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夜の図書館の秘密  作者: 臥亜


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5/6

影の正体

落ちる、と思った瞬間。


結の体は硬い床に叩きつけられた。


痛みはない。

代わりに、凍るような静寂があった。


目を開けると、そこは図書館ではなかった。


巨大な円形の空間。天井は見えない。壁一面に無数の“名前”が刻まれている。彫られた文字は淡く光り、時折、ひとつずつ消えていく。


結は息を呑んだ。


その中に、花山の名前があった。


光が弱く、今にも消えそうに揺れている。


「ここが……影の部屋……?」


足音が響いた。


振り返ると、闇が人の形を取って立っている。

顔はない。輪郭だけが曖昧に揺らいでいる。


だが、不思議と“視線”を感じる。


『ようこそ』


声は、頭の中に直接響いた。


結は震えながらも叫ぶ。


「あなたは何? どうしてみんなを消すの?」


闇はゆっくりと近づいた。


『消してはいない。保存している』


「保存……?」


壁の名前が、一斉に強く光る。


『忘れられた者たちを』


結の心臓が大きく鳴る。


『人は忘れる。簡単に。事故も、過去も、存在も。忘れられた瞬間、世界から零れ落ちる』


壁の光が、ひとつ消えた。


名前が完全に消失する。


『私は回収する』


結ははっとする。


「花山は……忘れられたの?」


『違う』


闇がわずかに揺らぐ。


『“忘れられる未来”を持つ者だ』


結の手の中の日記が、ひとりでに開く。


そこに、新たな文章が浮かび上がる。


――影は未来の“欠落”を喰らう。

――消える可能性の高い者から。


結は理解する。


事故、孤立、誰にも気づかれない変化。

花山は小さな違和感の中で、少しずつクラスから浮いていた。


この影は――


「未来の“孤独”を奪っているの?」


闇が、初めて動きを止めた。


『正確だ』


「じゃあ、助けられるってことだよね? 未来が変われば!」


一歩踏み出す結。


闇が低く震える。


『未来は収束する』


壁の奥に、もうひとつの名前が浮かび上がる。


――結。


血の気が引く。


『君もまた、忘れられる未来を持つ』


頭が真っ白になる。


『日記は予言ではない』


影の声が重く落ちる。


『あれは、観測装置だ』


「観測……?」


『未来を読む者がいる限り、未来は固定される』


結の呼吸が乱れる。


日記を読んだのは、自分だ。


『君が読むたび、可能性は狭まり、消失は確定に近づく』


「そんな……じゃあ私が……」


花山を、消した?


闇がさらに近づく。


『選べ』


壁の光が強く揺れる。


『日記を閉じ、観測をやめるか』


『あるいは』


闇が巨大化する。


『最後まで読み、世界を確定させるか』


日記の最終ページが、ゆっくりと開き始める。


そこには、まだ白紙のはずの場所に、文字が浮かびつつあった。


――影の正体は。


文字が、結の目の前で完成する。


――君だ。


空間が凍りつく。


闇が、微かに笑った。


『私は、可能性の残骸』


『君たち人間が生む“見捨てられた未来”の集合体』


結の手が震える。


もし、自分が未来を固定しなければ。

もし、誰も観測しなければ。


影は存在できない。


だが、日記を閉じれば――

花山の名前は、完全に消える。


闇が最後の一歩を踏み出す。


『どうする、観測者』


結の指が、最終ページに触れた。


その瞬間、壁の名前が一斉に点滅する。


世界が、どちらかに傾こうとしている。


――読むか。

――閉じるか。


闇の中で、誰かの声がした。


「結、気づいて」


聞き覚えのある声。


それは、消えたはずの花山だった。


空間に亀裂が走る。


そして――


日記のページが、燃え上がった。

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