第18話 切り離される仲間
異変は、戦場では起きなかった。
むしろ――
安全な場所から始まった。
◇
「……通達です」
ギルドの受付で、
女性が声を落として言った。
「個別行動の推奨?」
ミラが紙を覗き込む。
「なにそれ」
書類には、淡々とした文字。
《活動分析課勧告》
《当該パーティは、
今後の任務において
役割分離を推奨する》
「……要するに」
ガルドが言う。
「一緒に動くな、
ってことですね」
「はい」
受付の女性は、
目を逸らした。
◇
理由は、書かれていない。
だが、
全員が分かっていた。
強すぎるからでも、
弱すぎるからでもない。
“揃いすぎている”からだ。
◇
「じゃあさ」
ミラが、
わざと明るく言う。
「別々で行けば、
問題ないってこと?」
返事は、なかった。
◇
最初に分けられたのは、
ガルドだった。
《前線固定要員は、
単独行動を基本とする》
「……単独?」
ガルドは、
困った顔をした。
「前に立つだけですよ、
俺」
「だからです」
書類には、
理由だけが並ぶ。
《防御因果が過剰》
《周囲への影響が大》
ガルドは、
何も言えなかった。
◇
次は、コムギ。
《補給支援は、
専属化を推奨》
「……え?」
「戦闘同行は、
不要と判断されました」
コムギは、
袋を抱え直す。
「でも……
一緒じゃないと」
声が、
小さくなる。
◇
フィーも同じだった。
《生体調律対象は、
事前指定制へ移行》
「つまり?」
フィーが聞く。
「現場で、
勝手に直すな、って」
ミラが代弁した。
「……雑だな」
フィーは、
笑えなかった。
◇
ミラだけは、
まだ何も書かれていない。
だが――
それが一番、嫌だった。
「……ねえ」
ミラが、
俺を見る。
「これ、
次は私だよね」
「……ああ」
否定はできない。
◇
クラウスは、
最初から対象外だった。
“観測不能”。
それだけが、
書かれている。
◇
「……どうする」
ガルドが、
小さく言った。
誰も、
すぐに答えられない。
◇
その時。
ぽめが、
小さく鳴いた。
「……?」
全員が、
そちらを見る。
毛玉は、
いつも通りだ。
何も変わらない。
だが――
この空気が嫌だ
と言っているようだった。
◇
「……大丈夫だ」
俺は、
初めてはっきり言った。
「一緒に、
動かなくても」
全員が、
こちらを見る。
「……何か、
考えが?」
コムギが、
恐る恐る聞く。
「ない」
正直に答えた。
だが――
それでも。
「役割を切られても、
関係は切れない」
それだけは、
確信していた。
◇
その夜。
宿の部屋は、
いつもより静かだった。
ガルドは、
壁の前に立っている。
誰も、
守るものがいない位置で。
コムギは、
余った食材を見つめている。
フィーは、
直す予定のない包帯を巻いている。
ミラは、
弦を張り替えずに座っている。
クラウスは、
糸を張らない。
◇
ぽめは、
部屋の中央に座っていた。
初めての位置だ。
全員の間。
何もしない。
ただ、
そこにいる。
◇
世界は、
役割を切り離した。
だが――
切り離したつもりなだけだ。
まだ、
本当に切れたものは、
一つもない。
それに気づくのは、
次に“何か”が起きたときだ。
第19話 19日更新




