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第4話 兄上じゃなくて、俺にしろよ

「本日をもって貴殿との婚約を破棄し、ここにいるルルアを新しい私の婚約者とする」


 厳かな学院の卒業式でそれはおこなわれた。

 自身の兄の婚約破棄の現場を、エヴァンは壇上の下からじっと見ている。

 今まさに婚約破棄を言い渡されたリディ・ヴェルジール公爵令嬢はエヴァンにとって幼馴染であり、そしてある企みを共にしている仲だった。


(兄上……)


 予定通りとは言え、自身の兄を断罪しなければならないことにエヴァンは心が痛む。

 胸元のシャツをぎゅっと握り締めて唇を噛みしめていた時、凛とした彼女の声が講堂に響き渡った。


「ミカエラ殿下、わたくしリディ・ヴェルジールはあなた様からの婚約破棄のお申し出を受けさせていただきます」


 驚いたように顔をあげて動揺したミカエラに真っすぐで強い瞳を向けるリディに、エヴァンは心を打たれた。


(やっぱりさすがだな、あいつは)


 幼馴染でもあり、そして初恋の相手でもある彼女の勇姿を見つめる。

 仮にも自分の婚約者にあのように婚約破棄を言い渡されて、強く立ち向かうことができるだろうかとエヴァンは思った。


 そんな時に彼の脳内に彼女とミカエラのやり取りが思い起こされる。



 王族の住居スペースである第二王宮の廊下を歩いていたエヴァンの耳に、突然兄の怒鳴り声が届いてきた。


「お前は俺を疑うのか!?」


(兄上の声……?)


 エヴァンはすぐさま柱の陰に隠れて声のした部屋を覗く。

 するとそこには兄の外に兄の婚約者で自身の幼馴染でもあるリディの姿あった。


「ミカエラ殿下、どうか国庫金に手を付けるのはおやめください」

「そんなことはしていない!」


 ミカエラが腕を組みながら強く床を踏みしめる。

 彼女を脅すようなその素振りにもリディは屈しなかった。


「私はあなたにもう一度やり直してほしいのです。国民のためにならない、未来の国王として相応しくない行動はこれ以上おやめください」

「くどいっ!! やっていない!! お前は黙っておとなしく俺の隣にいればいいんだ!!」


 そう言って彼女のもとを去っていく。


「ミカエラ殿下っ!!」


 リディの呼びかけも虚しく、ミカエラは不機嫌な様子で去っていった。


(兄上はやはり反省をなさらないのか……)


 四大公爵の報告によって兄の悪事に気づいていたエヴァンは、彼の反省の色のなさに落胆する。

 しかし、それよりもリディの様子のほうが気になり、急いで部屋の中をもう一度見た。


(リディ……!?)


 初めてだった──。

 彼女の頬には涙が流れており、必死に自身の感情を抑え込むように目を閉じて肩を震わせている。


 気丈な彼女がいかに兄のことを想っていたのかがわかって、エヴァンは悔しさを滲ませた。

 それと同時に好意を寄せる彼女のことを泣かせた兄への怒りに襲われる。


 エヴァンは柱の陰にもたれかかると、ゆっくりと息を吐いて目を閉じた。


(兄上……)


 共に三人で過ごした幼い日々の事を思い出す。

 そうして目を開けた彼の瞳は、覚悟を決めたそれだった。


(兄上、俺はリディを守る。だから、あんたからリディを奪う。あいつの幸せのために)


 エヴァンはゆっくりとその場を離れた──。




 卒業式で婚約破棄宣言がなされた時、エヴァンはぎゅっと手を握り締めた。


(リディ、絶対にお前だけは守りきる)


 そう覚悟して、彼は王族席へと足を踏み出した──。

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