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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第10話 役に立たない男

そいつは、最初から場違いだった。


 ギルドの片隅。

 掲示板の影。

 人の流れから、半歩ずれた場所。


 戦う装備はない。

 筋肉もない。

 雰囲気もない。


 あるのは――

 鞄と、眼鏡と、落ち着きすぎた態度だけ。


「……あの人」


 コムギが、小声で言った。


「何だ」


「ずっと、こっち見てます」


 視線を向けると、

 男は慌てて目を逸らした。


 完全に、怪しい。



 受付で依頼を確認していると、

 背後から声がした。


「……あの」


 振り返る。


 さっきの男だ。


 近くで見ると、

 なおさら弱そうだった。


 背は普通。

 姿勢はいい。

 だが、戦場に立つ人間のそれじゃない。


「何だ」


「ぼ、僕も……

 一緒に、行ってもいいでしょうか」


 即答で、ガルドが言った。


「無理ですね」


「ですよね」


 男は、あっさり頷いた。


 引き際だけは、妙にいい。


「職業は」


 俺が聞くと、

 男は少しだけ胸を張った。


「……手品師です」


 沈黙。


 今度は、全員が言葉を失った。


「……戦闘、ですよ?」


 フィーが確認する。


「はい」


「死にますよ?」


「たぶん」


 自己評価が、正確すぎる。



「それでも」


 男は、続けた。


「……見ていたいんです」


「何をだ」


「あなたたちを」


 視線が、俺に集まる。


「正確には……

 あなたが、何もしないところを」


 空気が、少し冷えた。


 ミラが、眉を上げる。


「喧嘩売ってる?」


「いえ!」


 男は、慌てて首を振る。


「そうじゃなくて……

 あれは、

 “空白”なんです」


「……空白?」


「はい」


 男は、眼鏡を押し上げる。


「誰も埋めない場所。

 でも、確実に、

 全体を支えている場所」


 理解できる者は、いなかった。



 それでも。


「……同行を許可する」


 俺は、そう言った。


 理由は分からない。


 だが――

 邪魔になる気がしなかった。



 討伐は、問題なく始まった。


 いつも通り。


 ガルドが前に立つ。

 止まる。


 コムギが支える。

 減らない。


 フィーが触れる。

 戻る。


 ミラが叫ぶ。

 揃う。


 ――そして。


 男は、

 何もしなかった。


 逃げもしない。

 戦いもしない。

 ただ、

 距離を保って立っている。


「……何も、してませんね」


 ガルドが呟く。


「はい」


 男は、即答した。


「それが、僕の仕事なので」


 意味が分からない。



 戦闘が終わる頃、

 男は、鞄から紙を取り出した。


 何かを、書いている。


「……記録?」


「はい」


「何を」


 男は、一度だけ、こちらを見た。


「因果です」


 その言葉が、

 場に残った。



 帰り道。


 男は、ぽつりと言った。


「……やっぱり」


「何だ」


「僕、役に立ってませんよね」


 ガルドが、首を振る。


「役に立たない人は、

 もっと邪魔します」


 ミラも言う。


「存在感ないのに、

 目障りじゃないの、

 逆にすごい」


 コムギは、少し考えてから言った。


「……空いてる場所、

 必要ですよね」


 男は、驚いたように目を見開いた。



「名前は」


 俺が聞くと、

 男は一瞬、迷った。


「……クラウスです」


「クラウス」


 その名を、

 まだ、何も変えない。


 だが――。


 この“役に立たなさ”は、

 いつか必ず、

 戦場を歪める。


 俺は、なぜかそう確信していた。

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