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メモリー・シャワー ~記憶を運ぶ雨~  作者: 伏木 亜耶


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5/8

子供たちの放課後

「やったー!今日の雨、レアだった!」

私、田村リコ(小学5年)は、友達のマナちゃんに自慢した。

放課後の教室。

窓の外は、雨。

でも、もう誰も傘をさしてない。

だって、記憶の雨に濡れるのが楽しみだから。

「なになに?誰の記憶?」

マナちゃんが、キラキラした目で聞いてくる。

「平安時代の貴族!めっちゃ暇そうだった!」

「いいなー。私なんか、おじさんの通勤電車・・・」

マナちゃんは、がっかりした顔をした。

「ハズレじゃん」

「超ハズレ。満員電車、苦しかった」

私たちは、笑った。

記憶の雨って、ガチャみたいで楽しい!


教室には、クラスのみんなが残ってた。

だって、今日の雨、まだ降ってるから。

「俺、昨日、戦国時代の侍もらった!」

ケンタくんが、自慢げに言った。

「すげー!どんな感じ?」

「刀振り回す感覚!めっちゃカッコよかった!」

「いいなー!」

隣の席のユウキくんは、残念そうな顔。

「俺なんか、昭和の主婦・・・」

「ダサっ」

「だろ?料理してる記憶だった」

みんな、笑ってる。

記憶の雨は、毎日の楽しみ。

どんな記憶が降ってくるか、ワクワクする。

「先生ー!今日は何の記憶もらいましたー?」

私が聞くと、担任の佐々木先生が笑った。

「先生はね、江戸時代の商人だった」

「おお!いいじゃないですか!」

「そろばん弾いてる感覚が新鮮だったよ」

先生も、楽しそう。


「ねえねえ、みんな」

マナちゃんが、急に真面目な顔をした。

「最近、変な記憶もらう人、増えてない?」

「変な記憶?」

「うん。人間じゃない記憶」

教室が、ざわついた。

ケンタくんが、言った。

「あー、俺も聞いた。兄ちゃんが、犬の記憶もらったって」

「犬?」

「うん。散歩してる感覚だったって」

ユウキくんも、言った。

「俺のお母さん、木の記憶もらったらしい」

「木!?」

「うん。光合成の感覚?よくわかんないけど」

私は、ちょっと怖くなった。

「それって・・・普通じゃないよね?」

マナちゃんが、頷いた。

「うん。ニュースでも言ってた。記憶予報、最近当たらないって」

先生が、手を叩いた。

「はいはい、みんな。あんまり怖がらなくて大丈夫だよ」

「でも先生、変ですよね?」

「変だけど・・・きっと、何か理由があるんだよ」

先生は、優しく笑った。

でも、その目は・・・ちょっと不安そうだった。


その日の帰り道。

私とマナちゃんは、一緒に歩いていた。

雨は、まだ降っている。

「リコちゃん、本当に人間じゃない記憶って降るのかな?」

「わかんない。でも、みんな言ってるし」

「怖いね」

「うん」

私たちは、黙って歩いた。

そして。

ドクン

急に、頭の中に何かが流れ込んできた。

「・・・え?」

私は、立ち止まった。

マナちゃんも、立ち止まった。

「リコちゃん・・・今の・・・」

「うん・・・私も」

私たちは、顔を見合わせた。


暗い。

すごく暗い。

誰かが泣いている。

少年?

10歳くらいの男の子。

泣いてる。

「痛いよ・・・」

どこが痛いの?

