表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

第一話 千人斬りと可愛い妹


「俺、千人斬りするわ」


 昼休みの教室。五味(ごみ)秀一(しゅういち)は、周囲の面々に宣言した。


 一緒に昼食を食べているのは、クラスの親しい男子生徒達。


 北海道立豊平(とよひら)高校。その一年。冬休みの二週間前。


「出たよ、ヤリチン発言」


 周囲にいる男子の一人――川村(かわむら)が、声を上げて笑った。


 川村には恋人がいる。その彼女も、五味が寝た女の一人だった。川村と付き合う前のことではない。つい三週間ほど前の話だ。もちろん川村は、その事実を知らない。


 ――自分はスタイルがよく、顔もいい。


 五味がそう自覚し始めたのは、小学校六年の頃だった。きっかけは、近所に住む顔見知りの女子高生に声をかけられたこと。


「私と一緒に遊ばない?」


 彼女の家に行って、散々下品な話をした。二度目に遊びに行ったとき、彼女と寝た。彼女は、初めて女を知った五味を、楽しそうに眺めていた。


 女と寝る。その快楽を知り、同時に自分の魅力にも気付いた。五味は、歯止めが利かなくなった。


 中学生になると、次々と女を口説いた。五味の誘いに乗らない女も、少なからずいた。しかし、いわゆるカースト上位の女達は、耳触りのいい言葉と甘い囁きで、簡単に落ちた。ルックスのいい五味に口説かれたことが、彼女達のステータスにもなっていたのだろう。


 中学時代だけで、五味の経験人数は四十人を超えた。


 セックスは楽しいし、気持ちいい。しかも、自分はモテる。だったら、できるだけたくさんの女とセックスをしたい。いっそのこと、寝た女の数を大台に乗せたい。


 大台といえば、百人か? いや。それくらいは簡単に達成できる。中学のときだけで四十二人と寝た。高校に入ってからも、すでに十八人と寝ている。合計で六十人。百人まで、あとたったの四十人だ。


 それなら、さらに大台を目指そう。百人程度じゃなく、千人だ。


 自分の目標を、昼休み中の教室で高らかに宣言した。五味の周囲の男子は、大笑いしていた。


「お前らしいな」

「クズ野郎だな」


 口々に、楽しそうに言う面々。いわゆる、クラスカースト上位の男子勢。もちろん、みんな彼女がいる。その半数は、五味とすでに寝ているのだが。


「でもよ、五味。学校中の女とヤッたとしても、千人になんてならねぇぞ? どうすんだ?」


 真面目な質問ではない。あくまで、五味を茶化す質問。


 五味は鼻で笑った。


「女は、学校の外にだっているだろ。よその学校にだっているし、コンビニとかの、店の店員もいるし」

「ナンパかよ」

「当たり前だろ」

「ヤッた後はどうすんだよ?」

「別に。俺は、好きだとか可愛いとかは言うけど、付き合ってくれなんて言わねぇし」

「ほとんど詐欺じゃねぇか」


 また、五味の周囲の男子達は大笑いした。


 昼休み終了のチャイムが鳴った。


 ◆


 富井(とみい)京也(きょうや)の両親が離婚したのは、京也自身が小学校四年のとき。妹の麻衣(まい)が三年生のときだった。


 二人は、両親の離婚によって引き離された。京也は父と、麻衣は母と暮らすことになった。とはいえ、生活の距離が大きく離れたわけではない。


 地下鉄が走る、北海道の大都市。家を出て行ったのは、母と麻衣。離婚後の両親の家は、地下鉄駅で三駅ほどしか離れていなかった。


 その頃、京也は、少年野球のリトルリーグに所属していた。四年生にして、一番セカンド。ボールコントロールの良さと足の速さは、同じチームの誰よりも優れていた。


 京也と麻衣は、仲のいい兄妹だった。京也の試合のとき、麻衣は必ず応援に駆けつけた。試合以外のときも、二人は頻繁に会っていた。京也に手紙を書いてくれたこともあった。麻衣の書く字は、小学生とは思えないほど綺麗だった。


 仲が(こじ)れて別れた両親も、二人が会うことを止めはしなかった。


 二人の間に距離ができたのは、京也が中学生になった頃だった。


 父の会社が倒産した。


 京也は所属していた野球部を辞め、新聞配達のアルバイトを始めた。家計を助けるために。朝刊と夕刊の配達。


 早朝三時半に起床して、新聞を配りに家を出る。帰宅したら学校。放課後は、午後四時半から夕刊を配る。六時過ぎに帰宅し、パートを掛け持ちしている父に代わって家事をする。次の日の朝刊配達に備えて、午後九時半には布団に入る。


 当然、麻衣と会う時間の確保は難しくなっていった。


 以前は、毎週土日のどちらか、もしくは両方とも会っていた。京也が新聞配達を始めてから、会う頻度はどんどん減っていった。


 毎週から、毎月へ。毎月から、二ヶ月に一回へ。二ヶ月も会わないと、連絡するのも気まずくなり。


 気が付くと、疎遠になっていた。


 父の再就職が決まり、京也は、アルバイトをする必要がなくなった。それでも京也は、新聞配達のアルバイトを辞めなかった。


 豊平高校へ進学しても、野球は再開しなかった。持ち前の俊足やボールコントロールは健在だったが、それよりも、家計を助けることを優先した。


 その頃には、もう、麻衣と会うことはなくなっていた。


 会わなくても別にいい、なんて存在ではないのに。今でも、妹のことが可愛いのに。ただ、今さら連絡するのが気まずかった。


 昔みたいに、仲睦まじい兄妹に戻りたいのに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさかの五味くん主人公(*^^*) いつものゴミっぷりに期待しております(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ぺこ [気になる点] 兄妹がかわいい……(/_;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