第7.5話 ノリが死ぬと、人は死ぬ
ミラは、岩の上に腰を下ろしてギターを拭いていた。
血は付いていない。
当たり前だ。
ちゃんと当てたから。
「……やっぱ、音悪かったな」
弦を軽く弾く。
きぃん、と乾いた音。
悪くない。
でも、さっきの戦場は――
間が死んでた。
◇
戦いって、音楽に似ている。
始まりがあって、
溜めがあって、
落とすところがある。
それを無視すると、
だいたい誰かがズレる。
ズレると、
怪我する。
怪我すると、
空気が壊れる。
「だから嫌なんだよね、
静かすぎる戦場」
ミラは、鼻で笑った。
静かなのは、
上手いからじゃない。
噛み合ってないだけだ。
◇
あのチームを見た瞬間、
違和感があった。
前に立つ男。
減らない体力。
壊れても戻る身体。
なのに――
指揮がいない。
「……ありえなくない?」
普通、誰かが振る。
合図を出す。
間を切る。
それがないのに、
成立してる。
しかも、中心にいる男は、
何もしてない顔をしている。
「一番信用ならないタイプ」
でも、
目が離れなかった。
◇
実際、声を出してみたら――
はまった。
「そこ、今!」
それだけで、
全員の動きが揃った。
偶然じゃない。
あれは、
揃う前提の空気だった。
ミラは、それを叩いただけ。
◇
戦いが終わったあと、
あの男――トンヌラは、
何も言わなかった。
感想も。
指示も。
評価も。
それが、逆に怖い。
音を聞いてない人間じゃない。
聞いた上で、
何も言わない。
「……プロデューサー気取りかよ」
そう思ったが、
違う気もした。
あれは――
舞台装置だ。
自分が鳴れば、
勝手に成立する場所。
◇
ミラは、立ち上がって肩にギターを担ぐ。
「ま、いいや」
ノリが合うなら、
続けてもいい。
危ない?
当然だ。
でも、
ノリが死んでる場所よりはマシ。
最後にもう一度、弦を鳴らす。
きぃん。
「……ああ」
思わず、笑った。
「このバンド、
たぶん、
めちゃくちゃでかい音、出すわ」




