十七話 おもちゃ好きの殿下
その後、エマに頼まれていた物も買い終わり、私達のショッピングは何事もなく終わった。
普通に買った物も合わせると、なかなかの量になってしまった。殿下とも手が繋げなくなり、むしろ少し荷物を持ってもらっている。
「うぐぐ、この俺を荷物持ちとは······お、重い」
「男の子でしょ。ほら、頑張れ、頑張れ」
「ぐぅ、君は重くないのか?」
「筋力強化魔法で余裕です」
「ず、ずるいぞっ······!」
とりあえず用も済んだし、このまま帰ればいいかな。
「さ、カッツェ。買い物も済んだ事だし、帰ろっか」
「ぬぐぐ、これじゃあ本当に買い物へ来ただけじゃないか!」
だからそうですって。
「俺はもっと町の色んなとこを探検したかったんだぞ!」
「遊びに来た訳じゃないんだよ? もう」
「くそ~。騙したな姉さん······。ん?」
と、そこで。パタっと足を止める殿下。
「どうしたの? 本当に重いなら私が持とうか?」
「······あれ、何だろう?」
と、殿下が見る方向には何やら変わったお店が。他の店より派手で、よく分からないゴテゴテが装飾されている。
店先に並んでいる商品らしき物はどれもガラクタに見えるけど······。
「あ、おもちゃだね。おもちゃ屋。懐かしいなぁ。私も子供の頃近所のお祭りで見たきりだけど、変わった玩具を売ってるんだよ」
「······」
──トタトタトタっ──
「あ、カッツェ」
いきなり走り出しておもちゃ屋の前に突撃するカッツェ。私も後を追う。
「······」
「いきなりどうしたの? ん?」
殿下は店先に並んだ木刀のような物を見ていた。
「お、可愛い坊やだね。遠慮なく見てってくれよ。ここは色んな国の珍しい玩具を取り扱ってるんだ」
その熱い殿下の視線に、店主が得意そうに商品アピールを始めた、
「これはただの木刀じゃないんだ。この柄の所に細工がしてあってな。こうやって~」
──ギュッ、カコンッ──
持ち手が外れる。そしてもう一本違う棒を出す店主。
「そして、こっちも同じように分解して~」
──カコンッ、ポンッ──
「そんでもってくっつけりゃあ!」
──ガコンッ、ギュッ、シャキーンッ──
「お、おおーっ!?」
「槍になるんだ! それだけじゃない。この盾を~っ、とりゃあっ! 変形!」
同じような木製の盾がパカッと二つに折れ、それが形を変える。
「この刃と化した盾をさっきの槍の先端に付けりゃ、ほら! 変形合体ハルバードだ!」
「カッ······カッコいい~~っ!!」
今までで一番目を輝かせる殿下。調子に乗った店主がまた同じように分離させ、変形させ、合体してシャキーン。
「ほいっ! どうだ! 変形合体ハルバード!」
「す、凄いっ! カッコいい! 欲しいっ!」
一体これの何がどうカッコよくて、なぜ殿下をこれほどまでに感動させているのか全く理解出来ないけれど、男の子はこういうの好きなんだよねえ。いや、ホント理解出来ないけど。木製であんなに分離したり変形したりしたら、すぐ壊れる欠陥武器になるのは目に見えてるのに。
「姉さんっ! これ欲しい! 買ってくれ!」
「こんなのが欲しいの?」
「見ていなかったのか?! あんなカッコいい変形と合体をして、こんな強そうな武器になるんだぞ! ロマンじゃないか!」
「はあ······」
どの辺がロマンなんだろう。
「頼む~っ、買ってくれ~! こんな欲しい物久しぶりなんだ~!」
「わ、分かったから。服が伸びちゃうから引っ張らないで。すみません、一式下さい」
「はいよ! まいど!」
結局。訳の分からないガラクタを買わされてしまった。食材以外の物を買う時は自分のお小遣いを消費しなければならないので、実にやるせない。
「へんけ~いっ、合体! おおー!」
当の本人は新しいおもちゃに夢中になっていた。やっぱり中身も子供になっているのか。
それとも、男性とはああいう物がいつまでも好きになるものなのか。はたまた殿下が案外そういうのが好きなロマン派だったのか。うーん。謎だし、どうでもいいか。
「姉さんっ、後で姉さんにも少し触らせてやるよ」
「いえ、結構です」
多分、永遠に分からないんだろうなあ。男の子のロマンとやらは。
「坊や、こっちのアイテムはどうだい? これは東の大地(この大陸と離れた海の向こうにある東の国々、地域。東洋と呼ばれる事もある)発祥の玩具でな······」
「おおー!」
この、余計なことをっ、おもちゃ屋さん!
