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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第4話 補給は、戦力だ

討伐依頼は、増えていた。


 数が、ではない。

 質が、だ。


「……これ、危険度上がってません?」


 掲示板の前で、ガルドがぼそりと言う。


「そう見えるな」


「昨日までは“小型”って書いてありましたよね」


「書いてあった」


 今は違う。


《持久戦想定》

《複数出現の可能性あり》

《消耗に注意》


 ――つまり、長引く。


 ガルドは露骨に嫌そうな顔をした。


「嫌ですね」


「何がだ」


「疲れるやつ」


 正直だ。



 依頼を受ける前に、ギルドの片隅で声をかけられた。


「……あの」


 小さな声。

 見下ろすと、そこにいたのは少女だった。


 背が低い。

 荷物が多い。

 背負い袋が、明らかに重そうだ。


「えっと……一緒に行っても、いいですか」


「職業は」


 彼女は少し胸を張る。


「管理栄養士です!」


 沈黙。


 周囲の冒険者が、露骨に視線を逸らした。


 ――弱職。


 戦えない。

 殴れない。

 魔法もない。


「……危ないぞ」


 ガルドが言う。


「討伐だ」


「わかってます!」


 少女は、強く頷いた。


「でも、消耗戦って書いてあったので。

 それなら、役に立てるかなって」


 その言葉に、少しだけ興味が湧いた。


「名前は」


「コムギです」


 短く、はっきり。


「……同行を許可する」


 俺がそう言うと、周囲がざわついた。


 管理栄養士を、討伐に?



 戦場は、想像以上に厄介だった。


 魔獣は一体一体は弱い。

 だが、数が多い。


 ガルドは前に立つ。

 魔獣は進めない。


 問題は、その後だ。


「……来ますね、次」


「来るな」


 来る。


 来るが――。


「え?」


 ガルドが、眉をひそめた。


「……疲れてない」


 確かに。


 呼吸は乱れていない。

 脚も、震えていない。


「ガルドさん、水です!」


 コムギが、小走りで近づき、瓶を差し出す。


「あと、これも!」


 干し肉。

 パン。

 何かの粉末。


「順番に食べてください!

 今じゃないと意味ないので!」


「……今?」


「はい!」


 言われるままに口にすると、不思議と身体が軽い。


「……あれ?」


 ガルドが首を傾げる。


「さっきより、楽です」


「当然です!」


 コムギは当たり前のように言った。


「戦闘前と、最中と、直後で、

 摂るもの変えないと」


 魔獣が、また倒れた。


 倒れても、こちらは減らない。


 減らないどころか――。


「……増えてません?」


 ガルドが、ぽつりと呟く。



 戦闘が終わった時、誰一人として息が上がっていなかった。


 血も。

 疲労も。

 消耗も。


 コムギは、袋の中を確認しながら言う。


「うん、大丈夫。

 想定通りです」


「……何がだ」


「体力配分です」


 周囲の冒険者たちが、言葉を失っていた。


「……討伐なのに」

「……消耗、ゼロ……?」


 違う。


 消耗は、していた。


 していたはずなのに、無かったことになっている。


 それだけだ。



 ギルドに戻ると、空気が一段変わった。


「……補給を、戦力として使った……」


「いや、あれは……」


「トンヌラの判断だ……」


 違う。


 俺は、何もしていない。


 だが、コムギが俺を見る。


「次も、行きますよね?」


「ああ」


「じゃあ、もう少しちゃんと準備します!」


 彼女は笑った。


 無邪気に。

 当然のように。


 その背後で、噂がまた一段、育つ。


 ――討伐を、消耗なしで終わらせる。


 それが、

 名を預かる者の戦い方だと。


 ……違う。


 だが、否定する理由も、特にない。

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