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始まり③

「確かに藍はずっと休んでるわね。それがどうかした?」


 恵美は動揺する事なく、普通に笑顔で返すと麗の瞳がいつもより輝いているような気がした。


「その子ね、O市にある例の団地に行くって言ってたらしいの。ひょっとしたら本当に行ってひとりかくれんぼをしたんじゃ――」


「麗やめて!!」


 麗が一人、テンションを上げながら話している所で、恵美は思わず立ち上がりそれを遮った。恵美の突然の拒絶に、麗は目を丸くさせて驚いているようだ。普段から大きなその瞳を更に見開き、恵美の事を見つめていた。


「麗、あの団地じゃ本当に人が一人亡くなってるって言ったでしょ! 面白半分にそんな事話さないで!!」


 恵美は忘れたい過去の事を麗が面白がっているような気がして思わずきつく、吐き捨てるような言い方をしてしまう。しんと静まり返った雰囲気の中、恵美がふと我に返った時、麗が悲しそうな顔をしている事にようやく気付いた。


「ご、ごめん、こんな話面白くないよね」


 眉根を寄せて、必死に笑顔を作りながら目を逸らした麗を見て、恵美はいたたまれない気持ちになる。


麗に悪気がない事なんてわかっていた。何もあんな言い方なんてしなくてよかったのに。悪いのは私、今もあの時も……。


「ふぅ」


 恵美は目を瞑り、息を大きく吐くと麗をまっすぐ見つめた。


「麗ごめんね。私からも話があるから放課後一緒に帰ってくれる?」


「うん、もちろん」


 力なく笑う麗を見て、恵美は胸が締め付けられるような気持ちになる。


 放課後、恵美達はいつもより言葉少なに歩いていた。いつものように恵美の横を歩く麗との距離がこの日は少し遠いような気さえした。

 二人は街の中心にある公園に着くと、揃ってベンチに腰を下ろす。


「恵美、ごめんね。私あんなに言われてたのに勝手に一人で盛り上がっちゃって、最低だよね」


 重い空気を嫌ったのか麗の方から謝罪の言葉を口にした。恵美は少し驚いたが、すぐに笑顔でかぶりを振り、麗の頭を撫でる。


「違うの麗。悪いのはたぶん私なの。何も話してなかった私が悪いの……麗、あの団地の噂話どんなのだったかもう一回ちゃんと教えてくれない?」


「え、あ、うん。確か身代わりのぬいぐるみを持って深夜零時にひとりかくれんぼを始めるの。ただ普通のひとりかくれんぼと違ってテレビの電源を入れたり、お風呂に水を張ったりする訳じゃなくて、ただ単に身代わりのぬいぐるみと一緒に隠れるだけ。隠れ終わって、もういいよーって言ったら希ちゃんが探しに来るって。そして見つかったら身代わりのぬいぐるみを差し出すの。希ちゃんがぬいぐるみを連れて行ったらその隙に団地を出なくちゃいけない。もし希ちゃんが身代わりに気付いて団地を出る前に見つかったら連れて行かれるって」


「そっか、そんな感じか」


 麗の話を聞いて恵美は大きく息を吐いた。


「麗、よく聞いてね。私ね、小さい時O市に住んでたの。だからその団地の事もよく知ってるし……希ちゃんの事も知ってるわ。ただ私が知ってるのはお化けの希ちゃんじゃなくて生前の生きてた頃の希ちゃんだけどね」


 恵美の突然の告白に麗は驚きの表情を浮かべていた。恵美は意を決してそのまま更に話を続ける。


「私と希ちゃんはあの団地でよく一緒に遊んでいたの。そしてあの日も私達は遊んでいた。ただ些細な事から私達は別々になって……その日、希ちゃんは行方不明になって亡くなってしまった……希ちゃんがいなくなった日、私は一緒に遊んでいたのに……私のせいなの、私のせいで希ちゃんは……」


 恵美はそこまで話した所で涙が溢れて話せなくなってしまった。声を詰まらて泣く恵美を麗が必死に抱き締める。


「ごめん! 本当にごめんなさい。私全然知らなくて、恵美の過去に土足で入り込んでいた。本当にごめん、恵美は悪くない、悪くないから」


 麗は泣きながら謝り、恵美を強く抱き締める。恵美も麗の腰に手を回し、胸に顔を埋めて声を押し殺すように泣いていた。

 暫くして少し落ち着いた恵美が顔を上げると、麗は目を真っ赤にしてこちらを見つめていた。


「恵美ごめんね。そんな過去があったなんて私知らなくて。私本当に無神経だよね」


「ううん、ちゃんと話してなかった私が悪いの。麗は私の為にこんなに泣いてくれてるじゃない」


 そう言って恵美が麗の目元を指で拭うと、麗は満面の笑みを浮かべた。恵美も微笑み、ふぅと息をついた時、周りからの視線に気が付いた。


 公園の中心で二人は先程まで泣きながらお互いを抱き締め、今は微笑みあっている。先程まで泣いていたせいもあってお互いの顔は紅潮しており、スッキリ話せたせいか異常に近い距離でお互いを見つめて微笑んでいた。


 女子高生二人がベンチで座って抱き締めあって泣いた後、頬を赤めてお互いを見つめている。あまつさえ恵美は麗の頬を撫でるように手を添えていた。

 周りの人達は眉間に皺を寄せて嫌悪感を示す人やニヤニヤと笑みを浮かべながら好奇の目で見てくる人等、様々な視線が恵美達に向けられていた。


「麗、ごめん、場所変えようか」


「うん? どうしたの?」


 頬を赤く染めたまま、麗は微笑み優しく恵美の頬を撫でると、周りからの疑惑の眼差しが更に強まるのを恵美は感じた。

 優しく撫でる麗の手をゆっくりと掴み、恵美は小声で語りかける。


「麗、お願い、周り見て」


 恵美の言葉を聞いて周りを見た麗も周りの視線にようやく気付き、二人は俯きながら足早にその場を後にした。


「はは、ごめんね、なんか変な目で見られてたね」


「私はちゃんと彼氏もいるしノーマルなんだけどね。まぁでも私と麗なら様になるかもね」


 軽く冗談を言いながら二人で駅に向かって歩いていると突然麗が笑顔を浮かべて近付く。


「じゃあもし恵美が彼氏と別れたら私が本当に慰めてあげようか?」


 そう言って恵美の頬を撫でながら顔を近付け、妖艶な笑みを浮かべていた。


「ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?」


「あはは、冗談だって」


 そう言って明るく笑う麗を見て、二人で楽しく笑っていた。恵美はその時、少しだけドキッとしたのは心に秘めておく事にする。


「じゃあ私はちょっと寄ってく所があるからまた明日ね」


 そう言って麗は笑顔で手を振りながら街の雑踏の中へと消えて行った。

 麗と別れた恵美は少しすっきりとした気持ちで帰路に着く。

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