大嫌いなアイツが共同潜入任務で大事なダーリンになってしまった話
短編32作目になります。いつもお読みくださっている方も、はじめましての方も、ありがとうございます。
今回は、侯爵令嬢と傭兵が舞踏会に潜入する、じれ甘短編ストーリーとなっております。どうぞ最後までお楽しみくださいませ(o´∀`o)
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「敵の屋敷に潜入して、極秘文書を回収してこい──ですか?」
軍本部の作戦室で若き指揮官、レオナ・フォン・ベルンハルト侯爵令嬢が上官に聞き返した。
「そうだ。辺境伯がおかしな動きをしている。税を上げたと思ったら、軍備強化をするのでもなく、密輸までやって金を集めているようだ。集めた金で何をしようとしているのかを突き止めねばならない。よって、君には速やかに現地にて証拠となる文書を手に入れて欲しい」
目の前に広げられた地図を指で示しながら上官が言う。
「親戚である君の元には舞踏会の招待状が届いているはずだ」
「確かに招待状は届いておりますが、親族である私を潜入させて良いのですか?もちろん、任務は忠実に行いますが」
「君が適任なんだ。向こうには油断してもらわねばならない。それに、ドレス姿になるのも久しぶりだろう?せっかくなら舞踏会も楽しんでくればいい」
上官は軍服に付いた階級章を整えながら言う。
「ドレス姿など魅力は感じませんが。了解です。潜入は、私一人でしょうか?」
「いや、護衛をつける。入れ」
呼び声に応じてすぐに扉が開いた。
「お呼びかい、将軍殿?」
入ってきたのは、無精ひげを生やした男だった。薄汚れたマントに、皮の胸当て、そして剣。立ち居振る舞いは軍人というより、……野良犬。
(何者だ?見たことがない)
「こちらは、ブルーノ・ブラックウッドだ。彼は以前、軍に所属していたが、訳あって今は傭兵をしている。いかにも軍人ぽいよりも彼みたいな方が目立たずいいだろう。役に立つ男だぞ」
「それほど役に立つのですか?」
レオナはチラリと、だらしない身なりのブルーノを一瞥する。
「オレの実力を疑ってるみたいだな?指揮官殿は」
「主観で言っているんじゃない。任務を共にするならば、実力が本物か確認するのは当然だろう?」
レオナの切り返しに、ブルーノは口の端を上げた。
「へえ、ずいぶん理屈っぽいお嬢さんだな。……ま、言いたいことはわかる。じゃあこう言っておこう。オレは生き残ることに関してはちょっとしたプロだ」
「なんとも抽象的な説明だな」
呆れていると上官が口を挟んだ。
「彼の鞘の擦り減りや柄の革巻き具合を見てみろ。ボロボロだろ?彼は10年戦地を渡り歩いて生き残っている男だぞ」
「……分かりました。彼に護衛を任せます」
レオナが頭を下げると上官が言った。
「出発は3日後。舞踏会はその夜だ。ブルーノはレオナ侯爵令嬢の従者という体で帯同しろ」
「了解!」
レオナは背筋を伸ばし、一礼すると部屋を出る。ブルーノもその後に続いたが、かつて兵士だったとは思えないダラけた歩き方だった。
(こいつ、本当に役立つんだろうな?)
