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遺言と私小説  作者: 朋樹
2/5

回想、そして断絶

「ただいまーまれーど。」

靴を脱ぎ居間に入ると、叩きつけたあの本が置いてあった。

【遺言と私小説】。

いつ見ても地味なタイトル、そして内容もタイトル通りだ。


あぁ、また読まなければいけないのかぁ…

煩雑に積み上げられた洗い物でシンクが埋まる光景を目の当たりした気分だ。鬱になりそう。あいつのせいだ、重蔵。

今はもう、他に頼れるところはない。この地獄の業火に一歩ずつ突っ込むしかない。洗い物なんて今やれば済むんだ、めんどくさい。

深く読もう。モクドク黙読。


ページを開いた。


「最愛の娘が死んだ。自殺だった。」


本を閉じない。私は動じない。wwwwaわわ私はrre冷say、ダッ!!!


ホントこの一行目のインパクトが来るとわかってても、圧倒されてしまう。花火倉庫に着火した様な爆発と衝撃だよ。

大丈夫、人はいずれ死ぬんだ。何なら、死は救済なんだ。いや馬鹿馬鹿しいわ、そのロジック。


最初に自分の娘が喪った悲しみ、それからは、夫婦の出会い、私の生い立ちと続く。この夫婦の出会いの辺りが少々鼻がつく。

とにかく重蔵が女々しく見えてしまう。別の方向で気持ち悪い。


重蔵とお母さんは幼馴染で、お母さんは美人だけど男勝り。一方で、重蔵は鬱屈していた雰囲気で本や新聞ばかりを読んでいたので、いじめのターゲットになった。重蔵に暴力を振るった不良を、お母さんが拳一つで追い払っていたらしい。流石に頑張れ、重蔵。男だろ。


結婚ができる年齢になってから、重蔵の政略結婚の見合いを強制的に執り行われたが、その見合いにお母さんが乱入して、そのまま重蔵をお姫様抱っこして駆け落ち。どっちがお姫様だよ。普通は逆でしょ、重蔵。男だろ。


こういうのは、フィクションだろうとノンフィクションだろうと、読書に好かれようするのは、当然の立ち回りか。とどのつまり、読者に媚びているんだ。


そうだよ、絶対媚びてる。

重蔵は家の中で話しかけられる時は、いつも無表情だ。腕を組み、股を開き、まるで父親とは畏怖されるべき、家族のヒエラルキーは私が最上位と言わんばかりに、仁王立ちをしていた。あのイメージと全然ちがう。これは嘘だ。


いや、思い出した。母さんは重蔵の為ににお酒や大量のつまみを買っていた。酒は嫌いだし、健康に悪いから叱責していた。


その度に、お母さん言ってたな。お父さん、酔っ払うと物凄く私に甘えん坊なるんよ、と。またあの顔が見たくてつい買ってあげちゃうんだよ、と。

今思うと、夜中の甲高い猫撫で声は重蔵だったのか。お母さんの惚気た顔も含めて、夏の暑さにはちょうどいい怪談話だった。逆に、そう思いたい。

ある意味では、このエピソードに嘘は書いてはいないのか。


そして私が生まれたという流れになって、問題の一文。


「私には小説と金しかない。

家族にできる事は、自分が持てる少ない手札で、女房を支え、陽葵に贅沢させてやることしかない。」


そういうところだよ重蔵。

やっと想像以下の人物像が見えた。やっぱお前はこうなんだ。

逆に安心する様にため息をついた。


重蔵は昔から考え方は偏っていた。

性別によって生活の適性が違って、

女性は育児、男性は仕事に立つのが健全な家族の在り方。

もし女性に限界が来たら、男性が支える。男性に限界が来たら、女性が支える。支える際の手段は、法律に反しない限り、選ばない。


これを亭主関白と褒め称えるのは簡単だ。しかし時代は進化し、世間は男女平等を叫んでる。家族全員で喜びも苦しみも一緒に背負っていくのが正しい時代なんだ。何でも金で解決させる事が汚いし、鼻につく。


