肌には光苔が広がり、その間に色とりどりの魔石が埋もれていた。

洞窟の中だというのに、辺り一面にぼんやりとした光が満ちている。


「……俺んち」


フィオがぽつりと答えた。


だが、フィオのその声は滝の水音にかき消されてうまく届かない。


「え?! 何て?!」


シャルドルートが声を張る。洞窟の中に大きく響いた。


「俺んち!!」


フィオはシャルドルートよりもさらに大きな声でそう答え、なぜか苛立った様子で湿った苔を赤い後ろ足で踏みしめながら奥へ進んでいった。


シャルドルートはしばらくその言葉の意味が分からず、滝の飛沫を浴びながらそこで呆然と立ち尽くしていた。


が、遅れて理解が追いつくと、ハッとして慌ててその赤い背中を追った。

足元でびしゃびしゃと生ぬるい水が膝まで跳ねた。


「わ………」


洞穴を抜けた先は、見上げるほど天井の高い、広大な空間だった。


ドーム状に開けたその奥には、青く澄んだ地底湖が静かに横たわっている。


天井には大きな穴があいていて、そこから差し込む光が、一本の光芒となって水面へと降りていた。


それはまるで、空とこことを繋ぐ通路のようだった。


「凄い……」


そう呟いたシャルドルートの足が何かに当たる。

その後ザラザラと聞き慣れない大きな音が洞窟の中に響いた。


それは大量のどんぐりの山が起こした雪崩の音だった。


さらにその奥には松ぼっくりの山。

他にも変な形の魔石やら、動物の毛皮やら、壊れた魔道具やらが広い空間のあちこちに山を作っている。


「凄い汚い………」

シャルドルートは、龍の巣への第一印象としてそんな言葉を口にしていた。


「なっ………


こ、これでも結構掃除したんだぞ?!

食い散らかしてたメシの骨とか、いい感じの枝とかは一応全部捨てたし、この辺なんかだいぶ綺麗になってるだろほら!」


フィオは翼をばさりと大きく広げ、かろうじて地面の見えるあたりを指す。


「いや、綺麗になってるだろとか言われても、その最高に散らかってる状態は知らないし、

今も相当酷いからね?

よくこんな所に人呼ぼうと思ったね」


「はーー?!お前っ……はー?!?!」

シャルドルートのあまりに率直な言葉に、フィオは怒りと混乱と羞恥で、言葉を失った。


「お前んちだって埃だらけだろうが!」

「埃で人は死なないけど、足元にこんなに物があったら躓いて転んで死ぬんだよ。

ちょっとどいて、その辺片付けるから」


そう言ってシャルドルートは、フィオの巨体を押しやり、地面に落ちた魔石やガラクタを分別し始める。


……と言っても、分別とは名ばかりで、それは片っ端から壁へ投げつけていくというシャルドルート完全オリジナルの投擲整理法だった。


「ちょっ……やめろ、その辺触んなって!!

大事なんだよ!」


「大事なものとゴミとの区別がつかない」


「あーーっ!

お前そんなっ……

そんなの触んなよ恥ずかしいだろ!」


「恥ずかしいって何?!?!

これただの壊れた魔風機ドライヤーだけど何に使ってんの??!」



——一方その頃ニャルは、目尻を下げた大蛇から、お腹いっぱいになるまでネズミをご馳走になっていた。


コカトリスの婆さんは、大滝の方へと白けた目を向け、コケッ、と馬鹿らしそうに小さく鳴いた。

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