第8話 叫びながら、殴る
次の討伐地は、岩が多かった。
足場が悪い。
視界も切れる。
「……嫌な地形ですね」
ガルドが、慎重に前に出る。
「前に立てば、関係ない」
「それが一番怖いんですよ」
もっともだ。
◇
魔獣は、岩陰から出てきた。
大きい。
硬い。
動きも早い。
「……リズム、取れない」
ミラが舌打ちする。
足音が散る。
攻撃の間が合わない。
いつもの“流れ”が、作れない。
魔獣が、跳んだ。
「っ……!」
ガルドが止める。
止まるが、完全ではない。
重い一撃が、
横から抜ける。
◇
「――叫べ!」
ミラが、唐突に叫んだ。
「え?」
「いいから!」
次の瞬間、
彼女はギターを振り上げる。
「――今だァァァ!!」
それだけだ。
意味のある言葉ではない。
技名でもない。
ただの、叫び。
だが。
その声に、
身体が反応した。
ガルドの踏み込みが、
一拍、早くなる。
フィーの再生が、
間に合う。
コムギの補給が、
ぴったり合う。
――揃った。
◇
ミラは、笑った。
「ほら!」
ギターを振る。
鈍い音。
魔獣が、崩れる。
「叫べば、
殴るタイミングが揃うでしょ!」
「……それ、
戦闘理論ですか」
ガルドが聞く。
「当たり前じゃん!」
ミラは即答した。
「ライブだよ、ライブ!
声出さないと、
動けないでしょ!」
誰も、反論できなかった。
◇
戦いは、そのまま終わった。
息は乱れていない。
傷も、戻っている。
だが――
空気が違う。
音が残っている。
叫びの余韻が、
戦場を支配していた。
◇
帰り道。
ミラは、肩にギターを担いだまま言った。
「ねえ」
「何だ」
「次も、呼んで」
軽い口調。
「楽しいから」
理由は、それだけ。
だが、
それで十分だった。
「……同行を許可する」
俺がそう言うと、
ミラは目を輝かせた。
「よっしゃ!」
◇
ギルドに戻ると、
報告は少し変わった。
《戦闘中、
掛け声により動きが最適化》
誰かが、紙を覗き込んで呟く。
「……掛け声?」
「いや、
詠唱じゃないか?」
視線が、こちらに集まる。
違う。
俺は、
叫んでいない。
だが、
世界は、そう解釈した。
◇
宿に戻ると、
ミラはベッドに腰掛けて言った。
「さっきの叫び、
技名つけたほうがよくない?」
「……なぜだ」
「ノリ的に」
なるほど。
戦場は、
もうライブ会場になりつつある。
俺は、何もしていない。
それでも――
叫びは、力として定着し始めていた。




