継承④
『お待たせしました、ひかりさん。
無事、修理が完了しました。動作も問題ありません。』
にこやかな顔を空間に投影する、販売AI、エルメス。
ひかりの目の前には、綺麗に再梱包されたスマホがおかれている。
ひかりは梱包をとき、スマホの電源ボタンを長押しする。
ポップな起動音とともに、画面に光が灯る。
「速いね、これ。」
ひかりの顔は、晴れやかだ。
──現代の技術で再生された、20年前のスマホ。
起動の速さからも、その性能の片鱗が見て取れる。
画面は、あの時のまま。
父の大きな手と、当時の自分の小さな手。
このスマホを手に、父の膝の上で過ごした幼い日のことを思い出す。
「お嬢ちゃん、随分と懐かしいものを持ってるねぇ。
……へぇ、修理してもらったの。」
隣のカウンターに座っていた年配の女性が、ひかりに声をかける。
『それでは、大事にしてくださいね、ひかりさん。
ヘルメスあんしん保証がついておりますので、一年間は無償で修理いたします。』
会計を終えたひかりを、ヘルメスは見送る。
目の玉の飛び出るような金額に、ひかりに話しかけてきた老婦人は閉口していたが、悔いは全くない。
家路を歩くひかり。
家に帰ったらやりたいことを色々と思い浮かべる。
「うわぁ、私、小さい!」
画面の中で、小さな女の子が滑り台によじ登っている。
家に着いたひかり。まずは、懐かしい動画を再生する。
『ひかり、ちゃんと手摺に掴まって。』
ひかりの後ろで心配そうな顔で背中に手をかざしている女性がいる。
「あっ、お母さんだ。……お父さん、もっと大きく。」
画面の中のひかりの母、真希は、ひかりの腰に手を回す。
『そんな心配しなくても大丈夫だよ。……ひかり、しっかり階段を昇れてるじゃないか。』
優しく見守るような男性の声。
……父の、巌の声だ。
「もう、お父さん。自分のことも映してよ。」
ひかりは、目元に浮かんだ涙を拭う。
ディディーは、部屋の外に追い払っている。
……もう戻ってこない過去の、もう会うことのできない人々。
懐かしさで心を乱すと、また変な薬を盛られかねない。
お節介なAIに、この暖かく愛おしい感傷の邪魔をされたくない。
ひかりは、他の動画も再生しながら、父と母の姿を思い出した。
「あっ、これ……。」
画面をスワイプしたひかりの目に、一つのアイコンが飛び込んでくる。
PROMETHEUS
青い銀河のような渦のアイコンの下に、そう名前がふってある。
ひかりは、衝動的にそのアイコンをタップする。
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PROMETHEUSを起動できません。
このサービスは現在ご利用いただけません。
[OK]
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「やっぱり、そうだよね……。」
ひかりは、画面に表示されたエラーメッセージを見ながら、肩をすくめる。
「……さて、引っ越し準備引っ越し準備。
ディディー、梱包資材手配して。」
名残惜しそうにスマホの画面を落としたひかり。
今月末にせまった引っ越しに向け、荷造りを再開した。




