観測ログ 0001
理央は、これまで一度も開かなかったフォルダを開く。
端末の最下層。
隠しログ。
【SYSTEM ARCHIVE】
本来なら閲覧不可のはずの領域。
だが、結と接触した日から、ロックが緩んでいる。
画面に表示される。
【観測ログ 0001】
【対象:神崎理央】
【年齢:14】
【事象:保護者事故】
【介入:なし】
【理由:観測者候補適性確認】
理央の呼吸が止まる。
対象?
自分が?
スクロールする。
【死亡確率:2%】
【介入可能性:高】
【選択:非介入】
指が震える。
非介入?
つまり――
回避できた?
ログは続く。
【結果:精神的特異値上昇】
【合理性指数 増加】
【観測適性 取得】
理央の視界が揺れる。
母の事故は偶然ではなかった?
“選ばれた”?
さらに下へ。
【一次観測者消失後の後継候補として確保】
一次観測者。
影。
結。
すべてが繋がる。
理央は理解する。
自分は選ばれたのではない。
育てられた。
観測者として。
2%を引いたのではない。
2%が、選ばれた。
理央の喉から、初めて感情の混じった声が漏れる。
「……ふざけるな」
端末が即座に警告を出す。
【情動上昇】
【安定度低下】
画面に新しい分岐が表示される。
A:ログ削除
B:受容
C:観測システム追跡
理央は初めて、即決しない。
これまで彼は合理を選び続けた。
だが今、合理は何だ?
母の死は最適化だった?
自分を観測者にするための布石だった?
もしそうなら。
自分がこれまで“救った未来”もまた、
誰かの2%を踏み台にしているのではないか?
理央の脳裏に、結の言葉がよみがえる。
「未来は、正解じゃなくて生きるものだよ」
端末が震える。
【観測者の動揺を検出】
画面に、見たことのない表示が浮かぶ。
【管理層接続準備】
理央は直感する。
この端末の向こう側に、
“創造者”がいる。
観測を設計した存在。
そしておそらく――
母の2%を選んだ存在。
理央の指が、ゆっくりとCへ触れる。
【観測システム追跡】
画面が暗転する。
数秒の沈黙。
やがて浮かび上がる文字。
【第三層観測開始】
その瞬間、理央の背後で空気が歪む。
図書館の奥で見たはずの“揺らぎ”。
結が止めたはずの構造。
それが、より高次の形で再起動する。
理央は悟る。
影は末端だった。
観測は終わっていない。
もっと上がある。
そして――
ログの最後の一行が表示される。
【神崎理央:感情値上昇により制御困難】
【排除候補へ移行】
理央の端末が赤く染まる。
今度は彼が、“2%”になる番だ。




