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野良Gの来訪

作者: 一色強兵

今朝、起きたら天井にGがいた。


マンションの8階に住むようになって、いろいろと驚かされたことがある。

まず、地面と距離が開いたせいか、空気が乾燥していることだ。

ベランダのひさしで雨がかからないところなど、毎日水やりを欠かさないとすぐに鉢植えは枯れる。

洗濯物の乾きも一軒家に住んでいた時とは比較にならないほど早い。風通しや日当たりの問題もあるんだろうが、水の逃げ足が恐ろしく速いのである。


そして、この乾燥度が効いているのか、虫が少ないのだ。

一軒家の1階付近のことを考えれば雲泥の差である。虫というのは地面の水分がないと困る生き物らしい。


大型の羽を持つトンボやスズメバチ、蝶や蛾も思ったよりはやってこない。むしろ野鳥の類、つまりスズメ、ハクセイキレイ、イソヒヨドリとか、夕方あたりからのコウモリの方がよほど目立っている。まあ、彼等がいるからなおさら、虫は寄りつかないのかもしれないが。


こんな状態なので、Gがホントにいないのである。

マンションが完成し、入居直後に一回目撃した後、何年もGを我が家で見ることはなかった。

たぶん最初に見かけたヤツは、引越荷物か何かにくっついていたんだろう。

見かけてから相当時間が経った後、部屋の隅のほこりにまみれた乾燥してカラカラになったGを見つけたからやはり地面が離れたらそう長くは生きられないようだ。

昨年は干からびたスズメバチの死骸をサッシのところで発見した。迷い込んで出られなくなっていたらしい。二重窓って虫殺しになりやすいんだよ。


で、久しぶりに現れた今朝のGなのだが、なんか様子がおかしい。

熱中症警戒アラートのせいで、この夏は窓を閉め切り、エアコンつけっぱなしの状態が続いていたが、ようやく気温が落ち着いてきたので、窓を全開にしていたのである。

だからこのGは窓からやってきたに違いない。それもおそらく飛んだか、風に乗ってきたんだろう。


ちなみに、虫はそう多くないが、クモならものすごく多い。これもマンションで発見したことだが、クモって、糸をおしりから垂らした状態だと、気流に乗って相当遠くまで飛んで移動できるようだ。

台風なんかで大風が吹くと、家のまわりの蜘蛛の巣もきれいに無くなるのだが、その翌日にはもう蜘蛛の巣だらけに戻るのである。単純に元に戻るというのではなく、人間が行き来する通路にデタラメに巣が張られたりしているのだ。風に乗ったとしか考えられない高所との間に長い糸を張っているのである。

ま、いくら頑張っても虫は少ないからきっと生活は厳しいはずなのだが。


なので、今回のGもたぶん何かの拍子に風に乗って我が家まで辿り着いたんだろうと、推測したわけだ。


で、このGの何がおかしいのかと言うと、見かけはごく普通のクロGで、大きさも普通なのだが、まず動きが鈍い。わずかに動きを見せるものの、二三歩歩いたらすぐお休みで、天井の隅からほとんど動かないのだ。さらに言えば、部屋の電気をつけ、その下へこちらが近づいても一切何の反応も示さない。

私の記憶にある、一軒家に住んでいたGは、電気をつけたり、こちらが部屋に入った瞬間、猛烈な速さで物陰に隠れるのがGというモノだった。

ところが、このGは、人間を一切警戒する様子がない。そして食い物を物色している様子もない。

自分が迷い込んでしまったこの世界に困惑している、そんな感じなのである。

そりゃ、異世界にいきなり一人放り出されたら、こうなるよね、などとなろう小説で学習していればそれぐらいの推測はつくのである。


どうも森育ちの野良Gっぽい。

ウチの同居希望者とは思えない、そもそも、人の家で暮らす能力に欠けていることは間違い無い。

高い天井のところから動かないので手が届かないが、近場まで下りてきたら捕まえて外で離してやることにした。


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