「全部・・・全部痛い・・・」

少年の体、傷だらけだ。

「なんで・・・こんなに・・・」

少年が、こっちを見た。

「助けて・・・」


「・・・!」

私は、その場にしゃがみ込んだ。

マナちゃんも、しゃがみ込んでいた。

「リコちゃん・・・今の・・・」

「見た・・・少年・・・泣いてた・・・」

「私も・・・」

私たちは、震えていた。

怖い。

すごく、怖い。

でも、怖いだけじゃない。

すごく、悲しい。

あの少年、すごく痛そうだった。

すごく、苦しそうだった。

「リコちゃん、あれ・・・誰?」

「わかんない・・・」

私たちは、立ち上がった。

そして、急いで家に帰った。


家に着いて、お母さんに報告した。

「お母さん!変な記憶もらった!」

「変な記憶?」

「うん!少年が泣いてる記憶!」

お母さんは、顔を曇らせた。

「・・・少年?」

「うん!傷だらけで、すごく痛そうだった!」

お母さんは、私を抱きしめた。

「リコ、怖かった?」

「うん・・・」

「大丈夫。お母さんがいるから」

でも、お母さんの声も、震えていた。


その夜。

私は、ベッドで天井を見つめていた。

あの少年の顔が、頭から離れない。

泣いていた。

すごく、悲しそうに。

誰だろう?

なんで、あんなに傷だらけなんだろう?

私は、スマホを取り出した。

(お母さんには内緒で持ってる)

「泣いてる少年 記憶」で検索。

たくさんの投稿が出てきた。


「今日、泣いてる少年の記憶見た」

「私も見た。すごく怖かった」

「あれ、誰?」

「全国で報告されてるらしい」


私は、投稿を読み続けた。

そして、あるコメントで手が止まった。


「あの少年、地球なんじゃない?」


地球?

どういうこと?

私は、さらに読み進めた。


「地球が、人間に傷つけられてる」

「だから、泣いてる」

「記憶の雨を通じて、助けを求めてる」


私は、スマホを置いた。

地球・・・?

本当に?

窓の外では、雨が降り続けていた。


次の日。

学校に行くと、みんな暗い顔をしていた。

「おはよう、マナちゃん」

「おはよう、リコちゃん」

マナちゃんも、暗い顔。

「昨日の記憶、怖かったね」

「うん・・・」

教室に入ると、もっと驚いた。

みんな、同じ顔をしている。

「ねえ、みんな・・・」

私が聞くと、ケンタくんが答えた。

「みんな、見たんだ」

「見た?」

「うん。昨日の、泣いてる少年」

「え・・・」

ユウキくんも、頷いた。

「俺も見た」

クラスの女子も、みんな頷いてる。

全員が、同じ記憶を見ていた。


朝の会。

佐々木先生が、深刻な顔で言った。

「みんな、昨日の記憶のこと、聞いてもいい?」

全員が、頷いた。

「先生も、見ました」

「先生も・・・?」

「うん。泣いてる少年」

先生は、黒板に書いた。

「泣いている少年=?」

「先生、あれ、誰なんですか?」

ケンタくんが聞いた。

先生は、チョークを置いた。

「正直に言うと・・・先生もわかりません」

「わからない?」

「うん。でも・・・」

先生は、窓の外を見た。

「たぶん、すごく大切なことを伝えようとしてる」

「大切なこと?」

「うん」

先生は、私たちを見た。

「みんな、あの少年、どう思った?」

マナちゃんが、手を挙げた。

「すごく、痛そうでした」

「うん」

ユウキくんも、手を挙げた。

「苦しそうでした」

「そうだね」

私も、手を挙げた。

「先生、あの少年・・・助けを求めてる気がしました」

先生は、頷いた。

「先生も、そう思う」


11

その日の昼休み。

私たちは、図書室に集まった。

ケンタくん、マナちゃん、ユウキくん、それから仲良しのアヤちゃんとタクヤくん。

「ねえ、みんな」

私が言った。

「あの少年のこと、調べない?」

「調べる?」

「うん。絶対、何か意味があると思う」

マナちゃんが、スマホを取り出した。

(学校では禁止だけど、特別)

