第6話 壊れても、戻る
次の討伐依頼は、妙な注釈が付いていた。
《再生能力あり》
《部位欠損の報告多数》
《死亡率:高》
紙を見た瞬間、ガルドが眉をひそめる。
「……嫌なやつですね」
「どこがだ」
「壊れる前提で書いてあるところが」
もっともだ。
壊れる前提というのは、
守る余地がないということでもある。
◇
出発前、ギルドの裏口で声をかけられた。
「ねえ、あなたたち」
振り返ると、そこにいたのは女性だった。
年上。
距離が近い。
笑顔が軽い。
そして――
妙に場慣れしている。
「この依頼、行くんでしょ?」
「そうだが」
「じゃあ、私も混ぜて」
当然のように言う。
「職業は?」
「ペットシッター」
沈黙。
コムギが、小さく首をかしげる。
「……動物のお世話、ですよね」
「そうそう」
女性は笑った。
「噛まれても、引っかかれても、
だいたい元に戻すのが仕事」
嫌な言い方だった。
「危険だ」
ガルドが即答する。
「再生持ちだぞ」
「だからでしょ?」
女性は肩をすくめる。
「壊れたら、直す。
それだけ」
妙に、理屈が通っていた。
「名前は」
俺が聞くと、彼女は少しだけ考えてから答えた。
「フィー」
「……同行を許可する」
その瞬間、周囲の視線が刺さった。
討伐に、
管理栄養士とペットシッター。
どう考えても、正気ではない。
◇
戦場は、噂通りだった。
魔獣は再生する。
斬っても、潰しても、戻る。
ガルドが前に立つ。
だが、完全には止めきれない。
「……来ます!」
次の瞬間、衝撃。
誰かが、倒れた。
コムギ――ではない。
ガルド――でもない。
フィーだった。
腕が、不自然な角度で落ちている。
一瞬、時間が止まった。
「……あ」
コムギが息を呑む。
だが。
「はいはい、大丈夫」
フィーは、落ちた腕を拾った。
拾って――。
くっつけた。
繋ぎ目が、音もなく塞がる。
「よし」
それだけだ。
悲鳴もない。
詠唱もない。
再生は、日常作業の延長だった。
◇
戦闘は、そのまま終わった。
再生する魔獣は、
再生しないこちらに勝てない。
なぜなら――
こちらは、壊れても戻る。
「……え?」
ガルドが、自分の腕を見る。
さっき受けたはずの傷が、消えている。
「私、ついでに調整しました」
フィーは、軽く言った。
「骨の向きとか、
筋の癖とか」
軽すぎる。
◇
帰路。
誰も、すぐには口を開けなかった。
やがて、ガルドが呟く。
「……これ、
もう“負ける”要素、なくないですか」
「ある」
俺は即答した。
「使いすぎると、
壊れる」
それは、本心だった。
壊れないと思い始めた時点で、
人は壊れる。
フィーは、ちらりとこちらを見る。
「……いいこと言うね」
その目が、少しだけ真面目だった。
◇
ギルドに戻ると、
報告は一言で済んだ。
《部位欠損:即時回復》
《死亡:なし》
受付の女性は、紙を持つ手を震わせる。
「……どうして……」
答えは簡単だ。
だが、説明はできない。
◇
その夜。
宿で、フィーがベッドに腰掛けながら言った。
「ねえ、トンヌラ」
「何だ」
「面白いチームね」
笑う。
「壊れない人と、
疲れない人と、
前に立つ人」
そして、
「……何もしない人」
胸が、少しだけざわついた。
「でもさ」
フィーは、肩をすくめる。
「一番怖いのって、
そういう人だったりするんだよね」
違う。
俺は、怖くない。
ただ――。
壊れない理由が、増えているだけだ




