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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第10.5話 何もしないという選択

クラウスは、少し離れた場所に立っていた。


 近すぎると、邪魔になる。

 遠すぎると、観測できない。


 ――この距離が、ちょうどいい。



 戦闘は、相変わらず理解できない。


 前に立つ男。

 疲れない補給。

 壊れても戻る身体。

 叫びで揃う動き。


 理屈を積み上げれば、

 説明できそうな要素はある。


 だが、全体としては破綻している。


「……なのに、成立している」


 クラウスは、小さく呟いた。


 成立してはいけないものが、

 当たり前のように回っている。



 だから、手を出さない。


 下手に触れれば、

 壊れるのは、敵ではなく――

 この均衡だ。


 彼は、鞄の中の紙に目を落とす。


 線。

 矢印。

 因果の流れ。


 どこかで、

 必ず“飛んでいる”。


「……やっぱり」


 中心に、

 空白がある。


 誰も指示を出していない。

 誰も判断していない。


 それなのに、

 全員が“正しい位置”にいる。


 ありえない。



 だから、観る。


 手品師として、

 彼が得意なのは――

 注意を逸らすことだ。


 人は、見たいものを見る。

 見たくないものを、見ない。


 今、全員が見ているのは、

 「結果」だ。


 見ていないのは――

 何もしていない男。


 クラウスは、そこを見る。



 トンヌラ。


 腕を組み、

 動かない。


 だが、

 空気は、彼を避けて流れている。


「……舞台装置」


 それが、一番近い。


 役者じゃない。

 演出でもない。


 でも、

 無いと成立しない。



 戦闘が終わった時、

 クラウスは、紙に一行書き足した。


《中心:未定義》

《行動:なし》

《影響:極大》


 理屈が、拒否反応を起こす。


 それでも、

 書かずにはいられない。



 帰り道。


「役に立ってませんよね」


 そう言ったのは、

 本心だった。


 だが、同時に――

 確認でもあった。


 ここで「役に立つ」と言われたら、

 この場を離れるつもりだった。


 均衡は、

 触らない方がいい。



 だが。


「邪魔じゃない」


 そう言われた。


 その一言で、

 クラウスは、少しだけ安心した。


 邪魔でないなら、

 観測は続けられる。



 夜。


 宿の隅で、

 クラウスは人形を一つ、取り出した。


 小さな木製の人形。


 まだ、何もしていない。


「……出番は、まだだ」


 そう呟き、

 人形を鞄に戻す。


 彼は知っている。


 手品師の本領は、

 何も起きていない時間にこそある。


 そして――

 このチームは、

 あまりにも“起きなさすぎる”。


 いずれ、

 その反動が来る。


 その時こそが、

 自分の仕事だ。


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