「私、昨日調べたんだけど・・・」

「何?」

「あの少年、地球なんじゃないかって説がある」

「地球?」

ケンタくんが、首を傾げた。

「どういうこと?」

マナちゃんは、画面を見せた。

「地球が、意識を持ってるんじゃないかって」

「意識?」

「うん。で、人間に傷つけられてるから、記憶の雨を通じて助けを求めてるって」

私たちは、黙った。

タクヤくんが、小声で言った。

「・・・それって、本当なの?」

「わかんない。でも・・・」

アヤちゃんが、言った。

「なんとなく、わかる気がする」

「わかる?」

「うん。だって、あの少年の後ろ、森が燃えてたり、海が汚れてたりしてたでしょ?」

「あ・・・!」

私は、思い出した。

確かに。

あの少年の背景、自然が壊れてた。

「じゃあ、やっぱり・・・」

ケンタくんが、言った。

「地球なんだ」

私たちは、顔を見合わせた。


「もし、本当に地球だったら」

ユウキくんが、言った。

「どうすればいいの?」

私たちは、黙った。

わからない。

だって、私たち、まだ小学生だもん。

「でも・・・」

私は、言った。

「何かできることがあるはず」

「何?」

「わかんない。でも、ゴミ拾いとか?」

マナちゃんが、言った。

「それだけで、地球が元気になるの?」

「わかんない。でも、何もしないよりはマシだと思う」

タクヤくんが、言った。

「じゃあ、やってみる?」

「やってみよう!」

私たちは、決めた。

放課後、みんなでゴミ拾いをする。


放課後。

私たちは、学校の周りでゴミ拾いを始めた。

ペットボトル、空き缶、お菓子の袋・・・

意外と、たくさん落ちてる。

「うわ、こんなにあるんだ」

ケンタくんが、驚いた顔をした。

「うん。普段、気づかなかったね」

私たちは、黙々とゴミを拾った。

すると。

「あれ?君たち、何してるの?」

通りかかったおじさんが、声をかけてきた。

「ゴミ拾いです!」

「ゴミ拾い?えらいね!」

おじさんは、笑顔で言った。

「何か理由があるの?」

私は、正直に答えた。

「地球を、元気にしたいんです」

「地球を?」

「はい!地球、痛がってるから!」

おじさんは、一瞬、驚いた顔をした。

でも、すぐに優しく笑った。

「そうか。君たち、いい子たちだね」

おじさんは、私たちと一緒にゴミを拾い始めた。


1時間後。

ゴミ袋、3つ分集まった。

「すごい!こんなに!」

私たちは、達成感でいっぱいだった。

「これで、少しは地球、元気になるかな?」

マナちゃんが、聞いた。

「なるよ!絶対!」

私は、答えた。

その時。

空を見上げると。

雨が降り始めた。

「あ、雨だ」

私たちは、傘を持っていなかった。

でも、逃げなかった。

だって、もう怖くないから。

雨に打たれて、記憶をもらう。

そして。

ドクン


また、あの少年だ。

でも、今日は・・・

少し、笑ってる?

「ありがとう」

少年が、言った。

「気づいてくれて」

少年の体の傷、少しだけ癒えている。

「まだ痛いけど・・・でも、嬉しい」

少年は、こちらを見た。

「ゴミ、拾ってくれたんだね」

え?

わかるの?

