第7話 戦場は、静かすぎると壊れる
次の討伐地へ向かう道は、妙に静かだった。
鳥が鳴かない。
風も、ほとんど動かない。
「……嫌ですね」
ガルドが、低く言った。
「何がだ」
「音がないのが」
確かに。
これまでの戦いは、
不思議と“うるさかった”。
敵の声。
こちらの足音。
呼吸。
何かしら、リズムがあった。
だが今は――
間が、続きすぎている。
◇
魔獣は、いた。
数は少ない。
動きも遅い。
なのに、嫌な感じがする。
「……来ませんね」
コムギが、小さく言った。
「来る」
俺はそう返した。
理由は分からない。
だが、そういうものだ。
次の瞬間。
魔獣が、一斉に動いた。
速い。
不自然に、揃っている。
「っ……!」
ガルドが前に出る。
止まる。
だが――。
「……抜ける!」
一体、二体。
間合いのズレを突いて、
横から滑り込んでくる。
「フィー!」
「見てる!」
腕が伸びる。
再生が走る。
だが、
何かが噛み合っていない。
止まるはずのところで、止まらない。
補給は足りているのに、動きが遅れる。
「……リズム、悪い」
ガルドが、歯を食いしばる。
◇
その時だった。
――音。
不意に、
金属音が鳴った。
きぃん、と甲高く。
一定の間隔で。
「……?」
次に、声。
「――そこ、間が死んでる!」
怒鳴り声。
妙に通る。
視線を向けると、
岩の上に一人、立っていた。
派手な服。
肩から下げた、奇妙な形の武器。
……いや。
「ギター……?」
「そう!」
女は叫んだ。
「テンポ遅い!
前出るなら、今!」
次の瞬間、
彼女は飛び降りた。
着地と同時に、
ギターを振り抜く。
鈍い音。
魔獣が吹き飛ぶ。
「……え?」
コムギが、目を瞬かせる。
◇
「なに呆けてんの!」
女は叫びながら、もう一体を殴る。
「合わせて!
せーの、で行けるでしょ!」
不思議なことが起きていた。
彼女の声に合わせて、
動きが揃う。
ガルドの一歩が、
ちょうどいい位置になる。
フィーの再生が、
間に合う。
コムギの補給が、
遅れない。
俺は――
何もしていない。
だが、
戦場が“流れ始めた”。
◇
最後の魔獣が倒れる頃、
彼女は肩で息をしながら笑った。
「はー……」
ギターを肩に担ぐ。
「やっぱさ、
ノリ悪いと死ぬよね」
「……あなたは」
俺が問いかけると、
彼女は胸を張った。
「バンドマン!」
堂々と言い切る。
「戦いで、それは……」
「関係あるでしょ?」
彼女は当然のように言った。
「テンポ、間、呼吸。
全部リズムじゃん」
誰も、反論できなかった。
◇
ガルドが、ぽつりと呟く。
「……さっき、
すごくやりやすかったです」
「でしょ?」
彼女は笑う。
「名前は?」
俺が聞くと、
彼女は少し考えてから答えた。
「ミラ」
短く、響きのいい名。
「次も、行く?」
彼女は、軽く言った。
冗談のように。
だが、戦場はもう、
彼女を覚えてしまっている。
音が、残っている。
リズムは、消えない。
そして俺は、
また一つ増えた誤解を、
黙って受け取った。




