それはこれからの4
私事ですが、怪我をしましたはい。
これが恥ずかしいことに交通事故とかではないところが自分の鈍臭いところで嫌になります。
腕をやってしまい、入院と手術をしてリハビリしてなんとか普段の生活に戻りつつある中でこの拙いものでも完結させたい気持ちで今回は書きました。面白くもなんともないですが、読んでくれる方がいたら嬉しいです
なんの変哲もないよくある学生時代の恋物語は終わり、胸の中にはほんのり暖かくむず痒さがあった。
腰を下ろし愛犬テリーを優しく撫でながらページを捲り続ける。
その後のアルバムは学生生活が終わり、社会人に変わっていた。
最初の頃こそ目まぐるしい忙しさが感じられたが、日々の生活に大きな変化や出来事はなく、頬杖を突きながら斜め読み感覚で進めていた手が止まる。
おろしたてのスーツに短くて切り揃えられた髪、緊張した面持ちの残る男の人だった。
「いやー、昔の俺ってこんな顔してたんだな。めっちゃ緊張してんじゃん」
「そーだよ、この頃の広はさ気合いばっかで空回りして教育担当だった私大変だったんだから」
顔を見なくても彼が誰かわかった。私の夫で1番一緒にいて1番呼んだ人。見なくても苦笑いしているのも想像できる。
テリーが大きくゆっくり尻尾振って歓迎の挨拶。彼も「お前があのテリーか!会えて嬉しいよ」なんて言いながらわしゃわしゃと撫でていた。そこからは当時のことを語りながらページを捲っていきどんどん進んでいった。プロポーズの時なんかは顔を真っ赤にして席を離れようとしたから、引っ掴んでもう一度恥ずかしいセリフを言わせてやった。言わせておいてなんだが、多分私も多分赤くなってたと思う...。
やがて私のお腹は大きくなり、ゆったりした服を着るようになった頃ページを進める手を止められた。
「この先は少し待った方がいい」
彼の手には少し力が入っていて声は震えている。きっと良くないことが起こることを暗に告げている。
「私死ぬの?お腹の子は...!?」
「少し時間を置こう。俺も起こったことに気持ちの整理がしたい。いずるが覚悟出来たらページを進めよう」
しばらく呆然としていた。幸せの最中突然予告される不幸。内容はわからないけど、1人か複数の命に関わることなのだけは分かる。彼は私の方を抱き、テリーは不安そうに見上げている。
「俺さ、命と魂は巡るものってばあちゃんから教えられたんだよ。ここでいずるとテリーに会えたのも巡ってる過程できっとすれ違えたんだ。きっとまた会えるって信じてる」
「...おばあちゃんのリサイクル理論」
「覚えてたか」
「あの時はちょっと面白い話だなって思ってたから、でも今は」
「この先進めなければずっと2人で...テリーもあるから3人だなでいられるかもしれないけどさ」
「けど?」
「俺は未来に賭けたい」
「来世じゃなくて?」
「お互い人で生まれる保証なんてないし、なんなら地球の反対で生まれるかもしれない。時代も違うかもしれない。でも何百、何千、何万繰り返してたら会えるかもしれない」
「何も変わらないね。前に進むだけしかとりえない。」
少し頭を掻きながら笑っていたが目だけは私をしっかり捉えていた。
「いずるはどうしたい?」
「そんな2回目のプロポーズみたいなこと言われたら進まないわけにはいかない」
手元にアルバムを引き寄せ、2人で手を重ねゆっくりページを捲る。そこにあった写真は白い天井、点滴の数々、右側が暗く、左側は対照的に綺麗なオレンジ色をしていてお父さんとお母さんがお互いの手と私の手を握っている写真だった。広が語る。
「あの日俺たちは産婦人科に向かってたんだ。車で向かってた。対向車のトラックが車線をはみ出したんだ。それで俺は死んだ、いずるは生きてたみたいで安心した。」
私は死ななかったでも彼は。
「あかちゃんは?」
それしか言えなかった。
「だからこれから確める。いずるは生きてた。ひとまず第一関門はクリアだ」
目の前に病室が現れて医者が入ってきた。私は一番最初に赤ちゃんについて聞いたがまずは色々確認させて欲しいと言われ、大きな掠れ声で子供と夫について答えるよう怒鳴った。病室が静寂に包まれ全てを悟り泣き叫ぶ私が2人。ベッドの私は両親に、記憶を手繰る私は広とテリーに身を寄せ合っていた。
私はぶつけようのない怒りと無力さを呪い、自分の命と引き換えに子供を返すよう懇願した。
「オフッオフッ!」
テリーが大きく吠え振り返ると目を疑った。臍の緒が繋がったままの赤ん坊がそこにはいた。臍の緒の先は切られているわけでもなく虚空でぼやける形で途切れていた。
私と広は2人でその子を抱き上げた。暖かい。生きてる。生まれる予定の何週間も前だったからだろう。産婦人科で見かけた赤ちゃんよりひとまわり小さかった。臍の緒が繋がったままの赤ちゃんは泣くことはできない。でも私たちの腕の中で欠伸をし笑った。
2人で泣いて、感謝して、謝った。本当に短い時間だった腕の中の赤ちゃんは消えてしまった。行かないでと懇願する私に広は泣きながら首を横に振る。
2人で抱き合いながらずっと泣いていた。長い時間そうしていたと思う。涙も声も枯れた。しゃがれた声で呟く。
「絶対会いにいく。あの子にもあなたにもテリーにも」
「俺も同じだ。あの子といずるとテリーに」
「オフッ!」
「テリーもそうしてくれるの?」
当たり前だと言わんばかりに飛びかってくる。2人でそのまま後ろに倒れる。
『絶対だ』
『絶対だよ』
2人の声が重なり、広も消えた。残された私とテリー。テリーが優しく私の顔を舐め、私はお返しに優しく頭を撫でた。
「テリーも入れて4人でまた会わないとね」
書きながら入院中での生活や手術直後のことを思い出していました。
また毎日何度も救急車の音が聞こえていて、毎日これだけの救急患者が運ばれ、どれだけのひとが亡くなってしまい、たくさんの人が1人を助けるために日々奮闘されている事実を再認識しました。
生きるって大変ですがとてもすごいことですね!