「レオナ嬢、なにか?」
視線を感じたらしいブルーノが話しかけてくる。
「ここでは指揮官、と呼べ」
「どうせ、3日後にはアンタの従者として“お嬢様”なんて呼ぶことになるんだ。気取ったって仕方ねえ」
「あ!?」
レオナはカチンときてブルーノを睨みつけた。
「おお、こえー。ま、宜しくな」
ブルーノはワザと足音を響かせるように、ガサツに去って行く。
――3日後の出発日となった。
馬車の車輪が石畳を刻む音が、コン、コン、と静かに響いてきている。窓の外を流れる王都の景色を背に、レオナとブルーノは向かい合って座っていた。
レオナは、シャツに深い紺色のベスト、足元は乗馬用のブーツというスタイル、ブルーノもシワひとつないシャツを着ていた。彼の場合は、“着せられた”のだが。
「窮屈で仕方ねえ。こんなピシッとした服装、久しぶりだぜ」
「軍にいたなら懐かしいだろ?」
「……かもな」
ブルーノはつまらなさそうに言うと、腕を組み壁に寄りかかって目を閉じた。眠るつもりらしい。
王都にある侯爵家から辺境伯の屋敷までは3日かかる距離だった。
道中、2人は特に会話もせず向かって行く。
――王都とは違って独特な乾いた空気に変わり、ついに目的地の領地へと馬車は踏み入れた。
「……起きろ。お前は私の従者なのだぞ。きちんとしろ」
「わーってるよ。今からシャンとしてやらあ」
ブルーノは伸びをすると、背筋を伸ばした。姿勢を正しただけなのに、不思議と品良く見える。
「やればできるじゃないか」
「侮るなよ?オレはアンタより長生きしてるからな」
「たった8年ほど早く生まれただけだろう?」
「時間の流れを軽く見やがって……で、お嬢様よ。オレの名前は“アマデオ”でいかせてもらうぜ。異国出身の従者っていう設定だ」
ブルーノが不思議な提案をしてくる。なぜだ、と聞き返す。
「オレって彫深い顔立ちだろ?それに異国出身なら、少しくらいマナーを間違えたって目立たねえ。ついでに、アンタが物珍しいオレを気に入ってるってことにすりゃ、近くにいても疑われにくい」
「ちょっと待て。最後の方は納得しがたい。私が不埒な女だと思われるじゃないか」
レオナは目を吊り上げた。
「お嬢様はウブなんだな。カワイイところもあるもんだ」
レオナが思わずこぶしを突き出そうとしたところで馬車が停まる。
「着いたようだぜ。気合入れてこうぜ」
「分かっている!」
ブルーノは先に降りて、レオナに向かって優雅に手を差し伸べた。
「お嬢様、お手をどうぞ」
「ああ……」
降り立つと、辺境伯がじきじきに出迎えてくれていた。
「レオナ、久しぶりだな。道中、大変だっただろう?侯爵はお元気かな?」
「叔父上、直接のお迎えに恐縮です。父も兄たちも変わりありません。なかなかお会いできずこちらも気にしておりました」
辺境伯と近況など話しながら屋敷の中へと入ると、客室に案内される。
ピンクの内装でずいぶんと可愛らしい。
「ここは娘の使わなくなった部屋だ。女性には丁度いいかと思ってな」
「ありがとうございます」
「では、後ほど舞踏会で会おう」
辺境伯には娘がいたんだったな、とレオナは思い出した。距離があるため、彼女には小さい頃以来、会っていない。
(元気だろうか?)
彼女の小さな頃の様子を思い出していると、ブルーノが口を開いた。
「辺境伯は、人が良さそうに見えたな。ま、人は見かけによらないが」
「分かっている。それより、舞踏会まで時間がない。さっそく着替えなければ。ここで着替えるからお前は私の着替えを手伝え」
レオナの言葉にギョッとしたようにブルーノが言う。
「は?なぜオレが」
「今、ドレスを確認したら、一人では着られないデザインだった。極力、極秘任務だし、使用人の手は借りたくない。お前がちょっとボタンを留めれば済むことだ」
「なんでそんなドレス持ってくるんだよ?」
「……確認を怠った」
はあ、とブルーノはタメ息をついた。
「わーったよ。オレは後ろを向いてるから、必要になったら呼べ」
「よし」
ブルーノは後ろを向いて腕を組んでいたが、衣擦れの音に落ち着かない気持ちになる。
(オレは男だぞ?警戒心無さすぎだろ……)
もしかして、自分を男とも認識されないほどの存在だと思われているのだろうかとか考えているとレオナに呼ばれた。
「おい、後ろを頼む」
