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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第8話 叫びながら、殴る

 次の討伐地は、岩が多かった。


 足場が悪い。

 視界も切れる。


「……嫌な地形ですね」


 ガルドが、慎重に前に出る。


「前に立てば、関係ない」


「それが一番怖いんですよ」


 もっともだ。



 魔獣は、岩陰から出てきた。


 大きい。

 硬い。

 動きも早い。


「……リズム、取れない」


 ミラが舌打ちする。


 足音が散る。

 攻撃の間が合わない。


 いつもの“流れ”が、作れない。


 魔獣が、跳んだ。


「っ……!」


 ガルドが止める。

 止まるが、完全ではない。


 重い一撃が、

 横から抜ける。



「――叫べ!」


 ミラが、唐突に叫んだ。


「え?」


「いいから!」


 次の瞬間、

 彼女はギターを振り上げる。


「――今だァァァ!!」


 それだけだ。


 意味のある言葉ではない。

 技名でもない。


 ただの、叫び。


 だが。


 その声に、

 身体が反応した。


 ガルドの踏み込みが、

 一拍、早くなる。


 フィーの再生が、

 間に合う。


 コムギの補給が、

 ぴったり合う。


 ――揃った。



 ミラは、笑った。


「ほら!」


 ギターを振る。


 鈍い音。

 魔獣が、崩れる。


「叫べば、

 殴るタイミングが揃うでしょ!」


「……それ、

 戦闘理論ですか」


 ガルドが聞く。


「当たり前じゃん!」


 ミラは即答した。


「ライブだよ、ライブ!

 声出さないと、

 動けないでしょ!」


 誰も、反論できなかった。



 戦いは、そのまま終わった。


 息は乱れていない。

 傷も、戻っている。


 だが――

 空気が違う。


 音が残っている。


 叫びの余韻が、

 戦場を支配していた。



 帰り道。


 ミラは、肩にギターを担いだまま言った。


「ねえ」


「何だ」


「次も、呼んで」


 軽い口調。


「楽しいから」


 理由は、それだけ。


 だが、

 それで十分だった。


「……同行を許可する」


 俺がそう言うと、

 ミラは目を輝かせた。


「よっしゃ!」



 ギルドに戻ると、

 報告は少し変わった。


《戦闘中、

 掛け声により動きが最適化》


 誰かが、紙を覗き込んで呟く。


「……掛け声?」


「いや、

 詠唱じゃないか?」


 視線が、こちらに集まる。


 違う。


 俺は、

 叫んでいない。


 だが、

 世界は、そう解釈した。



 宿に戻ると、

 ミラはベッドに腰掛けて言った。


「さっきの叫び、

 技名つけたほうがよくない?」


「……なぜだ」


「ノリ的に」


 なるほど。


 戦場は、

 もうライブ会場になりつつある。


 俺は、何もしていない。


 それでも――

 叫びは、力として定着し始めていた。

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