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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第9話 名前が、先に立つ

次の討伐は、報告書の書き方が少し違った。


《集団戦》

《連携必須》

《指揮系統が不明瞭な場合、失敗率高》


 紙の端に、小さく追記がある。


《掛け声の有無により、戦況が変化した例あり》


「……もう書かれてますね」


 ガルドが苦笑した。


「誰かが、見ている」


「嫌ですね」


 同感だ。



 戦場は、開けていた。


 見通しが良い分、

 動きも見える。


 魔獣は多い。

 だが、昨日ほど嫌な感じはしない。


「……いける」


 ミラが、肩でギターを回した。


「今日は、

 ちゃんと鳴る気がする」


 根拠はない。

 だが、彼女の“感覚”は、

 これまで一度も外れていない。



 戦闘が始まる。


 ガルドが前に立つ。

 止まる。


 コムギが水を渡す。

 減らない。


 フィーが触れる。

 戻る。


 そして――

 ミラが叫ぶ。


「――今!」


 音が走る。


 踏み込み。

 殴打。

 回避。


 全員の動きが、

 一拍で揃う。


 だが、途中でズレた。


「……っ」


 魔獣の一体が、

 予想外の動きをした。


「ミラ!」


「分かってる!」


 叫ぶ。

 だが、声が散る。


 ただの声だ。


 力が、足りない。



 その時、

 誰かが言った。


「……名前だ」


 俺だった。


 無意識に、

 口から零れただけの言葉。


 だが、

 ミラが振り返る。


「……名前?」


「そうだ」


 理由は分からない。

 だが、分かる。


 これは、名前が要る。


 ミラは、にやりと笑った。


「いいね」


 ギターを振り上げる。


「じゃあ――

 次、ちゃんと呼んで」


 魔獣が、迫る。



 俺は、息を吸った。


 意味のある言葉ではない。

 説明も、理屈もない。


 ただ、

 名を預ける。


「――《リズム・ドミネーター》」


 叫んだ瞬間。


 空気が、変わった。


 音が、一本になる。


 ミラの動きが、

 “正しい位置”に固定される。


「――っ!」


 彼女は、笑いながら殴った。


 ギターが鳴る。

 魔獣が崩れる。


 残りも、

 同じテンポで終わった。



 戦いのあと。


 ミラは、息を整えながら言った。


「……今の」


「どうだ」


「最高」


 即答だった。


「叫びが、

 ちゃんと“返ってきた”」


 ガルドが、首をかしげる。


「……名前、

 そんなに違うんですか」


「全然違う」


 ミラは、真顔で言った。


「ノリに、

 責任が乗る」


 その言葉が、

 妙に重かった。



 ギルドに戻ると、

 報告書には、こう書かれた。


《掛け声に名称を付与した結果、

 戦闘効率が飛躍的に向上》


 誰かが呟く。


「……詠唱、だな」


 違う。


 俺は、

 詠唱なんてしていない。


 ただ、

 名前を呼んだだけだ。



 宿に戻る途中、

 ミラが隣を歩きながら言った。


「ねえ」


「何だ」


「その名前」


「気に入らないか」


「逆」


 彼女は、笑った。


「やっと、

 呼ばれた気がした」


 名は、

 人を縛るものだ。


 同時に――

 人を、前に出す。


 俺は、また一つ、

 預けてはいけないものを

 預けてしまった気がした。


 だが、

 後悔はなかった。


 誤解は、

 もう止まらない。

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