遺言の全文
コミュニティに従事し始めてから2年が経った。
私が指南した人がどんどん小説家になっていく。中には誰もが聞いたことがある様な大賞にも受賞した人もいるらしい。嬉しかった。嬉しい限りだ。
実際、完成された小説は本当に面白い。
特に、出版業界を悪魔に見立て、打ち倒す光景はなんとも痛快だ。
もう、あの超常現象に頼らなくてもいい。私のマスターピースはこの世に完成された。
書こうとしなくても、他の人が書いてくれる。
もういつ死んでもいい。
せめて短い余暇を過ごして、私も誰にも見せない小説でも書こうかな。
取材のために、ニュースサイトをネットサーフィンしていると、速報の記事があった。
出版業界に大きく関わった人が、連続して、刃物で襲われる事件が発生。数十人は軽傷。数人が死亡。死亡した人の中には、かつてお世話になった出版社の女社長も含まれていた。
それぞれは単独犯だが、きっかけとして、それぞれ違う小説に勇気づけられたと言う。その小説にも共通点があり、参加しているコミュニティからできた産物、つまり私が指南した小説家が書いたものだ。
人死が出てきて痛ましい事件なのに、なおさら嬉しく思えた。
自分の力によって、ドミノ倒しのように世間を動かせた事に胸が躍った。
私は殺人教唆の片棒を担いでしまった。これから、世間や法律に罰せられて、人生が終わる。どうせ、もうすぐ終わるなら、楽しいうちに終わらせるのが一番損失が少ない。
せめて、これだけは世間を含めたみんな伝えたい。
小説と変わらない雰囲気の中、百円で十本売ってたボールペンで書いた。
「あの集団に小説を指南したのは黒田陽葵、この私だ。
悪魔を断罪した救世主に恩寵あれ」
遺言はこれで良し。
ホームセンターで縄を準備する前に、【文芸系ポルターガイスト】によって出てきた小説で断片的に未来を見てみよう。警察やマスコミが来るまでには時間がある。
首に縄をかけるのはそれからでも良い。
【おしまい】
この小説の作者です。
みんなも「集団」には気をつけましょう。