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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第3話 誤解は、勝手に強くなる

翌朝、ギルドの空気が少し違った。


 視線が集まる。

 ひそひそとした声が、背中に刺さる。


「……あいつだ」

「昨日の……」

「指一本、動かさなかったって……」


 違う。


 正確には、俺は何もしていない。


 だが、人は正確さよりも分かりやすさを選ぶらしい。


 掲示板の前に立つと、依頼書の並びが変わっていた。


《討伐》

《討伐》

《高難度・討伐》


 昨日まで見なかった札が、堂々と貼られている。


「……増えてますね」


 隣でガルドが呟いた。


「気のせいだ」


「いえ、明らかにです」


 彼は首をかしげる。


「俺、昨日は前に立ってただけなんですけど」


「そうだな」


「なのに……」


 ガルドは周囲を見回す。

 こちらを見て、目を逸らす冒険者たち。


「……変ですね」


 同感だ。



 受付に向かうと、女性は露骨に緊張していた。


「お、おはようございます、トンヌラさん」


「おはよう」


「き、昨日の討伐ですが……」


 言いづらそうに、彼女は続ける。


「報告が、少し……」


「少し?」


「いえ、その……」


 彼女は声を潜めた。


「“指示も詠唱もなく、

  前に立たせただけで魔獣を無力化した”

 と……」


 違う。


 俺は何も――。


「……そう記録しておいてください」


 口が、勝手にそう言った。


 否定すれば混乱が生じる。

 混乱は余計な説明を呼ぶ。


 説明は、面倒だ。


 受付の女性は、安堵したように頷いた。


「は、はい!」


 その瞬間だった。


 背後で、ざわめきが一段大きくなる。


「記録に残した……?」

「つまり、正式に……?」

「ギルド公認……?」


 違う。

 違うが――。


 訂正するには、もう遅かった。



 ギルドを出ると、ガルドが立ち止まった。


「……あの」


「どうした」


「俺たち、強いって思われてません?」


「思われているな」


「……困りますね」


 本気で困った顔だった。


「俺、自宅警備員ですよ?」


「そうだな」


「戦い方も、知らないですし」


 彼は少し考えてから、いつもの調子で言った。


「だから、たたかったら負けだと思ってるんですけど」


 なぜだろう。


 その言葉が、昨日より重く聞こえた。


 防御。

 回避。

 前に立つだけ。


 それを“最強”と解釈する世界。


「……行こう」


 俺が言うと、ガルドは頷いた。


「次も討伐ですか」


「そうなる」


「大丈夫ですか?」


「問題ない」


 実際、問題はない。


 俺は、何もしていないのだから。



 町を出る直前、誰かが小声で囁いた。


「……あれが、“名を預かる者”……」


 振り返ると、誰もいない。


 噂は、もう俺の背後に置き去りにされていた。


 誤解は、

 誰の許可もなく育ち、

 勝手に意味を持ち始める。


 そして――。


 俺はまだ、

 その始まりにすら立っていない。

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