使用人は1、2人住み込みで雇っていたが、お母さんも家事をやらされていた。ずぅーーっと家事で立っていて、いつも苦しそうだった。

私の前では常に笑顔を作っていたが、いつも陰でため息をついていたのを聞き逃さなかった。きっと重蔵に何か言われたに違いない。母は重蔵に操られている。私にはそう確信した。


だからお母さんを連れて、家出をした。


処女作を発刊し、一人暮らしでも生きていける様になった高校時代。

お母さんを夕飯の買い物中を狙い、薬で眠らせて、今も住み続けている事故物件に連れ込んで、早い話、拉致監禁だ。

自分がしていることが犯罪なのは言われなくても知っている。でも、こうしないとお母さんは重蔵から救われないんだ。

わかるだろ?わかってくれよ。


決行日は、お母さんの誕生日だ。

父親というしがらみから解放してあげて、私が一生懸命に考えた「真の自由」をお母さんにプレゼントしてあげたんだ。慈悲深い親孝行だろ?


なのに、翌日の朝にはお母さんは自ら実家に戻っていた。

今でも理解できない。なぜ自由を捨てるのか。


重蔵はこの事について、こう書いていた。


妻は、自分の娘に手に掛けられたショックで、酷く狼狽えていた。

目的は何となくは理解していた。

家出するにも、手順が存在する。妻に涙と悲しみで満ち溢れた表情をさせるくらいなら、誰かしら相談して欲しかった。私以外でもいい。友達とか一人ぐらいは打ち明ける人がいたはずなのに。


うるせぇよ。誰のせいで、友達がいなかったと思ってんだよ。

小学生の頃から、あれほど重蔵にだけは授業参観に連れ行くなよって念押ししたのに、見かけた人全員、成金という言葉を連想させる程にスーツと中折れ帽を決めまくったのを、忘れちゃいねぇからな。


周りの保護者、教師やクラスメイト、自分も含めた教室にいる人全員ドン引いてたよ。学校内で有る事無い事ウワサになって他人に声かけられなかったからな。そのウワサが外にまで広がっていたから、安易に中学・高校デビューもできなかったんだよ。余計な父性だったよ。


トラウマを掘り返されてキレていたのも束の間、妙な違和感に気づく。

急に、今から二、三年間のエピソードがごっそり抜けている。いや、そこが知りたいんだが。


そして、自分で書いたと思われる遺言はこれだけだった。


「悪魔を断罪した救世主に恩寵あれ」


正直に言うと、読んでも意味が理解できない。

ホントに自分が描いたのか?頭おかしいんじゃねぇか。

その脚色は流石にギャップ萌えはしないぞ。


結局、最後まで読んでも、自殺するまでに至った理由はわからなかった。

しかし重蔵は、漫画やアニメなどのフィクションによく出てくる伏線みたいな意味深な書き方で、怒りを滲ませながら、こう書いていた。


正義のヒーローみたいな面をして、文字で表せない大罪を犯した。

自ら命を絶てなくても、国が死刑にしなくても、世間からのしっぺ返しが来るのは時間の問題だった。

私は陽葵を唆した絶対にあの集団は許さない。


片っ端からスマホの連絡先を絶っていった。

私は清廉潔白だ。他人からの干渉なしで、他人に恨まれる大罪を犯すはずがない。これから何か大きなことをしでかすなら、その原因は絶対に他人ないし「集団」にある。おそらく「集団」の誰かに唆されて、そして…考えたくない考えたくない。やはりというか、なんというか、人間関係なんて地獄への片道切符にしかならないんだな。


試しにアルミホイルを頭に巻いてはみたけど、それはやめた。頭にアルミホイルを巻く姿が電波に見えた。それに、生まれ持った気高い精神で電波を跳ね除けているから思考を盗聴なんかされないさ。


大体はするべきことは決まった。

一応こんな本でも、感謝はしよう。点の様な細さでも、光明を示してくれたのだから。今日は安心して眠れそうだ。

この小説の作者です。

良い子のみんなは絶対真似しないでね!

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