第4話 補給は、戦力だ
討伐依頼は、増えていた。
数が、ではない。
質が、だ。
「……これ、危険度上がってません?」
掲示板の前で、ガルドがぼそりと言う。
「そう見えるな」
「昨日までは“小型”って書いてありましたよね」
「書いてあった」
今は違う。
《持久戦想定》
《複数出現の可能性あり》
《消耗に注意》
――つまり、長引く。
ガルドは露骨に嫌そうな顔をした。
「嫌ですね」
「何がだ」
「疲れるやつ」
正直だ。
◇
依頼を受ける前に、ギルドの片隅で声をかけられた。
「……あの」
小さな声。
見下ろすと、そこにいたのは少女だった。
背が低い。
荷物が多い。
背負い袋が、明らかに重そうだ。
「えっと……一緒に行っても、いいですか」
「職業は」
彼女は少し胸を張る。
「管理栄養士です!」
沈黙。
周囲の冒険者が、露骨に視線を逸らした。
――弱職。
戦えない。
殴れない。
魔法もない。
「……危ないぞ」
ガルドが言う。
「討伐だ」
「わかってます!」
少女は、強く頷いた。
「でも、消耗戦って書いてあったので。
それなら、役に立てるかなって」
その言葉に、少しだけ興味が湧いた。
「名前は」
「コムギです」
短く、はっきり。
「……同行を許可する」
俺がそう言うと、周囲がざわついた。
管理栄養士を、討伐に?
◇
戦場は、想像以上に厄介だった。
魔獣は一体一体は弱い。
だが、数が多い。
ガルドは前に立つ。
魔獣は進めない。
問題は、その後だ。
「……来ますね、次」
「来るな」
来る。
来るが――。
「え?」
ガルドが、眉をひそめた。
「……疲れてない」
確かに。
呼吸は乱れていない。
脚も、震えていない。
「ガルドさん、水です!」
コムギが、小走りで近づき、瓶を差し出す。
「あと、これも!」
干し肉。
パン。
何かの粉末。
「順番に食べてください!
今じゃないと意味ないので!」
「……今?」
「はい!」
言われるままに口にすると、不思議と身体が軽い。
「……あれ?」
ガルドが首を傾げる。
「さっきより、楽です」
「当然です!」
コムギは当たり前のように言った。
「戦闘前と、最中と、直後で、
摂るもの変えないと」
魔獣が、また倒れた。
倒れても、こちらは減らない。
減らないどころか――。
「……増えてません?」
ガルドが、ぽつりと呟く。
◇
戦闘が終わった時、誰一人として息が上がっていなかった。
血も。
疲労も。
消耗も。
コムギは、袋の中を確認しながら言う。
「うん、大丈夫。
想定通りです」
「……何がだ」
「体力配分です」
周囲の冒険者たちが、言葉を失っていた。
「……討伐なのに」
「……消耗、ゼロ……?」
違う。
消耗は、していた。
していたはずなのに、無かったことになっている。
それだけだ。
◇
ギルドに戻ると、空気が一段変わった。
「……補給を、戦力として使った……」
「いや、あれは……」
「トンヌラの判断だ……」
違う。
俺は、何もしていない。
だが、コムギが俺を見る。
「次も、行きますよね?」
「ああ」
「じゃあ、もう少しちゃんと準備します!」
彼女は笑った。
無邪気に。
当然のように。
その背後で、噂がまた一段、育つ。
――討伐を、消耗なしで終わらせる。
それが、
名を預かる者の戦い方だと。
……違う。
だが、否定する理由も、特にない。




