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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第12話 調停機構、気づく

世界調停機構・第二観測室。


 そこは、音のない部屋だった。


 書類が積まれ、

 水晶板が並び、

 人の声だけが、慎重に選ばれている。


「……更新を」


 白衣の女性が言う。


「対象コード《ネームレス》、

 直近の因果ログを」


 水晶板が淡く光る。



「……おかしい」


 最初に口を開いたのは、

 年配の観測官だった。


「戦闘ログに、

 “原因”が記録されていない」


「削除されたのでは?」


「違う。

 最初から、存在しない」


 別の職員が、眉をひそめる。


「再生、補給、防御、

 連携……

 どれも単体では説明可能です」


「だが」


 観測官は、画面を指す。


「それらを束ねる因果がない」


 空白。

 中心に、ぽっかりと。



「中心人物は?」


「トンヌラ。

 職業:《ネームレス》」


「能力は?」


「……不明」


 一瞬、沈黙。


「“不明”?」


「はい。

 行動ログ、

 意思決定ログ、

 すべてが……」


 職員は言葉を探す。


「平坦すぎます」



 別の水晶板が映し出される。


《観測結果要約》

・前線に立たない

・指示を出さない

・詠唱を行わない

・それでも戦果が最大化


「……逆に、

 何をしていると?」


 誰かが、半ば冗談で言った。


 だが、

 誰も笑わなかった。



「この現象、

 分類不能です」


 白衣の女性が言う。


「強化系でもない。

 支援系でもない。

 指揮系でもない」


「では?」


「……空白系」


 その言葉に、

 部屋の空気が張り詰める。



「危険度は?」


「測定不能」


「監視対象に昇格を」


 即断だった。


「直接介入は?」


 観測官は、首を振る。


「不可」


「理由は?」


「……触れた瞬間、

 壊れる可能性がある」


 何が、とは言わない。


 だが、

 全員が同じものを思い浮かべていた。



 最後に、

 別の職員が報告を付け足す。


「補足です。

 同行者の中に、

 因果干渉の痕跡があります」


「誰だ」


「……クラウス。

 職業:手品師」


 観測官が、

 静かに目を細めた。


「……なるほど」


 空白の周囲に、

 糸を引く者がいる。



「結論」


 白衣の女性が、まとめる。


対象ネームレスは、

 世界を壊す存在ではない」


 一拍、置いて。


「……だが、

 世界を“終わらせない”存在である

 可能性が高い」


 その言葉が、

 正式記録として刻まれた。



 一方、その頃。


 宿の一室。


 トンヌラは、

 腕を組んで立っていた。


 特に理由はない。


「……今日も、

 何も起きなかったな」


 ガルドが言う。


「良いことだ」


「ですね」


 ミラは、ギターを壁に立てかける。


「静かすぎて、

 逆に怖いけど」


 フィーは、欠伸をした。


 コムギは、

 明日の献立を考えている。


 クラウスは、

 黙って糸を外す。



 誰も知らない。


 世界が、

 彼らを見始めたことを。


 そして――

 見ても、理解できなかったことを。


 調停は、

 まだ始まっていない。


 だが、

 観測は、もう止まらない。

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