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ゴカイ無双 ~説明しよう! これは最強ではない男が、誤解されたまま責任だけを引き受ける物語である~  作者: フラグメント水沢


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第7話 戦場は、静かすぎると壊れる

 次の討伐地へ向かう道は、妙に静かだった。


 鳥が鳴かない。

 風も、ほとんど動かない。


「……嫌ですね」


 ガルドが、低く言った。


「何がだ」


「音がないのが」


 確かに。


 これまでの戦いは、

 不思議と“うるさかった”。


 敵の声。

 こちらの足音。

 呼吸。

 何かしら、リズムがあった。


 だが今は――

 間が、続きすぎている。



 魔獣は、いた。


 数は少ない。

 動きも遅い。


 なのに、嫌な感じがする。


「……来ませんね」


 コムギが、小さく言った。


「来る」


 俺はそう返した。


 理由は分からない。

 だが、そういうものだ。


 次の瞬間。


 魔獣が、一斉に動いた。


 速い。

 不自然に、揃っている。


「っ……!」


 ガルドが前に出る。

 止まる。


 だが――。


「……抜ける!」


 一体、二体。

 間合いのズレを突いて、

 横から滑り込んでくる。


「フィー!」


「見てる!」


 腕が伸びる。

 再生が走る。


 だが、

 何かが噛み合っていない。


 止まるはずのところで、止まらない。

 補給は足りているのに、動きが遅れる。


「……リズム、悪い」


 ガルドが、歯を食いしばる。



 その時だった。


 ――音。


 不意に、

 金属音が鳴った。


 きぃん、と甲高く。

 一定の間隔で。


「……?」


 次に、声。


「――そこ、間が死んでる!」


 怒鳴り声。

 妙に通る。


 視線を向けると、

 岩の上に一人、立っていた。


 派手な服。

 肩から下げた、奇妙な形の武器。


 ……いや。


「ギター……?」


「そう!」


 女は叫んだ。


「テンポ遅い!

 前出るなら、今!」


 次の瞬間、

 彼女は飛び降りた。


 着地と同時に、

 ギターを振り抜く。


 鈍い音。

 魔獣が吹き飛ぶ。


「……え?」


 コムギが、目を瞬かせる。



「なに呆けてんの!」


 女は叫びながら、もう一体を殴る。


「合わせて!

 せーの、で行けるでしょ!」


 不思議なことが起きていた。


 彼女の声に合わせて、

 動きが揃う。


 ガルドの一歩が、

 ちょうどいい位置になる。


 フィーの再生が、

 間に合う。


 コムギの補給が、

 遅れない。


 俺は――

 何もしていない。


 だが、

 戦場が“流れ始めた”。



 最後の魔獣が倒れる頃、

 彼女は肩で息をしながら笑った。


「はー……」


 ギターを肩に担ぐ。


「やっぱさ、

 ノリ悪いと死ぬよね」


「……あなたは」


 俺が問いかけると、

 彼女は胸を張った。


「バンドマン!」


 堂々と言い切る。


「戦いで、それは……」


「関係あるでしょ?」


 彼女は当然のように言った。


「テンポ、間、呼吸。

 全部リズムじゃん」


 誰も、反論できなかった。



 ガルドが、ぽつりと呟く。


「……さっき、

 すごくやりやすかったです」


「でしょ?」


 彼女は笑う。


「名前は?」


 俺が聞くと、

 彼女は少し考えてから答えた。


「ミラ」


 短く、響きのいい名。


「次も、行く?」


 彼女は、軽く言った。


 冗談のように。


 だが、戦場はもう、

 彼女を覚えてしまっている。


 音が、残っている。


 リズムは、消えない。


 そして俺は、

 また一つ増えた誤解を、

 黙って受け取った。


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