「おう」
ブルーノは慎重に後ろを振り返ると、レオナの白い背中が目に入った。おもわず後ずさりする。
「なにやってる。早くボタンを留めてくれ」
「あ、ああ」
動揺を悟られないように、ボタンを素早く留めたブルーノだった。
「あとは、化粧を適当にやれば完了だ」
レオナはサササと適当に眉を描いてパウダーをはたき、リップを塗る。
「おい、待て。それで舞踏会に出るつもりか?」
「なにが悪い?」
ブルーノは額を手で押さえた。
「オレがやる。その化粧を落とすぞ」
ブルーノは、化粧筆を持つと、迷わず化粧をレオナに施していく。
「完成だ!」
「おお!」
鏡の中には美しい女性の姿が映っている。
「お前、天才だな!……なぜ、こんなことができる?」
「オレの母が舞台女優をしていたんだよ。化粧の手伝いをよくさせられた」
「へえ」
椅子から立ち上がったレオナが、ブルーノの方をクルリと振り返った。
「ありがとうな」
彼女の微笑みにブルーノはドキリとした。
「おう。……アンタ、絶世の美女に仕上がったぜ」
「そう言われると照れるな。私も……自分が女だということを、久々に実感したぞ」
レオナの横顔は、耳に赤みが差していた。
「え、えっと……。今後の流れだが、途中で気分が悪くなったアンタをオレが連れ出し、文書回収……という流れでいいよな?」
ブルーノは慌てて段取りを確認する。
「ああ、それでいい」
――だが、舞踏会場へと踏み入れると、想像しないことが起きていた。
レオナの絶世の美女ぶりに、ワサワサと人が寄ってきて囲まれる。
「なんて美しい方なのでしょう。ぜひダンスを」
「次はどうぞ僕と踊って下さい」
「この後のご予定は?」
レオナは、慣れぬ扱いにタジタジになりながらも、侯爵令嬢らしく愛想良くしていた。
シャンパンの入ったグラスを合わせるのも何度目か分からなくなった頃、レオナは限界とばかりに隣にいたブルーノに目線をやる。
すると、 “アマデオ”扮するブルーノが、まるで舞台の一幕のように美しく手を差し出した。
「……お嬢様、少々、空気が騒がしゅうございますね。ひととき、静かな場所へご案内しても?」
低く甘い声でブルーノが言う。いつもの粗野な様子とはまるで違った。
「ええ、お願いするわ」
ブルーノの手を取ろうとすると、彼は膝を折って彼女の手の甲へと唇を寄せる。
(や、やりすぎ……!)
レオナが思わず手元を凝視すると、彼はキスしたままレオナをじっと見上げていた。
火照るような熱がレオナの体を巡る。
「あなたをどこへでもお連れします。たとえ、地獄の淵であろうとも――」
「地獄は困りますね……」
「なら、天国に」
「……!」
ブルーノの言葉に、周囲にいた人々から“おお、なんて情熱的な!”とか、“きゃあ!”なんて声が漏れた。
そのままブルーノに連れられてレオナは会場を出たが、人気がない所まで来ると、レオナはさっそくブルーノに文句を言った。
「やり過ぎだ!私はお前と完全に“そういう仲”だと認定されたぞ!」
「いいじゃないか。目くらましにちょうどいい」
「もう……!」
――辺境伯の書斎へと急ぐ。
舞踏会場から離れたその一体は、厳めしいデザインで緊張感が走った。
「ここが書斎だな。お前は扉のところで見張ってろ」
「アンタ、一人で行くのかよ?」
「見張りなしではマズいだろ」
「オレも行く。なにかあったら助けてやれる」
「好きにしろ」
扉には鍵がかかっていたが、ブルーノは難なく開けた。
「お前、慣れているな。盗賊なんてやってないだろうな?」
「あのな、オレは特殊兵だったんだよ。こんなこと、朝飯前だ」
「ほお」
すぐに2人は文書探しに取り掛かった。
ブルーノは机の引き出しを開け放ち、手早く中身を調べる。レオナは棚に並ぶ本の背表紙を調べた。
「こっちには無いな。棚に仕掛けもない。ブルーノ、そっちは?」
「怪しいところを丁度見つけたぜ」
ブルーノが引き出しの奥上部を手で探る。
「これだな」
彼の手には分厚い封筒が握られていた。裏には辺境伯の私印が封蝋されている。
「開けるぞ」
「ああ。慎重に」
封筒の中には数枚の文書と、他国語で記された契約書の写しが入っていた。
レオナが目を通すと、眉がピクリと動く。
「他国との裏取引の記録だ。軍事物資の横流しか……?」
