第6.5話 慣れてるだけ
フィーは、鏡の前で自分の腕を回していた。
その拍子に、豊かな胸がふわりと揺れる。
さっき、落ちたはずの腕だ。
ちゃんと動く。
違和感もない。
「うん、問題なし」
胸元のストラップを指で直しながら、
それを確認してから、ベッドに腰を下ろす。
座った瞬間、また小さく胸が沈んだ。
◇
最初に思ったのは――
変なチームだな、ということだった。
前に立つ人。
疲れない子。
何もしてない人。
バランスは、悪い。
でも、どこか崩れない。
「……ああいうの、久しぶりだな」
フィーは、小さく笑った。
笑うたびに、肩と一緒に胸もわずかに動く。
昔から、壊れる現場ばかりだった。
噛まれて。
引き裂かれて。
踏み潰されて。
泣いている飼い主の前で、
黙って直す。
それが仕事。
だから、壊れること自体に、
あまり意味を感じなくなった。
◇
今日もそうだ。
腕が落ちた瞬間、
怖いとは思わなかった。
――あ、取れたな。
それだけ。
拾って、戻す。
いつも通り。
「普通でしょ?」
そう言ったら、
みんなが黙った。
ああ、そうか。
普通じゃないのは、こっちだった。
◇
ガルドは、前に立つ。
たぶん、壊れないように。
コムギは、食べさせる。
たぶん、減らないように。
トンヌラは――。
「……何してるんだろ」
腕を組んで、考えているようで、
何もしていない。
でも、不思議と目が離れない。
ああいう人は、
現場に一人いると、
全部が静まる。
理由は分からない。
でも、
壊れる前に、止まる。
そんな気がする。
◇
フィーは、ベッドに倒れ込んだ。
天井を見ながら、考える。
このチームは、
壊れない。
いや、正確には――
壊れても、戻る。
それは、すごく危険だ。
壊れてもいい、と思い始めた瞬間、
本当に壊れる。
だから、あの人が言った言葉は、
少しだけ、嬉しかった。
「使いすぎると、壊れる」
当たり前のことを、
当たり前に言っただけ。
でも、それが言える人は、
案外少ない。
◇
目を閉じる前、
フィーは小さく呟いた。
「……しばらく、一緒にいよっかな」
面白いから、じゃない。
危ないから、でもない。
ただ――
放っておけない。
それだけだ。




