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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第6話 壊れても、戻る

次の討伐依頼は、妙な注釈が付いていた。


《再生能力あり》

《部位欠損の報告多数》

《死亡率:高》


 紙を見た瞬間、ガルドが眉をひそめる。


「……嫌なやつですね」


「どこがだ」


「壊れる前提で書いてあるところが」


 もっともだ。


 壊れる前提というのは、

 守る余地がないということでもある。



 出発前、ギルドの裏口で声をかけられた。


「ねえ、あなたたち」


 振り返ると、そこにいたのは女性だった。


 年上。

 距離が近い。

 笑顔が軽い。


 そして――

 妙に場慣れしている。


「この依頼、行くんでしょ?」


「そうだが」


「じゃあ、私も混ぜて」


 当然のように言う。


「職業は?」


「ペットシッター」


 沈黙。


 コムギが、小さく首をかしげる。


「……動物のお世話、ですよね」


「そうそう」


 女性は笑った。


「噛まれても、引っかかれても、

 だいたい元に戻すのが仕事」


 嫌な言い方だった。


「危険だ」


 ガルドが即答する。


「再生持ちだぞ」


「だからでしょ?」


 女性は肩をすくめる。


「壊れたら、直す。

 それだけ」


 妙に、理屈が通っていた。


「名前は」


 俺が聞くと、彼女は少しだけ考えてから答えた。


「フィー」


「……同行を許可する」


 その瞬間、周囲の視線が刺さった。


 討伐に、

 管理栄養士とペットシッター。


 どう考えても、正気ではない。



 戦場は、噂通りだった。


 魔獣は再生する。

 斬っても、潰しても、戻る。


 ガルドが前に立つ。

 だが、完全には止めきれない。


「……来ます!」


 次の瞬間、衝撃。


 誰かが、倒れた。


 コムギ――ではない。

 ガルド――でもない。


 フィーだった。


 腕が、不自然な角度で落ちている。


 一瞬、時間が止まった。


「……あ」


 コムギが息を呑む。


 だが。


「はいはい、大丈夫」


 フィーは、落ちた腕を拾った。


 拾って――。


 くっつけた。


 繋ぎ目が、音もなく塞がる。


「よし」


 それだけだ。


 悲鳴もない。

 詠唱もない。


 再生は、日常作業の延長だった。



 戦闘は、そのまま終わった。


 再生する魔獣は、

 再生しないこちらに勝てない。


 なぜなら――

 こちらは、壊れても戻る。


「……え?」


 ガルドが、自分の腕を見る。


 さっき受けたはずの傷が、消えている。


「私、ついでに調整しました」


 フィーは、軽く言った。


「骨の向きとか、

 筋の癖とか」


 軽すぎる。



 帰路。


 誰も、すぐには口を開けなかった。


 やがて、ガルドが呟く。


「……これ、

 もう“負ける”要素、なくないですか」


「ある」


 俺は即答した。


「使いすぎると、

 壊れる」


 それは、本心だった。


 壊れないと思い始めた時点で、

 人は壊れる。


 フィーは、ちらりとこちらを見る。


「……いいこと言うね」


 その目が、少しだけ真面目だった。



 ギルドに戻ると、

 報告は一言で済んだ。


《部位欠損:即時回復》

《死亡:なし》


 受付の女性は、紙を持つ手を震わせる。


「……どうして……」


 答えは簡単だ。


 だが、説明はできない。



 その夜。


 宿で、フィーがベッドに腰掛けながら言った。


「ねえ、トンヌラ」


「何だ」


「面白いチームね」


 笑う。


「壊れない人と、

 疲れない人と、

 前に立つ人」


 そして、


「……何もしない人」


 胸が、少しだけざわついた。


「でもさ」


 フィーは、肩をすくめる。


「一番怖いのって、

 そういう人だったりするんだよね」


 違う。


 俺は、怖くない。


 ただ――。


 壊れない理由が、増えているだけだ

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