第17話 敵は、定義される
世界調停機構・中央評議室。
いつもより人が多かった。
それだけで、事態の深刻さが分かる。
「――再定義は、失敗した」
議長が、淡々と言った。
反論はない。
◇
「対象は、
能力を持たない」
「しかし、結果を歪める」
「因果を操作している証拠は?」
「……ない」
それが、最大の問題だった。
◇
「囲えない」
誰かが言う。
「命名できない」
別の誰かが続ける。
「干渉できない」
沈黙。
◇
議長は、書類を閉じた。
「では、結論だ」
重い声。
「対象を“脅威”として扱う」
誰かが、息を呑む。
◇
「待ってください」
若い観測官が、声を上げた。
「直接的な被害は、
一切確認されていません」
「被害が出てからでは遅い」
議長は即答した。
「“終わらなかった”という事実が、
すでに異常だ」
◇
「脅威分類は?」
「……環境干渉型」
「いや」
別の声が割り込む。
「終焉否定型」
その言葉が、
評議室に落ちた。
◇
「終焉を否定する存在は、
世界の循環を乱す」
「終わるべきものが、
終わらない」
「それは、停滞だ」
誰も反論できなかった。
◇
「対処方針」
議長が続ける。
「直接攻撃は行わない」
「接触も避ける」
「――定義する」
空気が、張り詰める。
◇
「対象本人ではない」
議長は、次の書類を開いた。
「周囲から切り崩す」
名前が並ぶ。
ガルド。
コムギ。
フィー。
ミラ。
クラウス。
「役割を固定し、
行動を制限する」
「定義を強めれば、
中心は弱まる」
理屈は、通っていた。
◇
「……失敗した場合は?」
誰かが尋ねる。
議長は、少しだけ黙ってから答えた。
「次は、切断だ」
何を、とは言わない。
だが、全員が理解した。
◇
一方、その頃。
宿の裏庭。
ミラは、ギターの弦を張り替えていた。
「……空気、
重いね」
ガルドは、
何もない場所に立つ。
「前に、
何かあります」
コムギは、
いつもより多めに準備していた。
「理由、
分からないですけど」
フィーは、
指先の感覚を確かめる。
「……嫌な予感」
クラウスは、
紙を見ていない。
見る必要がない。
◇
ぽめは、
相変わらず寝ている。
名前も。
役割も。
定義もない。
ただ、
そこにいる。
◇
俺は、
腕を組んで立っていた。
いつも通りだ。
「……なあ」
ミラが言う。
「世界、
こっち見てるよね」
「ああ」
それだけは、
否定できない。
◇
遠くで、
何かが動き出した気配がした。
戦いではない。
だが――
戦いよりも、
ずっと厄介なものだ。
名前。
定義。
役割。
それらが、
刃になる。
ぽめは、
まだ動かない。
だが、
次に世界が踏み出したら。
止まるのは、
どちらか一方だ。




