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夜の図書館の秘密  作者: 臥亜


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11/14

未観測領域

理央が消えた翌日。


誰も騒がなかった。


教師も、クラスメイトも、

最初から存在しなかったかのように振る舞う。


結だけが覚えている。


ノートに書いた理央の名前が、薄く滲んでいる。


ページの端に、小さな警告。


【観測対象:削除済】


結は理解する。


“排除”は、存在の消去。


死ではない。


記録からの削除。


だが完全ではない。


未観測領域に落ちた存在は、

まだ“可能性”として残っている。


だから――


取り戻せる。


結は理央の端末を起動する。


画面には、以前理央が選択したログ。


【第三層観測開始】


その奥に、わずかに揺らぐ入口。


【未観測領域:アクセス不可】


結は笑う。


「不可、って書いてあるだけで、無理とは書いてないよね」


彼女は指を置く。


観測者としての権限はない。


だが――


理央と接触していた。


ログに“共振記録”が残っている。


【接触履歴:強】


【干渉値:閾値超過】


画面が一瞬だけ白く弾ける。


【臨時観測許可:発行】


結の視界が崩れる。


図書館の床が、透明な水面のように波打つ。


彼女は落ちる。


音のない世界へ。


未観測領域

色がない。


形が定まらない。


思考がそのまま空間になる場所。


結が「道」と思えば、足元に線ができる。


だが集中を失えば、すぐに崩れる。


ここは、


“誰にも観測されていない可能性の海”。


理央はこのどこかにいる。


だが未観測領域では、

“存在”は定義されなければ消える。


結は叫ぶ。


「理央!」


声は広がらない。


代わりに、波紋が起きる。


遠くで、微かな反応。


結は走る。


空間が裂ける。


崩壊。


【外部干渉検出】


未観測領域に、赤い線が走る。


管理層。


結の侵入が検知された。


【不正観測者:排除対象】


空間が収束する。


結の足場が消えかける。


彼女は必死に理央を思い出す。


合理的な目。


冷静な声。


それでも、最後に見せた怒り。


“ふざけるな”


その言葉。


その感情。


未観測領域は感情で形を持つ。


結は叫ぶ。


「あなたは合理だけじゃない!」


空間が震える。


遠くで、黒い影が形を取り始める。


理央。


だが輪郭が不安定。


消えかけている。


管理層の赤い光が迫る。


結は理解する。


未観測領域では、


“観測”=“名前を与えること”。


彼女は震える声で言う。


「神崎理央。

合理的で、でも怒ると子供みたいで、

本当は誰よりも怖がりで、

それでも前に進む人」


輪郭が濃くなる。


赤い線が加速する。


時間がない。


結は最後の言葉を選ぶ。


「あなたは、選ばれた存在なんかじゃない。

あなたは――私の友達だ」


未観測領域が爆ぜる。


理央の瞳が開く。


赤い線が一瞬だけ止まる。


理央が初めて自分の意思で言う。


「観測は……拒否する」


未観測領域が再定義される。


【対象:復帰処理】


管理層の警告が乱れる。


【感情干渉値:想定外】


結と理央の周囲に、白い光が広がる。


二人は落ちる。


現実へ。


図書館。


床に倒れる二人。


理央は息をしている。


世界はまだ、彼を覚えていない。


だが結は笑う。


「大丈夫。今から、もう一回観測し直すから」


理央が、かすかに笑う。


「合理的じゃないな」


「うん。でも、生きてる」

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