第20話 単独行動
通達は、短かった。
《世界調停機構・実地調整班》
《対象:トンヌラ》
《今後の任務は、単独行動を基本とする》
それだけだ。
◇
「……ふざけてる」
ミラが、珍しく声を荒げた。
「一人で?
この人、
何もできないんだよ?」
事実だ。
だからこそ、
選ばれた。
◇
「……俺が前に立てません」
ガルドが、低く言った。
「一緒に行けないなら、
意味がない」
コムギは、
袋を抱えたまま黙っている。
フィーは、
唇を噛んだ。
クラウスは、
何も言わない。
◇
「大丈夫だ」
俺は言った。
嘘ではない。
何もできないことには、
慣れている。
十五年の山籠りは、
ほとんど一人だった。
◇
指定された任務は、
“安全”とされていた。
《巡回》
《確認》
《戦闘想定なし》
調停機構の言葉で言えば、
観測用の散歩だ。
◇
出発地点で、
仲間たちは止まった。
「……ここまで」
調整班の男が言う。
「これ以上の同行は、
認められません」
ぽめが、
足元で座る。
ついて来る気だ。
「……ダメだ」
男が言った。
「それは、
未登録の存在です」
ぽめは、
首を傾げる。
◇
「置いていく」
俺は、そう言った。
ぽめは、
文句を言わない。
ただ、
その場に座った。
◇
歩き出す。
一人だ。
音が、
少ない。
足音が、
やけに大きい。
◇
調停機構の視線は、
はっきり感じた。
遠い。
だが、
逃げ場はない。
見られている。
◇
しばらく歩いたところで、
違和感が生じた。
何も起きない。
敵も。
事故も。
風すら。
「……なるほど」
俺は、
立ち止まった。
これは、
安全じゃない。
隔離だ。
◇
その時。
背後で、
小さな音がした。
――ころ。
振り返る。
ぽめが、
そこにいた。
いつの間にか。
「……来るなと言った」
ぽめは、
返事をしない。
ただ、
座る。
◇
その瞬間。
空気が、
変わった。
重く。
静かに。
遠くの観測が、
一斉に途切れた気がした。
◇
「……やめろ」
俺は、
初めてはっきり言った。
「まだ、
いい」
ぽめは、
動かない。
だが――
世界の方が、
先に動いた。
◇
遠くで、
何かが“踏み外した”音がした。
次に起きるのは、
事故か。
災害か。
それとも――
実験か。
俺は、
腕を組み直した。
何もできない。
だが、
何も起きないとは、
限らない。
ぽめは、
隣にいる。
まだ、
何もしない。
だが――
一人にしようとした選択は、
確実に、
間違いだった。




