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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第5話 消耗しない理由

 噂というものは、説明を嫌う。


 理由が分からないほど、

 人は勝手に理由を作りたがる。



「……本当に、減ってないな」


 朝の準備中、ガルドが自分の腕を見下ろしながら呟いた。


 昨日の討伐から一晩。

 筋肉痛も、疲労感も、ない。


「普通、来ますよね。

 あとから、どっと」


「来ないな」


「怖いですね」


 ガルドは本気で不安そうだった。


 壊れない。

 疲れない。

 それは彼にとって、あまり好ましい状態ではない。


 壊れない理由が分からないものは、

 いつ壊れるか分からない。



 ギルドに入った瞬間、視線が集まった。


 昨日とは違う。

 好奇と、畏怖が混ざっている。


「……聞いたか?」

「討伐三件、連続で……」

「全員、無傷……」


 受付の女性は、書類を抱えたまま硬直していた。


「ト、トンヌラさん……」


「どうした」


「報告が……」


 差し出された紙には、簡潔な文字が並んでいる。


《消耗:確認できず》

《疲労:なし》

《補給:不明》


「……不明?」


「はい……。

 管理栄養士の方が同行していたことは、

 記録されていますが……」


 彼女は言葉を選ぶ。


「“それだけで説明がつかない”と……」


 それは、そうだろう。


 コムギは、首をかしげていた。


「え?

 普通ですよ?」


「……何がだ」


「戦う前に食べて、

 途中で飲んで、

 終わったあとに補うだけです」


 当たり前のことを言う口調だった。



 依頼達成の印が押されると、

 周囲のざわめきが一段大きくなる。


「……補給の魔法か?」

「いや、詠唱は……」

「じゃあ……」


 誰かが、ぽつりと言った。


「――名、じゃないか」


 静かだったが、

 その一言は、よく通った。


「名?」


「《ネームレス》……

 名を預かる者……」


 視線が、こちらに集まる。


 違う。

 それは違う。


 だが――。


「……説明しよう!」


 誰かが、冗談めかして声を上げた。


「名を預けられた存在は、

 その意味を拡張される……ってやつだ!」


 笑いが起きる。

 だが、すぐに消えた。


 冗談にしては、

 結果が合いすぎている。



 ギルドを出ると、コムギが隣を歩いた。


「次は、もっとちゃんとやりますね」


「何をだ」


「補給です!」


 胸を張る。


「昨日は最低限だったので。

 持久戦なら、まだ詰められます」


「……詰める?」


「はい!」


 怖い言葉だ。


 後ろで、ガルドがぽつりと呟く。


「……これ、

 俺たち、消耗しないのが前提になってません?」


「なっているな」


「嫌ですね」


 ガルドは真剣だった。


「消耗しないって、

 逃げ場がなくなるんですよ」


 なるほど。


 壊れないものは、

 壊れるまで使われる。



 その日の夕方。


 ギルドの奥で、誰かが書類をまとめていた。


《対象:トンヌラ》

《現象:因果の省略》

《説明不能》


 別の紙には、短い走り書き。


《監視、必要》


 それを見ている者がいることを、

 俺たちは、まだ知らない。



 宿に戻ると、コムギは食材を並べ始めた。


「夜も大事ですから」


「……頼む」


 俺は、ただそう言った。


 やっていることは、何も変わらない。


 前に立つ者がいて。

 支える者がいて。

 俺は、名を呼ばれているだけだ。


 それなのに――。


 誤解は、

 もう後戻りできないところまで

 育ち始めていた。

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