店主が取り出す奇々怪々な道具達に殿下のハートは完全に射止められたらしい。目をキラキラと輝かせ、あれこれ触り、太陽にかざしたりと、もう童心に返りきっている。まあ、子供ではあるけど。
次々に溢れる魅力的(なんだろうけど······)なおもちゃに殿下はすっかりご熱心になってしまった。
しょうがないので、私も荷物を下ろして隣で眺めている。たしかに見てる分には楽しい物も多いけど、大半は何が良いのかよく分からない代物ばかり。
でも、殿下はその中からめぼしい物を発見したようだ。
「これは何だ? 変わった形だが······」
「ああ、それも東大陸の玩具でね。ケンダマって言うんだ」
確かに変わった玩具だ。一見するとトンカチのようにも見えるけど、頭から槍のような突起が突き出ており、本体に紐が結ばれていて、丸い玉がくっついている。トンカチの頭の叩く面は窪んですり鉢状になっている。
「これはどんな玩具なんだ?」
「これはな、こうやって~······」
実践してみせる店主。本体のトンカチの柄を持って、紐に付いた玉をぶらんっと吊るす。
「こうやって玉を下ろした状態でー······ほっ、と」
店主がクイっと手を捻ると、その反動で吊るされていた玉がくるっと上に跳ね上がる。
その浮遊した玉を、トンカチの窪みを受け皿のようにして──
──カチッ──
キャッチした。
「「おお~」」
と、私も殿下と声をハモらせた。
「こうやって遊ぶんでさ。こっちの反対側にも受け皿があるし、この下にもある。そして、一番難しいのがここよ。玉にも穴が空いていてな、この尖った所にスポッて収めるんだ」
「貸してみてくれっ」
「ほいよ」
さっきの妙技を見よう見まねでチャレンジする殿下。いつになく真剣な表情。笑っちゃいそうになるのを堪える。
「······はっ!」
ヒュッと跳ねる玉。でも、勢いがあり過ぎたのか、玉はガクンっと紐に引っ張られて大きく失速。
殿下の思うような動きにはならず、そのまま受け皿にも乗らないで落ちてしまった。
「ぬぬ、難しいな」
「はっはっは。コツが要るんだよ坊や」
負けず嫌いなのか、殿下は何度もチャレンジした。玉が何度も弾んでは無情にも外れる。
「ほっ! ああっ! 惜しい~!」
なんて言っては悔しがる殿下。確かにかすったり、乗りかかったりはするんだけど、あと一歩が上手くいかない。
「ぬぬぅ~っ······」
「坊や、そんなに熱心にやるなら買ってきなよ。安くしてあげるからさ」
「そうだな。姉さん、これもだ」
「ダメっ。さっきもう買ったでしょ?」
「ケチケチするなよ。金持ちだろ?」
聖女は衣食住が確保される代わりに薄給なのよ。基本は慈善活動だから。
「お金の問題じゃないのっ(本音はお金の問題。こんなのにお金なんか使いたくない!)。ほら、帰るよ」
「いいじゃんかよー。第一、 負けたままでいいのか姉さん」
「何と勝負してたのか知らないけど、玉が乗らなかったくらいで大げさな」
「むっ! そこまで言うならやってみろ! これは難しくてふか~い遊びなんだぞ!」
謎の理論を言い始める殿下。本当にお子様は話が通じなくて困る。
「よーし、こうしよう。姉さんが玉を乗せる事が出来たら諦めてやる。出来なかったら買って練習だからな!」
ますます意味不明になっていく言い分。
でも、いちいち諭すのも面倒くさそう。
「はぁ。わかった、わかった。やってみるから、上手くいったら諦めてね」
「おう。帝国男子に二言はない」
「お嬢ちゃん、チャンスは十回までだ!」
何故かノリノリな店主のおじさん。
ケンダマを受けとる。
「えっと、これをここに乗せればいいんだっけ?」
「そうだ」
フフンっと得意気な殿下。
「だが、そう上手くはいかないぞ。これはな、大胆さと繊細な集中力が──」
──カチッ──
「──ひつ、よう?」
「はい。乗ったよ」
とりあえず、成功したケンダマを殿下に見せる。殿下はそのまま固まっていた。
「はい、じゃあ約束通り帰るよ」
「······ちょ、ちょちょちょっと待て! えっ!? お、おかしい! そんな簡単にっ······!」
「お嬢ちゃんすげえなあ。一発とは」
慌てる殿下と、感心する店主。
そして、殿下は取り乱したように騒ぎ立てた。
「い、今のはたまたまだ! まぐれだ!」
「ほっ」
──カチッ──
「はい。逆側」
「······そ、そんなとこは簡単だ! そっちの持ち手の下側が出来てこそ成功だ!」
──ヒョイ、カチッ──
「はい」
「············」
「いやー、驚いた。お嬢ちゃんやったことあるのか」
「いえ。初めて見ました」
「ほんとか? そりゃあすげえなあ」
「ま、まだだっ! その穴に入れなければ成功したとは言えん!」
──ヒョッ、カチン──
「はい」
「······(パクパク······)」
その後、他のおもちゃでも勝負(?)を仕掛けてきた殿下だったけど、全てにおいて私が圧勝した。
よく分かんないけど、私はこういう男の子の遊びが昔から強かった。別に興味もないから極めようとも思わなかったけど。
しかし、それが殿下には心底羨ましかったのか、最後には涙目になって悔しがっていたので、結局色んなおもちゃを買ってあげる事にした。
ただのお買い物だったはずなのに、とんだ出費によって私の懐は寂しくなってしまった。
「お、お酒······」
当分はワインだけで我慢だ······。
お疲れ様です。次話に続きます。




