第13話 監視されている日常
変わったことは、特にない。
朝は起きて、
準備をして、
依頼を確認する。
それだけだ。
◇
「……なんか、
見られてる気しません?」
ギルドへ向かう途中、
コムギが小声で言った。
「気のせいだ」
即答したのはガルドだ。
「見られてるなら、
前に出ます」
「意味ある?」
「あります」
彼は真顔だった。
前に立てば、
後ろは守れる。
理由はそれだけだ。
◇
ギルドの空気は、
微妙に変わっていた。
露骨ではない。
だが、視線が逃げない。
「……あれ?」
ミラが首を傾げる。
「ギルドの人、
今日やたら静かじゃない?」
「確かに」
フィーが笑う。
「前はもっと、
ヒソヒソしてたのに」
それが一番、
嫌な変化だった。
◇
受付の女性は、
妙に丁寧だった。
「お、おはようございます、
トンヌラさん」
「おはよう」
「本日の依頼ですが……」
差し出された紙には、
簡潔な内容だけが書かれている。
《討伐》
《危険度:中》
《詳細:未記載》
「……雑ですね」
ミラが言う。
「余計なこと、
書かなくなった感じ」
つまり、
見られている前提だ。
◇
外へ出ると、
足元で何かが動いた。
「……?」
白くて、
小さくて、
丸い。
「……犬?」
フィーが、しゃがみ込む。
毛玉は、
こちらを見上げて、
あくびをした。
「かわいい」
「……どこから来た」
ガルドが周囲を見回す。
首輪はない。
魔獣の気配もない。
ただ、
最初からそこにいた
みたいな顔をしている。
◇
「ついてくる?」
フィーが立ち上がると、
毛玉は当然のように歩き出した。
列の後ろ。
ちょうど、
誰の邪魔にもならない位置。
「……放っておく?」
コムギが言う。
「危なくないですか」
「大丈夫でしょ」
ミラは、軽く言った。
「ノリ、悪くないし」
判断基準が、
よく分からない。
◇
討伐は、問題なく終わった。
ガルドは前に立ち、
止めた。
コムギは支え、
減らさなかった。
フィーは触れ、
戻した。
ミラは叫び、
揃えた。
クラウスは、
何もしなかった。
毛玉は――
寝ていた。
◇
帰り道。
「……役に立ってませんね」
ガルドが、
毛玉を見ながら言った。
「うん」
フィーは、即答した。
「何もしてない」
ミラが、笑う。
「逆にすごくない?」
「……すごい、ですか?」
コムギが首を傾げる。
「だってさ」
ミラは肩をすくめる。
「このチームで、
何もしないでいられるって、
相当だよ」
◇
その時、
毛玉が目を開けた。
ほんの一瞬、
こちらを見る。
――何も起きない。
ただ、
風が止んだ気がした。
◇
ギルドに戻ると、
報告はすぐ終わった。
書類は、
淡々と処理される。
誰も、
深掘りしない。
それが、
監視のやり方だった。
◇
宿に戻ると、
毛玉は、部屋の隅に丸まった。
「……名前」
フィーが言う。
「つける?」
ガルドは首を振る。
「まだです」
ミラも、頷く。
「今は、
呼ばないほうがいい」
クラウスは、
何も言わない。
ただ、
視線だけを落とした。
◇
夜。
トンヌラは、
いつも通り、腕を組んで立っていた。
理由はない。
だが、
ふと足元を見る。
毛玉が、
そこにいた。
気配もなく。
当然のように。
「……お前」
声をかけても、
返事はない。
毛玉は、
もう一度あくびをして、
目を閉じた。
――世界は、
今日も終わらなかった。
それでいい。
今は、
それだけで。
■ 基本情報
•名前:ぽめ
•種別:犬(ポメラニアン風)
•大きさ:小さい
•重さ:軽い
•役割:特になし
よく寝る。
よくあくびをする。
だいたい丸い。
⸻
■ 見た目
ふわふわしている。
小さくて、柔らかい。
目は大きめで、
たいてい閉じている。
どこから見ても、
危険そうな要素はない。
⸻
■ 性格
おとなしい。
吠えない。
騒がない。
誰かに構われても、
嫌がらない。
特別な忠誠心や使命感は、
たぶんない。
⸻
■ 行動パターン
•寝る
•丸くなる
•あくびをする
•たまに場所を移動する
戦わない。
逃げない。
守らない。




