第4.5話 ちゃんと食べれば、ちゃんと動く
コムギは、袋の中身をもう一度確認した。
干し肉。
乾パン。
塩。
甘い粉。
苦い粉。
「……うん、大丈夫」
足りないものはない。
多すぎるものもない。
それが、管理栄養士の仕事だった。
◇
戦いは、思ったよりも静かだった。
前に立つ人がいる。
それだけで、敵が進めなくなる。
「不思議だなぁ……」
コムギは小さく首をかしげた。
でも、深く考えない。
分からないことを、無理に理解しようとすると、
だいたい余計なことになる。
大事なのは、今、身体がどう動いているかだ。
◇
ガルドさんは、疲れていない。
息も乱れていないし、
足運びも安定している。
「よしよし」
心の中で、そう呟く。
問題は、その先。
疲れる前に、疲れさせない。
減る前に、補う。
「はい、水です!」
「……今?」
「今です!」
迷う時間は、いらない。
身体は、正直だ。
正しいものを、正しいタイミングで入れれば、
ちゃんと応えてくれる。
◇
戦闘が終わったあと。
みんな、普通に歩いている。
「……あれ?」
コムギは、少しだけ不安になった。
――やりすぎた?
でも、数字は合っている。
計算も間違っていない。
じゃあ、問題ない。
◇
トンヌラさんは、何も言わない。
指示もしない。
文句もない。
でも、不思議とやりやすい。
「……こんな私でも、任せてくれるんだ」
背も低いし、力もない。
戦うことなんて、ひとつもできない。
それでも、荷物の中身と、出す順番だけは、
ちゃんと信じて預けてくれている。
そう思うと、少し胸の奥があたたかくなった。
任せられる、というのは、
必要とされているということだから。
たぶん。
◇
ギルドに戻ったあと、
周りの人たちが、ひそひそ話しているのが聞こえた。
「魔法だ……」
「補給の……」
「いや、名前が……」
コムギは、首を振った。
「違うのになぁ」
魔法じゃない。
奇跡でもない。
ただ、ちゃんとやっただけだ。
◇
夜。
宿の台所で、コムギは食材を刻む。
「明日は、もう少しだけ変えよう」
同じじゃ、だめだ。
状況は、毎回違う。
だから、考える。
考えて、準備して、出す。
それが、管理栄養士の仕事。
◇
ふと、視線を感じて振り返ると、
トンヌラさんが、少し離れたところに立っていた。
腕を組んで、何か考えているような顔。
「……すごい人だなぁ」
何が、とは言えない。
でも、きっと。
この人は、全部わかってて任せている。
コムギは、そう思った。
――それでいい。
自分がやることは、変わらない。
ちゃんと食べさせて、
ちゃんと動いてもらう。
それだけだ。




