第22話 何もしないことを、やめる
ぽめは、眠っていた。
本当に、何事もなかったかのように。
◇
俺は、しばらくその場を動かなかった。
腕を組んだまま、
考える。
――今までと同じだ。
何もしていない。
何も命じていない。
何も選んでいない。
それでも、
世界は勝手に転がってきた。
◇
「……違うな」
小さく、
そう呟く。
転がしていた。
無自覚に。
無責任に。
◇
ぽめの方を見る。
終焉の獣。
世界を削れる存在。
それが、
俺の隣にいる。
理由は分からない。
運命だとか、
因果だとか。
どうでもいい。
問題は一つだ。
俺が、
ここに立っている
という事実。
◇
遠くで、
慌ただしい気配がした。
観測。
確認。
遅れてやってくる“理解”。
次は――
もっと多く来る。
一人じゃない。
試す者。
囲う者。
壊す者。
ぽめが、
また触れるかもしれない。
今度は、
もっと大きな“削除”が起きる。
◇
「……それは、
ダメだ」
初めて、
はっきり否定した。
世界のためでも、
誰かのためでもない。
自分のためだ。
これ以上、
知らないところで
消えるものを増やしたくない。
◇
俺は、
一歩、前に出た。
十五年ぶりに、
山を下りた時以来だ。
“立つ位置”を、
自分で選ぶ。
◇
「ぽめ」
初めて、
名前を呼んだ。
ぽめは、
片目を開ける。
◇
「……もう、
勝手にやるな」
命令じゃない。
頼みでもない。
約束だ。
ぽめは、
何も答えない。
だが――
尻尾が、
一度だけ揺れた。
◇
その瞬間。
周囲の気配が、
少しだけ落ち着いた。
観測が、
遠のく。
中心が、
動いた。
◇
俺は、
深く息を吸った。
決める。
逃げない。
任せない。
誤解のまま、
突き進まない。
……いや。
誤解は、
使う。
だが、
責任は取る。
◇
「……行くぞ」
ぽめに言う。
ぽめは、
立ち上がる。
だが、
何も変わらない。
毛玉のままだ。
それでいい。
◇
遠くで、
仲間たちの気配を感じた。
ガルド。
コムギ。
フィー。
ミラ。
クラウス。
まだ、
何も知らない。
だが、
必ず合流する。
今度は――
俺が、
“戻る”。
◇
腕を組む。
だが、
ただ立つためじゃない。
立つと決めるためだ。
世界は、
もう止まらない。
だから――
俺が、
止める。
壊さず。
削らず。
終わらせず。
誤解されたままでもいい。
ただ一つ。
選ばなかった責任から、
逃げない。
それが、
俺の役目だ。




