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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第3.5話 自宅警備員の仕事

挿絵(By みてみん)


ガルドは、壁に背を預けて座っていた。


 ……いや、正確には立っていた。


 座ると、周囲が見えなくなる。

 それは良くない。


 自宅警備員としての長年の経験が、そう告げていた。


「……落ち着かないな」


 町外れの簡易宿。

 安い。

 静か。

 守るにはちょうどいい。


 ガルドは、扉と窓と、床の軋みを一通り確認してから、ようやく呼吸を整えた。


 問題なし。



 昨日の討伐を、頭の中で反芻する。


 魔獣。

 飛びかかろうとした。

 止まった。

 倒れた。


「……なんだったんだ、あれ」


 自分は、前に立っただけだ。


 殴っていない。

 蹴っていない。

 威圧もしていない。


 ただ、前に立った。


 それだけで、相手が諦めた。


 理由は分からない。

 分からないから、考えない。


 考え始めると、余計な動きをしてしまう。


「たたかったら、負けだと思ってるんで」


 それは冗談でも哲学でもなく、

 単なる生活の知恵だ。


 殴り合いになった時点で、

 何かが壊れる。


 家も、身体も、関係も。


 壊れないためには、

 起きないようにするしかない。


 それが、自宅警備員の仕事だった。



 ふと、自分の腕を見る。


 鎧の下で張った筋肉が、静かに呼吸に合わせて動く。

 鍛えたというより、気づいたらこうなっていた体だ。


 誰かを殴るためじゃない。

 扉の前に立ち続けるための肉。


「……まあ、役には立ってるか」


 そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。



 隣を見る。


 トンヌラは、机の前で腕を組み、動かない。


 考えているように見える。

 ……たぶん、何も考えていない。


 だが、不思議と安心感があった。


 前に立つのは、自分。

 後ろにいるのが、トンヌラ。


 それだけで、配置として正しい。


「……強い人、なんでしょうね」


 ガルドは、小さく呟いた。


 自分よりも。


 戦い方を知らず、

 危険に踏み込まず、

 それでも結果が出る。


 ああいうのを、

 才能というのだろう。


 自分にはない。


 自分にあるのは、

 壊さないことだけだ。



 廊下で足音がした。


 ガルドは、即座に前に出る。


 扉と音の間に、立つ。


 その瞬間、いつも思う。


 ――ああ、案外怖くないな、と。


 下がって構えるより、

 思い切って前に出た方が、身体は軽い。


 胸を張ると、背中の筋肉が自然に締まり、

 呼吸が深くなる。


 守る側に回った瞬間、

 恐怖は、仕事に変わる。


 ――問題なし。

 宿の主人だ。


 何事もなかったように、戻る。


「……今日も平和だな」


 それが、一番いい。


 強いだの、最強だの、

 正直どうでもいい。


 自宅が守られていれば、

 それでいい。


 ガルドは、静かに息を吐いた。


 明日も前に立つ。

 たぶん、立つだけ。


 それが、

 自宅警備員の仕事なのだから

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