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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第15話 名前を与えられる者たち

ギルドの空気が、また変わっていた。


 静かだ。

 だが、これまで感じてきた「視線の静けさ」とは違う。


 今回は――

 固まっている。



「……書類、増えてません?」


 コムギが、受付のカウンターを見て言った。


 確かに。


 いつもの依頼書の横に、

 見慣れない封筒が並んでいる。


 色が違う。

 質も違う。


 公式すぎる。



「トンヌラさん」


 受付の女性は、

 声を少しだけ低くして言った。


「……こちら、

 ギルド本部からの要請です」


「要請?」


「はい。

 再判定をお願いしたいと」



 奥の応接室に通される。


 机の中央に、

 見覚えのある水晶が置かれていた。


 昼間なのに、部屋だけが薄暗い。

 光を吸っているような透明。


「本来は一度きりですが」


 活動分析課の男は言う。


「あなた方の場合、

 例外処理となりました」


 水晶の底で、

 小さな粒が、ゆっくり回っていた。



「では、順に」


 男はガルドを見た。


「手を」


 ガルドが触れた瞬間、

 水晶の内側で光がひとつ弾ける。


《自宅警備員》


 変わらない。


「ほら、やっぱり」


 ガルドは安堵したように肩を落とした。



 次にコムギ。


《管理栄養士》


「……ですよね」


 本人も納得している。



 フィー。


《ペットシッター》


「うん、知ってた」


 軽い。



 クラウス。


《手品師》


 沈黙。


 水晶だけが、

 呼吸みたいに淡く明滅する。



「最後に」


 男は俺を見た。


「あなたを」


 水晶に手を置く。


《ネームレス》


 やはり、何もない。



「以上です」


 男は書類をまとめた。


「やはり特異性は――」


「ちょっと待ってください」


 俺は、水晶から手を離した。


「もう一回、

 いいですか」


 水晶の底で、粒が止まる。


「……構いませんが」



 俺は、ガルドを見た。


「ガルド」


「はい」


 言葉が、喉の奥で形を持つ。

 昔からそこにあったみたいに。


「今日からお前の名前は――

 《バトル・ウォーデン》」


 音が落ちた瞬間、

 水晶がひとりでに震えた。


《バトル・ウォーデン》


 文字が、静かに塗り替わる。


「……は?」


 ガルドの声だけが、遅れて届く。



「コムギ」


「は、はい」


「《ミリタリー・サスティナー》」


 水晶が、深く呼吸する。


《ミリタリー・サスティナー》


「え、え?」



「フィー」


「なんか背中ぞわっとした」


「《バイオ・チューナー》」


《バイオ・チューナー》


「……まじ?」



 部屋が、静まり返る。


 水晶の光だけが、

 薄い鼓動みたいに揺れている。


 職員のペンが、床に落ちた。


「そんな……

 水晶は、後から変わらないはずで――」



 その沈黙に、

 ミラがひょいと顔を出した。


「ねえねえ」


 空気と無関係な声。


「みんな、私と同じで名前変わったね」


「同じってお前」


「いいじゃん、かっこいいし」


 ミラは肩をすくめる。


「名前なんて、強そうなほうが得でしょ?」


 誰も答えられない。



「クラウス」


 彼は、ゆっくり顔を上げた。


「お前は、まだいい」


 水晶は動かない。


《手品師》


「……助かる」


 短い返事。



 俺は最後に、自分に触れた。


《ネームレス》


 変わらない。


 それでいい。



「今のは」


 職員が震える声で言う。


「いったい、何を――」


「命名です」


 俺は答えた。


「決めたんじゃない。

 預けただけ」


 水晶の光が、

 小さく一度だけうなずいた。



 部屋を出ると、

 廊下がやけに明るく感じた。


「……名前、増えましたね」


 コムギが言う。


「増えてない」


 ガルドは即答した。


「預かっただけです」


 その通りだ。



 その夜。


 宿の部屋。


 ぽめは、

 いつもの場所で丸まっている。


 名前も。

 分類も。

 何もない。


 俺は、

 その姿を見下ろして思った。


 ――世界は、

 理解できないものを

 水晶で縛ろうとする。


 だから俺は、

 縛らない側に立つ。


 名を、預かるだけ。


 ぽめは、

 何もしていない。


 そして――

 俺も、

 まだ何もしていない。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

まだ半分です。

トンヌラは相変わらず何もしてません。

でも世界は勝手に本気になってきました。


★をもらえると、

ぽめがちょっとだけ前に出ます(たぶん)。


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