「これならかなりの金額が入ってきているんだろうな」
「ブルーノ、速やかに立ち去るぞ」
レオナは文書を胸元に押し込むと、扉の方へと向かった。
部屋の扉を開くと、廊下の奥にかすかに人の気配が感じられる。
「誰か来る。窓から出るぞ」
「おう」
2人は、素早く窓を開けてバルコニーへと躍り出た。
「そのドレス姿で降りられるのかよ?」
「心配するな。こうすればいい」
レオナはドレスの裾を大胆にまくり上げると、落ちないように裾を縛る。
「お、おい。オレの前でそういうことをするなよ」
「なら、見るな。行くぞ!」
レオナは、フワリと空に向かって飛んだ。ブルーノもすぐに飛ぶ。
ダンッ
無事、地面に着地した。
よし……と思った、その時、犬の鳴き声が警鐘のように夜の静寂を切り裂いた。途端にバタバタと人が駆けつける足音が聞こえてくる。
「犬がいたか。見張りが来るな。おい、申し訳ないがアンタ、ちょっと我慢しろ」
ブルーノは言いながらレオナをギュッと抱きしめる。
「おい!なにする!」
「静かにしてろ」
ブルーノが耳元で低く囁くと同時に、茂みを探るような木をかき分ける音がした。
鋭い目つきの兵士が顔を覗かせる。
「ここでなにを!……これは失礼いたしました!」
明らかにいいところだと思った兵士は気マズイ顔をした。
「あ、あちらに休憩室がありますので……」
「外も雰囲気があっていいですよ?オススメです」
ブルーノはケロリと言う。
見張りの兵は何も言わずに犬を連れて立ち去った。
「は、離れろ!」
レオナは顔を真っ赤にさせてブルーノを突き飛ばした。
「いってえ。……悪かったな。だが、やり過ごせたぜ」
「バカバカバカ!」
レオナが顔を覆った。
「へえ、アンタがそんなに恥ずかしがるなんて意外だな」
「うるさい!」
ブルーノがレオナを立ち上がらせる。
「東側の塀に急ごうぜ」
「……分かってる!行くぞ!」
気を取り直したレオナは鋭く返事を返した。
東側の塀付近には人の気配が少ない。
夜陰に紛れて辿り着いた2人は、高くそびえる塀を見上げた。
「オレがアンタを押し上げる。先に登れ」
「分かった」
ブルーノの補助で塀の上に立ったレオナは、下にいるブルーノを見降ろす。
「一人で登れるか?」
「元特殊兵だぞ」
言葉の通り、彼は軽やかに塀を登って来る。
――突如、夜の闇を切り裂く矢の軌跡が見えた。
「ブルーノッ!」
レオナの叫びも届かぬ間に、矢はブルーノの肩を貫く。引き裂く鈍い音がして、ブルーノの体が震えた。
「ぐっ……! アンタは逃げろ!」
ブルーノが声を上げると地面へと落ちて行く。
うずくまっているブルーノを見て、レオナは胸元に入れた文書の部分に触れた。
しばし葛藤する。
レオナは塀を飛び降りると、ブルーノを抱き起こした。
「なにやってる?なぜ、逃げない?」
「仲間を見捨てるのは性に合わない」
「はあ?役目は?……ぐっ」
ブルーノは苦しそうに呻いた。
すぐに兵士たちに取り囲まれる。
――辺境伯邸の1室へと連れて行かれた。ブルーノとは引き離されている。
「レオナ、この文書を報告するつもりだったのか?」
辺境伯は表情のない顔で淡々と言った。
「そうです。なぜ、そのようなことをしているのですか?」
「理由はある。だが、それよりもなぜ逃げずにあの男を助けたか知りたい。本当に恋仲なのか?舞踏会で仲良さそうにしていたな」
「恋仲ではなく仲間です。助けたというより、仲間を見捨てることができなかったのです」
レオナは鋭い視線を逸らさずに答える。
「甘いな」
「そうでしょう。ですが、父から辺境伯が同胞を死なせたことを今も後悔している、と聞いたことがあります。辺境伯でも後悔するならば、私は到底、仲間を見捨てることなどできません」
「ふむ。気持ちを優先したのか……。ならば、こちらも本当のことを話そう。少しは理解してもらえそうだ」
辺境伯はなぜ密輸などに手を染めていたのかを話した。予想しない出来事が起きていた。
――レオナは今、ブルーノの寝かされている部屋に来ていた。
傷の手当をされて寝ているブルーノの顔にそっと触れる。
「温かい。……生きていて良かった」
「死んだと思ったのかよ?」
眠っていたはずのブルーノが薄く目を開ける。
「何で逃げなかったんだ?命令違反になるぞ」
