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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第14話 反応しないはずのもの

その日の討伐依頼は、奇妙だった。


《詳細:未記載》

《危険度:低》

《追記事項:現地判断》


「……低?」


 ミラが眉をひそめる。


「この書き方で、

 低って書くの、

 だいたい嘘だよね」


「同感だ」


 俺は短く答えた。



 目的地は、

 かつて集落だった場所だ。


 建物の骨組みだけが残り、

 風が通るたびに、

 空洞が鳴る。


「……音、悪いな」


 ミラが小さく言う。


「ノリ、死んでる」


 ガルドは、

 いつもより一歩、前に出た。


「前が、

 やけに広いです」


 コムギは、

 補給袋を抱え直す。


「……計算、合わない」


 フィーは、

 無言で周囲を見る。


 クラウスは、

 いつもより後ろに下がっていた。


 そして――

 ぽめは。


 起きていた。



「……あれ?」


 フィーが、

 足元を見る。


「起きてる」



挿絵(By みてみん)


 ぽめは、

 四つ足で立ち、

 こちらを見ていた。


 いつもの、

 ぼんやりした目ではない。


 焦点が合っている。


「……珍しいですね」


 コムギが言う。


「いつも、

 寝てますよね」


 ガルドは、

 前に立ったまま、

 小さく呟く。


「……嫌な感じです」



 魔獣は、

 姿を見せなかった。


 だが、

 気配だけがある。


 重い。

 濃い。


 何かが、

 “来ない”まま、

 そこにいる。


「……これは」


 ミラが、

 声を落とす。


「戦場じゃない」


 俺も、

 同じことを思っていた。


 ここは――

 境目だ。



 ぽめが、

 一歩、前に出た。


「……え?」


 フィーが、

 思わず声を漏らす。


 毛玉は、

 低く唸る。


 それだけ。


 攻撃しない。

 変身しない。


 ただ、

 存在を主張する。


 次の瞬間。


 風が、

 止まった。



「……っ」


 ガルドが、

 踏み込もうとして――

 止まった。


「……前に、

 出られない」


 ミラが、

 叫ぼうとして――

 声が出ない。


 コムギの手が、

 補給袋に伸び――

 意味を失う。


 フィーの再生が、

 必要ないと告げる。


 クラウスは、

 紙を取り出さなかった。


 全員が、

 “やる必要がない”

 と理解していた。



 ぽめは、

 ただ、そこに立っている。


 小さな身体で。

 何も変えず。


 だが、

 これ以上、

 何も起きない

 と分からせるには、

 十分だった。



 数秒。


 あるいは、

 もっと短い時間。


 やがて、

 重さが、消えた。


 風が、戻る。


 音が、戻る。


 ぽめは――

 あくびをした。


挿絵(By みてみん)


 そして、

 座り込む。


 終わりだ。



「……今の」


 ミラが、

 ゆっくり息を吐く。


「……何?」


「分からない」


 ガルドが、

 正直に言う。


「でも……

 前に立たなくて、

 よかった」


 コムギは、

 小さく頷いた。


「……消耗、

 しなかったですね」


 フィーは、

 肩をすくめる。


「壊れもしなかった」


 クラウスは、

 黙ったまま、

 ぽめを見る。


 ――糸は、

 張られていない。



 帰り道。


「……依頼、

 達成ですよね?」


 コムギが、

 不安そうに言う。


「ああ」


 俺は、

 そう答えた。


 実際、

 何も起きなかった。


 だが――

 起きなかったこと自体が、

 異常だ。



 夜。


 宿の部屋。


 ぽめは、

 いつもの場所で丸まっている。


 何もなかったように。


 俺は、

 その姿を見下ろし、

 小さく呟いた。


「……まだ、

 名前は呼ばない」


 毛玉は、

 返事をしない。


 ただ、

 寝息を立てる。


 世界は、

 今日も終わらなかった。


 だが――

 終わりが、

 確かに“近づいた”

 気配だけは、

 残っていた。


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