第19話 世界調停機構、踏み込む
その来訪は、静かだった。
派手な部隊も、
威圧的な魔力もない。
ただ――
正規の書類だけが届いた。
◇
《世界調停機構・協力要請》
その一行だけで、
ギルドの空気が凍った。
「……要請、ですか?」
ミラが、
半笑いで言う。
「“命令”じゃなくて?」
受付の女性は、
首を横に振った。
「形式上は……
協力、です」
形式上。
それが一番、
信用ならない。
◇
指定された場所は、
町外れの施設だった。
元は、
研究用の拠点。
今は、
誰も使っていない。
「……隔離向きですね」
ガルドが、
低く言った。
「前に立てる場所、
多そう」
笑えない冗談だ。
◇
中にいたのは、
三人だけだった。
全員、
戦闘職ではない。
だが――
目が違う。
決定を下す目だ。
◇
「本日は、
お越しいただき感謝します」
中央の人物が、
丁寧に頭を下げる。
「我々は、
世界調停機構・
実地調整班です」
“実地”。
その言葉が、
重く響いた。
◇
「結論から申し上げます」
男は、
紙を置いた。
「皆さんの行動は、
世界の均衡に
影響を与えています」
「被害は?」
フィーが即座に聞く。
「……ありません」
「死者は?」
「確認されていません」
「じゃあ――」
ミラが、
一歩前に出る。
「何が問題?」
男は、
一瞬だけ言葉に詰まった。
「……終わらなかったことです」
◇
沈黙。
その理由は、
理解できた。
だが、
納得はできない。
◇
「そこで」
男は、
次の書類を出す。
「段階的な
役割制限を行います」
「もう、
やってるだろ」
ガルドが言う。
「ええ」
「次は?」
男は、
視線を上げる。
「同行制限です」
空気が、
一段、冷えた。
◇
「……誰を?」
コムギが、
小さく聞いた。
「まずは、
《ネームレス》」
その言葉で、
全員が固まった。
◇
「トンヌラさんは、
今後、
単独での行動を
推奨されます」
「推奨?」
「……強制に
近い形で」
正直だ。
◇
「理由は」
俺が、
初めてはっきり聞いた。
「中心だからです」
男は、
躊躇わなかった。
「定義できない中心は、
最も不安定です」
◇
「……拒否したら?」
ミラが、
低く言う。
男は、
少しだけ視線を逸らした。
「次の段階に進みます」
それが、
答えだった。
◇
その時。
部屋の隅で、
ぽめが立ち上がった。
ゆっくり。
だが、確実に。
「……?」
調整班の一人が、
目を向ける。
「……あれは?」
「犬です」
フィーが、
即答する。
「分類は?」
「……してません」
その一言で、
男たちの動きが止まった。
◇
ぽめは、
一歩、前に出た。
何もしない。
唸らない。
ただ――
見ている。
その視線に、
空気が重くなる。
◇
「……対象外です」
中央の男が、
慌てて言った。
「本件とは、
関係ありません」
そう言いながら、
無意識に
一歩、下がる。
◇
クラウスが、
静かに言った。
「……踏み込みすぎですよ」
男は、
睨み返す。
「我々は、
世界を守っています」
「ええ」
クラウスは、
淡々と返した。
「だからこそ、
壊し方を
選ばない」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
◇
話は、
そこで終わった。
合意も、
拒否もない。
ただ――
線が引かれた。
◇
外に出ると、
空気が軽く感じた。
「……本気だな」
ミラが言う。
「ああ」
「次、
何する?」
全員の視線が、
俺に集まる。
俺は、
いつも通り、腕を組んだ。
「……何もしない」
正直な答えだった。
だが――
その“何もしない”が、
もう許されない段階に
入っている。
ぽめは、
黙って歩いている。
まだ、
何もしない。
だが――
次に世界が踏み込んだら、
止まるのは、
確実にこちらではない。




