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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第2話 たたかったら、負けだと思ってるんで

 掲示板の前で、俺は腕を組んでいた。


 紙。

 紙。

 紙。


 依頼書がずらりと並ぶ中、目に入る文字はほぼ同じだ。


《薬草採取》

《荷物運搬》

《倉庫整理》


 ――違う。


 そうじゃない。


 十五年の山籠りを経て、俺がやるべきことは、これではない。


 受付に戻ると、先ほどの女性がすぐに気づいた。


「何か、問題でしょうか?」


「討伐依頼をお願いします」


「……討伐、ですか?」


 少しだけ困った顔。


「申し訳ありませんが、討伐依頼は基本的にパーティ向けで……」


「一人では?」


「危険ですので」


 なるほど。


 世界はまだ、俺の力量を測りかねているらしい。


「では、仲間を探します」


「ええ、それが――」


 そう言って、彼女は視線を掲示板の方へ戻した。


 つまり、あそこだ。



 掲示板の前に立つ冒険者たちは、みな似た顔をしていた。


 剣。

 杖。

 鎧。


 そして、誰もが「強そう」に見える。


 だが、その輪の外に。


 一人だけ、明らかに違う空気の男がいた。


 背は高い。

 細身。

 装備は……ほぼない。


 壁に背を預け、腕を組み、ぼんやりと掲示板を眺めている。


 ――暇そうだ。


 俺は、迷わず声をかけた。


「あなた」


 男はゆっくりとこちらを見る。


「……俺ですか」


「仲間を探している」


「……ああ」


 納得したように頷いたあと、彼はあっさり言った。


「無理ですね」


「理由は」


「自宅警備員なんで」


 沈黙。


「……それは、職業ですか」


「はい」


 彼は少しだけ胸を張る。


「自宅警備員。

 括弧付きで、ニートです」


 なるほど。


 理解した。


 だから誰も声をかけない。


「戦えない?」


「戦えませんね」


「逃げ足は」


「普通です」


「では、なぜここに」


「暇なんで」


 完璧だ。


 だが――。


「それでも、いい」


 俺がそう言うと、男は初めて少しだけ驚いた顔をした。


「……いいんですか」


「問題ない」


「討伐ですよ?」


「分かっている」


 彼はしばらく俺を見つめ、それから小さく笑った。


「……変わってますね」


 そう言って、壁から背を離す。


「ガルドです」


「トンヌラだ」


 小声で名乗ると、ガルドは聞かなかったことにした。


「一つだけ、言っておきますけど」


 彼は歩き出しながら、淡々と続ける。


「俺、前には出ます」


「戦うために?」


「いえ」


 ガルドは、あっさりと言った。


「たたかったら、

 負けだと思ってるんで」


 その言葉が、妙に胸に残った。



 初めての討伐依頼。


 相手は、町外れに出没する小型魔獣。


 俺が何かをする前に、ガルドは一歩前に出た。


 それだけだ。


 武器も振らない。

 構えもしない。


 ただ、立つ。


 魔獣が飛びかかろうとして――止まった。


 何かにぶつかったように。


 いや、ぶつかってはいない。


 だが、進めない。


「……あれ?」


 ガルドは首を傾げる。


「前に立ってるだけなんですけど」


 次の瞬間、魔獣は力尽きたように崩れ落ちた。


 沈黙。


 俺は、何もしていない。


 だが背後から、誰かの声が聞こえた。


「いまの……見たか?」


「一瞬で……」


「指示もなしに……」


 違う。


 違うが――。


 俺が否定する前に、世界は結論を出していた。


 ――トンヌラが、やった。


 ガルドは地面を見下ろし、ぽつりと呟く。


「……だから言ったんです」


「?」


「たたかったら、負けだって」


 その日、

 俺とガルドの名前は、静かに広まり始めた

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