「うん。わかるよ」

少年は、微笑んだ。

「ありがとう」

「小さなことだけど・・・すごく嬉しい」

少年の周りに、光が差し込んでくる。

「お願い」

「もっと・・・助けて」

「そしたら、僕・・・」

少年の声が、遠くなる。

「また、元気になれるから」


「・・・!」

私は、気がついた。

雨の中、立っている。

周りを見ると、みんなも同じ顔をしていた。

見たんだ。

みんな、同じ記憶を。

「リコちゃん・・・」

マナちゃんが、涙を流していた。

「少年、笑ってたね」

「うん・・・」

ケンタくんも、涙を拭いた。

「ありがとうって、言ってた」

ユウキくんが、言った。

「俺たちのこと、わかってるんだ」

タクヤくんが、拳を握った。

「じゃあ、もっとやろう」

アヤちゃんが、頷いた。

「うん。もっと、地球を助けよう」

私は、空を見上げた。

雨が、顔に当たる。

でも、今日の雨は・・・優しい。

「ありがとう」

私は、小声で呟いた。

「教えてくれて」


次の日。

学校で、私たちは先生に報告した。

「先生!昨日、ゴミ拾いしました!」

「え?本当?」

「はい!で、雨に打たれて、また少年の記憶をもらいました!」

「どんな記憶?」

「笑ってました!ありがとうって!」

先生は、驚いた顔をした。

でも、すぐに笑顔になった。

「そっか。よかったね」

「先生、クラスのみんなでもっとやりませんか?」

「もっと?」

「はい!ゴミ拾いとか、リサイクルとか!」

先生は、頷いた。

「いいね。じゃあ、ホームルームで話し合おう」


ホームルーム。

先生が、みんなに聞いた。

「リコたちが、地球を助ける活動を始めました。みんなも、やってみたい?」

最初、みんな戸惑っていた。

でも、私が話し始めた。

「昨日、少年の記憶、また見たんだ」

「え?」

「うん。少年、笑ってた。ありがとうって言ってた」

「本当に?」

「本当。私たちがゴミ拾いしたこと、わかってたの」

教室が、ざわついた。

マナちゃんが、続けた。

「あの少年、地球なんだと思う」

「地球?」

「うん。地球が、痛がってるの。私たち人間に、傷つけられて」

ケンタくんも、言った。

「でも、助けを求めてるんだ。記憶の雨を通じて」

ユウキくんが、言った。

「だから、俺たちで助けよう」

教室が、静まり返った。

そして。

一人、また一人と、手が挙がった。

「やる!」

「私も!」

「俺も!」

最終的に、クラス全員が手を挙げた。

先生は、涙ぐんでいた。

「みんな・・・ありがとう」


それから、私たちのクラスは変わった。

毎週金曜日、放課後にゴミ拾い。

給食は、残さず食べる。

紙は、裏表使う。

水筒を持ってきて、ペットボトルを減らす。

小さなことだけど、みんなでやれば大きくなる。


ある雨の日。

私は、一人で雨に打たれた。

そして。

ドクン


また、少年だ。

今日は、もっと元気そう。

「ありがとう」

少年が、笑顔で言った。

「みんな、頑張ってくれてるね」

「うん。みんな、頑張ってる」

私は、答えた。

「嬉しい。すごく、嬉しい」

少年の体の傷、少しずつ癒えている。

「でもね」

少年が、真面目な顔をした。

「まだ、足りないんだ」

「足りない?」

「うん。もっと、たくさんの人に気づいてほしい」

少年は、遠くを見た。

「僕、本当に限界なんだ」

「・・・!」

「でも、君たちみたいな子供たちがいるから」

少年は、また笑った。

「まだ、希望がある」

「お願い」

「もっと、伝えて」

「大人たちにも、伝えて」

少年の姿が、薄くなっていく。

「君たちなら、できる」


「・・・」

私は、雨の中で立っていた。

もっと、伝える。

大人たちにも。

わかった。

私は、家に帰った。


その日の夜。

私は、お父さんとお母さんに話した。

「お父さん、お母さん、聞いて」

「どうしたの?」

私は、全部話した。

泣いている少年のこと。

地球が痛がっていること。

私たちがやっていること。

そして、もっとみんなに伝えたいこと。

お父さんとお母さんは、真剣に聞いてくれた。

「リコ・・・」

お母さんが、私を抱きしめた。

「ありがとう。教えてくれて」

お父さんも、頷いた。

「お父さんも、できることやるよ」

「本当?」

「本当。会社でも、話してみる」

私は、笑顔になった。

伝わった。

大人にも、伝わった。

窓の外では、雨が降り続けている。

でも、もう怖くない。

これは、地球からのメッセージ。

そして、私たちへの希望。

私たちは、まだ間に合う。

子供だって、できることがある。

絶対に、諦めない。

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