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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第11話 手品師の仕事

異変は、小さかった。


 小さすぎて、

 誰も「事件」だとは思わなかった。



 討伐対象は、遺跡跡に出没する中型魔獣。


 数は少ない。

 動きも単純。


「……今日は楽ですね」


 コムギが言う。


「油断は禁物だ」


 ガルドは、いつも通り前に立つ。


 ミラは、肩でギターを回しながら欠伸をした。


「ノリも普通だし、

 ウォームアップって感じ」


 フィーは、指を鳴らす。


「壊れたら直すだけね」


 ――完璧だ。


 完璧すぎる。



 最初の一体は、問題なく倒れた。


 二体目も。

 三体目も。


 だが、四体目で――

 違和感が走った。


「……?」


 ガルドが、足を止める。


 前に立った。


 ――止まらない。


「っ……?」


 魔獣が、

 半歩だけ、踏み込んだ。


 それだけだ。


 それだけなのに、

 空気が歪んだ。



「……ズレた」


 ミラが、低く言う。


 叫ぼうとした声が、

 一瞬、遅れた。


 コムギの補給も、

 ほんのわずか、遅れた。


 フィーの手が伸びる前に、

 魔獣の爪が――。



 その瞬間。


 何も起きなかった。


 爪は、

 当たるはずの場所を、

 すり抜けた。


「……え?」


 フィーが瞬きする。


 ガルドは、

 自分の胸を見下ろした。


「……今の」


 誰も、答えられない。



 魔獣は、

 次の瞬間、倒れていた。


 原因は分からない。

 衝撃も、音もない。


 ただ――

 倒れた。



 戦闘後。


「……今の、何ですか」


 ガルドが、珍しく不安そうに言った。


「俺、止めきれてませんでしたよね」


「……そうだな」


 ミラが、眉を寄せる。


「叫び、間に合ってなかった」


 コムギも、首を傾げる。


「補給、遅れました」


 フィーは、静かに言った。


「再生、してない」


 全員が、同じ結論に辿り着く。


 ――誰も、何もしていない。



 少し離れた場所で、

 クラウスは、鞄の中の紙を見ていた。


 線を一本、消す。


 矢印を、少しだけずらす。


 それだけだ。


「……よし」


 小さく呟く。



 帰り道。


「……今日、

 トンヌラさん、

 何かしました?」


 コムギが、恐る恐る聞いた。


「いや」


 俺は、即答した。


 実際、何もしていない。


 ミラが、腕を組む。


「じゃあ……

 “自動”?」


 その言葉に、

 誰も笑わなかった。



 ギルドの報告書には、

 こう書かれた。


《想定外の攻撃を、

 事前に回避》


 誰かが、呟く。


「……予知、か?」


 違う。


 そんな力はない。



 宿に戻った夜。


 クラウスは、机の上に

 小さな木製の人形を並べていた。


 一本、糸を張る。


 ほんの少しだけ。


「……ズレは、戻した」


 それだけだ。


 手品師の仕事は、

 観客に気づかれないこと。


 今回も、

 うまくいった。



 トンヌラは、

 その夜も、腕を組んで立っていた。


 何も知らず。

 何もせず。


 だが――

 何も起きなかったことが、

 この日の最大の成果だった。

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