「……お前が除隊したのは、部下を見捨てた上官に殴りかかったからだろう?そんな奴をおいていけるか」
ブルーノがピクリと固まる。
「知ってたのか……」
「私は組む相手のことはきちんと調べたいタチなんだ」
レオナはベッド脇の椅子に腰掛けると、彼の額に貼られた包帯のズレを直した。
「き、急に触れるなよ」
「お前は私を抱きしめたくせに」
「あれは……!」
ブルーノが顔を赤くさせたので、レオナが笑った。ブルーノもつられて笑う。
「私、お前のことを見直したよ。最初はガサツで下品で……って思ったが、お前は仲間を思ういい奴だ」
「面と向かって言われると照れるな。……アンタだって、融通の利かない強情な女だと思ったけど、……絶世の美女だし、心も温かいよな」
レオナは顔に熱が集まるのを感じた。
「顔が赤いぞ。アンタも照れ屋だな」
「……私は、こういうことに慣れてない」
「慣れてない方がいいよ」
ブルーノはレオナの腕を掴むとグイと自分に引き寄せた。レオナの瞳を見つめると、彼女の唇にそっとキスする。
レオナがかすかに抵抗しようとしたが、ブルーノがもう一度やさしくキスすると、レオナは静かに目を閉じたのだった。
――辺境伯邸には鳥のさえずりが聞こえている。
真相を知った2人は、どう報告するか悩んでいた。
「辺境伯の娘が攫われて脅迫されていたなんて、思いもよらないよなあ」
ブルーノが困惑したように言う。
「騒ぎにならないように穏便に済むといいんだが」
レオナも眉を寄せながら言う。
武器を流したのも金を渡したのも、娘を取り戻すためだった。
隣国の有力貴族が、辺境伯の娘を見染めて無理やり攫って返さないために仕方なくしたことだという。理由があるとはいえ、許されないことではある。
なぜ、中央に助けを求めなかったのかと辺境伯に尋ねたところ、こう言われた。
「娘が攫われたなどと知られたら娘の人生は終わりだと思った」
おそらく理由はそうであろうなと思った2人は、この事件についてどう報告しようかと悩んでいた。
外がにわかに騒がしくなる。
「なんだ?」
外で兵士が叫んでいた。
「お嬢様が!お嬢様がお帰りになりました!隣国の領主も一緒です!」
「なんだと!?」
辺境伯の大声が聞こえバタバタと人が行き交う音が聞こえてくる。
――攫われた辺境伯の娘アデラと隣国の領主であるヘンリクは、ニコニコして今のソファに座っていた。
事の次第を知るためにレオナたちも同席している。
「……娘よ、無事に帰って来てくれて嬉しいが、これはどういうことだ?」
「はい……。攫われた時は怖くてたくさん泣きましたが、ヘンリク様が毎日、私に愛の言葉を熱心に言われるものですから、私も自然とヘンリク様を好きになりました」
アデラとヘンリクは目が合わさる度に、微笑み合っていて本当に仲良さそうである。
「我が国には気に入った娘を攫う習慣があります。私はアデラを好きになり、こちらの国にはない習慣だと分かりながらも攫いました。とにかく、彼女を口説くのに必死で……あ、贈られた武器や金はそのままにしてありますよ」
辺境伯は考え方の違いに戸惑いながらも、深刻なムードから一気に平和なムードへと変わったことについては喜んでいた。
アデラとヘンリクはしばらく辺境伯の元で今後のことを話し合うらしい。
「……迷惑をかけた。問題を解決したら王都に改めて報告と謝罪に赴く」
「必ずお願いします。私たちは王都に戻ります」
「2人とも気を付けて。レオナ嬢、今回は愛を生む騒動となったな」
辺境伯がチラリとブルーノを見ながら言う。レオナは素直にうなずいた。
「はい。私にとっても意味のある出来事になりました」
微笑むと、レオナの横にいたブルーノがレオナにキスをしてくる。
「こういう時はやめろ!」
「いいじゃねえか。減るもんじゃないし。辺境伯、仲がいいのはいいことですよね?」
「まあな」
「そういうことじゃない!」
いつものやりとりが始まる。
レオナはこのやりとりもちょっと楽しい、と思えたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
いかがでしたでしょうか?
もし作品を「いいな」と思っていただけましたら、
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